「働き方改革」より「生き方改革」。日本版ライフシフトを実現するポイント

「ライフシフト」とは、自分の機軸に合わせて、人生を選択することを指します。ミライフ代表の佐藤雄佑も、前職のリクルート時代に半年間の男性育児休暇を取得し、大きなライフシフトを経験。そのきっかけとなったのは、ある本との出会いでした。今回は、より充実した人生を送るためには何が大切なのかをひも解きます。
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激ボスをイクボスに変えた2冊の本との出会い

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▲ファザーリング・ジャパンの安藤哲也さん(写真左)。彼の執筆した本が、“激ボス”だった佐藤を変えた

株式会社リクルートキャリア(旧 リクルートエージェント)で、マネージャーとして「圧倒的」をモットーに、ハードに仕事していた佐藤。

しかし、リーマンショックによる早期退職の募集でメンバーを守れなかったこと、東日本大震災で人生がこんなにも変わってしまうのだと痛感するというふたつの出来事を通じて、「仕事だけの人生ではなく、ちゃんと自分の人生と向き合わないと、後悔するかもしれない」と感じはじめます。

その気持ちがピークに達したのが、子どもが生まれた頃のことでした。佐藤の妻が出産して、実家に戻っている3週間で、佐藤は育児本を20冊以上、読破します。その中に、子育てや家事に参加したい父親を応援する、NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事である安藤哲也さんが執筆した『パパの極意』『パパ1年生』という2冊がありました。

佐藤 「この2冊を読んで、このままの自分じゃヤバいなと思いました。このまま子育てや家族のフォローをしないと人生後悔することになると感じたんです。当時は安藤さんに会ったことはありませんでしたが、この本の影響で男性育児休暇を取ろうと決めました」

その後、安藤さんと直接食事に行く機会を得た佐藤は、安藤さんが運営する「ファザーリングスクール」を紹介され、通うことにします。

料理や掃除、子どもとバルーンで遊ぶなど、全10回にわたる講座を通じて、佐藤は少しずつイクメンの度合いを増やしていきました。佐藤にとって、安藤さんは「自分にとって、父親をやるうえでの先生みたいな人」だといいます。

2014年3月からは、企業向けに講座や研修を実施し、変革をしていく「イクボスプロジェクト」を共に進めている安藤さんと佐藤。

そもそも、なぜ安藤さんはファザーリング・ジャパンを立ち上げることになったのでしょうか。

3度のライフシフトは安藤さんに大きな変化をもたらした

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▲東京・大塚駅前の書店で店長をしていた頃の安藤さん。1回目のライフシフトを経験した

安藤さんの経歴は多彩で、転職回数は実に9回。さまざまな経験をお持ちです。キャリアのスタートは実用書専門の出版社。そこで、営業を担当しました。

その後、音楽系出版社を経て転職した海外雑誌の日本版を出版する会社では、セールスプロモーションを担当。

ここで安藤さんは、それまで羽振りの良かった先輩社員がバブル経済崩壊によって、リストラに遭う姿を目の当たりにします。

安藤さん 「会社にいれば仕事が来る、言われたことをやっていれば給料もキャリアも伸びていく時代ではなくなる。それなら自分主体の人生を送ろうと考えたんです」

そして安藤さんは、30歳のときに1回目のライフシフトをします。大塚駅前にあった「田村書店」という街の本屋さんの3代目店長に転職したのです。その後、オーナーからもう1軒つくると言われ、安藤さんは1996年に千駄木に「往来堂書店」をオープン。

1年後、安藤さんにとって2回目のライフシフトが訪れます。それは、長女が生まれたことでした。

当時はまだ「イクメン」という言葉もなく、父親が働いて家族を養うのが主流でしたが、安藤さんは「育児は自分が変わる・成長するキッカケになるんじゃないか」と育児に積極的に関わってきました。

安藤さん 「本屋は22時までやっていたし、妻もフルタイム勤務。保育園は僕の店からの方が近かったので、妻が時短勤務ではなくなってからは、僕が迎えに行って、おんぶしたまま店に立っていました(笑)」

この経験が、後のファザーリング・ジャパン設立につながっていきます。

往来堂書店を退職した後、オンライン書店や電子書籍事業を手がける会社を経て、楽天に転職。子育てについて自分でやってみて分かったことをセオリー化し、日本の悩める父親や、ワンオペ育児に悩む母親に届けられたら、と本を執筆。これが佐藤に影響を与えた『パパの極意』という本でした。

安藤さん自身は管理職だったこともあり、子どものことで休みは取りやすい環境でしたが、平社員の人たちはなかなか言えない。そんな日本社会を変えたいと思い、安藤さんは44歳でファザーリング・ジャパンを立ち上げます。これが、安藤さんにとって3回目のライフシフトになりました。

正式にNPO法人として承認されたのは、2007年4月4日。当時の検定ブームに乗って「子育てパパ力検定」を作りました。

これが読売新聞で取り上げられたのをキッカケに、開催1週間前からメディアの問い合わせが殺到。検定当日は日曜日でしたが、会場に借りた大学の階段教室にはキー局のカメラが並んだといいます。最終的に、海外も含め150ものメディアに取り上げられ、ファザーリング・ジャパンには、それ以前の10倍もの講演依頼が殺到。

日本初の父親支援のNPOができたことは、全国に広がっていきました。

安藤さん 「設立から12年。2009年のイクメンブーム以降、さまざまなTV番組やイベントにも呼ばれるようになり、『父親のことといえばファザーリング・ジャパンだよね』と言われるようになってきました」

まだブレイクスルーは起きていないと安藤さんは言いますが、20〜30年後には「日本の父親が変わったのは、2006年からだ」と言われる未来が来るはずです。

働き方改革ではなく、「生き方改革」が必要

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▲佐藤も参加した「ファザーリングスクール」の様子。ファザーリングジャパンの活動の甲斐があり、イクメンとしての意識が高まる人も増えている

ファザーリング・ジャパンは、父親支援のNPOとして彼らの悩みやニーズに寄り添ってきました。その活動の甲斐あって、イクメンとしての意識が高まる人も増えています。

一方、やはり職場環境的に帰れない・休めないという声も多く聞こえてきます。

企業側の意識改革も必要と考え、ファザーリング・ジャパンでは、2014年3月に法人向けの「イクボス」プロジェクトをスタート。安藤さんだけで年間200回ほど講演に呼ばれ、ほかのメンバーも引っ張りだこになってきました。

イクボスセミナーの参加者に、安藤さんはよく「あなたたちが仕事以外に熱中できること、会社の同僚以外のコミュニティはありますか?」と質問しますが、50代の男性管理職はほとんど手が挙がらないそうです。

安藤さん 「働き方改革が目的なのではなく、まず『生き方改革』。労働時間はこれから短縮され、休みも増えることが予想されるのに、その浮いた時間を何に使うかを問われても、答えられない人がたくさんいます」

そこで見えてきたキーワードが「ライフシフト」。

パラレルキャリア、定年後の生き方など、他人に言われるのではなく、もっと主体的に自分の人生を決める。ライフもワークも、自らオーナーシップを取っていくことが、これからは重要になってくるはずです。

そんな思いから、安藤さんは2017年10月に「ライフシフト・ジャパン株式会社」を設立。

ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏が執筆した『LIFE SHIFT』の考え方をベースに、日本社会の仕組みや文化に合わせた形で発信したいと考えました。

安藤さん 「ライフシフトする人が増えれば、日本が変わる。あえて『日本人の』これからの課題なんだと言いたかったんです」

最近「人生100年時代」という言葉を耳にするようになりましたが、ライフシフトは老後の準備のために行なうものではありません。

自分が何歳まで働けるのか、働きたいのか。家族とどういう関係でいたいのか、遅くとも40歳頃から考えはじめた方がいいと安藤さんは言います。

ライフシフト・ジャパンのビジョンは、「オーナーシップを取って、自分の人生を選択していくというライフシフトの概念を、日本に定着させること」。

そのために、ライフシフトしている人たちへのインタビューを通じて、ロールモデルを見せ、正しい情報を伝達しようとしています。

未来志向型キャリアデザインが、ライフシフトを後押しする

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▲佐藤の好きな言葉。「何ごとも遅すぎることはない」

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字から取ったVUCA(ブーカ)の時代になった今、会社の言うことを聞いて一生懸命がんばっていれば幸せになれるという世界は夢物語になりました。

これからは変化が前提の時代。今就いている仕事が10年後にはなくなるかもしれないし、自分の子どもたちが就職する頃には、今はまだない仕事に就く可能性は高いでしょう。

そんな時代背景の中で、佐藤は「何をやってきたかより、どう変化していくかの方が重要になってくる」と語ります。

佐藤 「『Never to Late』という言葉が好きなんですが、安藤さんのように40代で起業してもいいし、今までと全然違う仕事をやってもいい。何をするにも、遅すぎることはありません。そうやってライフシフトするほうが、個人としておもしろい人生が送れるのではと思います」

しかし多くの人は、連続性の中で見えている選択肢からしか選べません。

佐藤 「やったことがないからできない、という発想の人と、やったことはないけど何とかなる、と思う人で、人生のハッピー度は変わっていくはずです。だから若い頃に『辛かったけど何とかなった』『初めてやったけど、意外とできた』みたいな経験をどんどん積んでほしいと思っています」

ミライフでは「未来志向型キャリアデザイン」を推進しています。

まず「どうありたいか」「何をしたいか」からくる「理想未来」を置き、一方で「どうなりたくないか」など「したくないこと」を考えます。両軸で考えることで「理想未来」が明確になり、そこに行くための道を考えるというもの。

今の会社にいるままでは、理想未来にたどり着けないのであれば、その連続的なキャリアを断ち切る必要があります。これがライフシフトであり、ミライフでいうところの「非連続なチャレンジ」です。ミライフではこのチャレンジを応援していきたいと考えています。

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