「幸福学×性格のいい会社」これからの時代のいい人材が集まる会社のつくり方

ミライフ代表の佐藤雄佑には、持続的な成長を続ける企業や人材を考える際、参考にしている考え方があります。それが慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授(以下、前野先生)が提唱する「幸せの4因子」です。今回は、いい人材が集まる会社について考えていきます。
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世界的に、金・モノ・地位から安全・健康・心を求める時代に

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▲前野先生が唱える幸せの定義

前野先生のキャリアは、意外にもキヤノンのエンジニアからスタートします。その後、大学でロボットの研究をはじめました。ロボット研究者にはさまざまなタイプがいますが、前野先生は「ロボット×心理学」を軸に、ロボットと触れ合うことによってコミュニケーションがどう変わるかについて研究していたといいます。

ロボットから幸福学の研究に移ったのは、心理学研究を軸にロボットではなく人間の研究をするようになったから。よく「全然違う分野ですね」と言われるそうですが、前野先生の中では「ちょっと方向転換したくらい」とのこと。

前野先生は、幸せの定義について「地位財(金・モノ・地位)」と「非地位財(安全・健康・心)」に分け、後者の幸せのほうが長続きすると提唱しています。

そのうえで、非地位財のうち「心」に注目し、幸せの心理的要因に関連するアンケートを実施。2011年にその結果を因子分析して「幸せの4つの因子」を発表しました。

その4因子とは、「やってみよう(夢・目標、強み、成長、自己肯定感)」「ありがとう(感謝、利他、許容、承認、信頼、尊敬、自己有用感)」「なんとかなる(前向き、楽観性、自己受容)」「ありのままに(独立、自分らしさ)」を指します。

前野先生 「僕はただ、いろんな心理学者が明らかにしていた『幸せに関する心の要因』をインタビューし、分析しただけです。老子やキリストも言っているようなことなので、今後1000年以上は色あせないと思いますよ(笑)」

幸せについて考える際、佐藤がいつも意識しているのも、地位財と非地位財のことです。

高度経済成長期には、みんなが地位財を求め、それが幸せの姿でしたが、成長が鈍化し安定している現代では、それだけで幸せなのか?という風潮になってきました。

佐藤 「私はリクルートで人材ビジネスをずっとしてきましたが、明確にリーマンショックと東日本大震災を通じて、転職希望者の転職理由が明確に変わってきたんですよね。
もともとは『キャリアアップ』という言葉がすごく多かった気がします。ただ、リーマンショックと、東日本大震災を経て『自分らしい』や『やりがい』などといった言葉が明確に増えてきて、『キャリアアップ』っていう言葉を、私たちですら使わなくなってきました。アップもダウンもないみたいな」
前野先生 「人々の幸せが非地位財型の幸せに移ってきたんでしょうね。これは僕ではなく、イギリスの心理学者 ダニエル・ネトル先生が言っていることですが、世界の流れ的にも地位財型から非地位財型に変わらざるを得ない、変わっていく時代が来たんだと思います」

アメリカでは地位財を好む傾向が今でもありますが、“右肩上がり”の時代が終わると地位財型の幸せが次々に得られる社会ではなくなります。地位財による幸せは長続きしないため、幸福度が下がります。

だから、経済学・経営学・心理学などあらゆる分野で、非地位財への興味が世界的に広まっている傾向があるのです。

幸福度が高い人の生産性は1.3倍! 自立・自走する組織のつくり方

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▲佐藤が影響を受けた本

非地位財型の世界に移行しつつある中、働く人にとっての幸せはどう変化していくのでしょうか。

実はすでに海外のみならず日本にも、社員の幸福度が高いと会社経営もうまくいくという事例がいくつもあります。

また、アメリカの研究によると、幸福度の高い人はそうでない人に比べ約1.3倍も生産性が高いというデータもあります。

前野先生 「社員の幸福度を上げるのは働き方改革の王様と言ってもいいくらい。生産性をいかに上げるかを考える際、無駄を排除するばかりではいけません。仕事中の雑談すら無駄と言われると、コミュニケーション不足によって幸福度は下がります。そうすると、いくら無駄を排除しても一向に生産性が上がらないという悪循環に陥ることになりかねません」

世界を見渡すと、先進的な企業は「ホラクラシー(組織全体に権限を分散させ意思決定させること)」や「ティール(組織をひとつの生命体として捉える)」のような組織を目指しているのに、「日本だけ逆行している」と前野先生は警鐘を鳴らします。

佐藤は『性格のいい会社』を出版後、全国各地で講演をしていますが、「ウチの会社には無理」というような「できない理由」を訴えられることが多々あります。この場合も変わることは可能なのでしょうか。

前野先生 「本来、みんなが信頼し合って、活き活きと働くというシンプルなことのはず。だから私は『できません』という人の気持ちがわかりません。
たしかに従業員が30万人いるような大企業を一気に変えるのは難しいかもしれませんが、30人の部署で上長と部下が組織の在り方や幸せに働くことについて本気で話し合えば、変わるのは簡単だと思いますよ」

つまり、トップとメンバー全員がその気になれば、幸福度の高い組織はできるはずなのです。「幸せな会社は、必ずトップが強い意志を持って社員を幸せにしようとしている」と前野先生は言います。

実際、『日本でいちばん大切にしたい会社(あさ出版・2008年)』で紹介されている伊那食品工業は、「会社は社員の幸せのためにある」をモットーに、創業以来、増収増益を続けています。

同社には、一般的な会社には必ずある売上目標や利益目標がありません。会社からは目標を課せられず、部署毎に自ら目標を決めているといいます。さらに、その目標を達成したからといって、特に評価されるわけではないというから驚きです。

前野先生 「KPIのように『やらされ感』があると、幸せの4因子にある『やってみよう因子』がダメになります。そうすると、結果的に生産性が下がるんです」

伊那食品工業の社員は、みんなと一緒に働くこと自体が楽しくて、きっと全員が「みんなのために貢献したい」思っているはずだと前野先生は分析しています。

幸福度の高い会社=性格のいい会社なのか?

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▲佐藤が掲げる「性格のいい会社」の考え方。でも前野先生からすると、ちょっと狭い考え方とのご指摘

ミライフが2018年2月に発表した「性格のいい会社ランキング」も、幸福度の高い会社であるはずだと佐藤は考えています。しかし、前野先生の考えは違いました。

性格のいい会社とは、人材に対する考え方(人材ポリシー)が明確にあり、「働きがい(成長・仲間・ビジョン)」と「働き方(生産性・柔軟性・個別性)」を提供している会社を指します。

これは佐藤がリクルートで12年にわたり、さまざまな企業・求職者と向き合い、人事として会社づくりに携わった経験から構造化したもの。いわば、前野先生が行なっている学術的なアプローチとは対極の理論です。

佐藤から説明を聞いた前野先生は、「従来の働き方についてのマップになっている気がする」と一刀両断。佐藤は絶句します。従来視点からのまとめは必要としながらも、そもそも伊那食品工業のような会社がランクインしていないのはおかしいとのこと。

前野先生 「僕は伊那食品工業を筆頭に、性格のいい会社ランキングにランクインしていなくても、幸せな会社をたくさん知っています。もっと幸せの捉えかたを広げるといいと感じました。
たとえば、『自分らしい仕事をしている』というのは、いつでもどこでも働けることだけではなくて、もっと多様じゃないですか。
型にはまった仕事をしないという意味や、能力不足なところはあっても、ちゃんと尊敬されるとか。だから、会社からではなく個人の心から見て再編集していただくと、本当に幸福学×性格のいい会社になっていくと思うんです」

「性格のいい会社ランキング」は、Vorkers社が運営するクチコミサイトのデータを元に算出しています。ところが、伊那食品工業をはじめ、幸福度の高い企業はわざわざクチコミサイトに投稿しない傾向があるため、ランキングには出てこないということがあると思います。

前野先生「すべての会社で性格のいい会社をランキングできる方法を、ぜひ開発してほしい。そうすれば、本当の意味で幸福学×性格のいい会社になると思いますよ」

前野先生の言葉に、佐藤は苦笑いを浮かべるしかありませんでした。

「家族経営」は一周回って新しい

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▲前野先生の研究室の前で。前野先生(左)と佐藤(右)

変化の激しい現代の中で、なぜ伊那食品工業のような家族的な経営を行なう企業が業績を伸ばし続けられるのでしょうか。

前野先生「そもそも企業は本来の姿に立ち返れば『家族』なんです。『家族経営なんて古い』という人がいますが、家族経営には古くから続いているからこその良さや強みがあるんです。
最近ベストセラーになった『ティール組織』という本も、要は家族的な経営の強みについて書いてあるんです」

家族的な経営を行なう会社で働く人は幸せだと前野先生は言います。業績が厳しいときは給料が下がってもみんなで頑張るし、業績が良いときも必要以上の成長を求めないから、みんな家族のように幸せで健全に働いています。そのうえで、さらに堅実に成長を続けている企業が実際に存在するのです。

人口減少社会に向かう日本は、過去の良かったものをうまく取り入れながら、社会が小さかった頃のやり方に少しずつ戻っていくのではと前野先生は考えています。

本当に先駆的な企業は「社員は家族と一緒だ」と気づき、儲かるかどうかよりも社員の幸せを大事にしてきた企業です。

前野先生 「今後は、社員を幸せにしたいと思っていながら、ちゅうちょしていた経営者が『なるほど、生産性も上がるんだな』と安心して舵を切れるようになる支援をしていきたいですね」

前野先生は、自身の研究データをオープンにすることで、もっと自信を持ってみんなが幸せな会社をつくれる時代にしていきたいと考えているのです。

幸福度の高い組織をつくるのは、本来とてもシンプルな考え方のはず。しかし、「会社は成長すべき」「利益は出すものである」という従来の考えに縛られている人は、「自分も仲間も、一緒に働いている人が幸せなほうがいい」ということに気づかないこともあるようです。

「そもそも何のためなのか」という大きな視点で物事を捉えることが、幸せに働くための第一歩になる――佐藤はミライフを通じて、理想未来を描き、幸せに働く人を増やしていきたいと決意を新たにしました。

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