“善い悪い“の概念を超えて…未来食堂が手がける新サービス「サロン18禁」のカラクリ

2015年9月にオープンした「未来食堂」。一見普通の定食屋ながら「あつらえ」「ただめし」など共感を呼ぶシステムを発表し、一気に世間から注目されました。しかし先日発表されたシステム「サロン18禁」は、その真意を図りかねると、戸惑いの声も上がっています。しかし未来食堂の代表 小林せかいは、その戸惑いこそが真に求めていたものだと語ります。
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“優等生像”に染まってしまった未来食堂への危機感

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サロン入り口。足首までシャッターが降ろされ、中の様子を伺うことはできない
未来食堂は、「あなたの“ふつう”をあつらえる」というコアメッセージをかかげる定食屋。今までの飲食店の固定観念を覆す発想で、一気に世間の注目を集めました。お客さんが食べたい、おいしいと思うものをオーダーメイドで作る「あつらえ」。そして50分のお手伝いで、一食無料になる「まかない」。

そして2016年のはじめには、「まかない」を応用した「ただめし」というシステムを開始。これは「まかない」をした人がもらった一食分を自分で食べず、”ただめし券”として他の人に置いていく仕組み。「まかない」をした人が、時間を越えて、困った誰かとつながることができるというものです。

このシステムもまた、世間から注目されるようになります。しかし、未来食堂の代表である小林は、嬉しい反面、この時期から少し危機感を抱きはじめます。「素晴らしいシステムだ、素晴らしい店だ」と持ち上げられるたびに、世間から「道徳的に正しい」という太鼓判を押され続けているように感じていたのです。

「それは予期したものではありません。今この瞬間、既存の道徳観念に縛られずに自由な発想で生み出しているものが、たまたま”道徳的に正しい”と褒め称えられているだけ。“あなた”にとって本当に必要なものを、いっさいの善悪から自由になって発想しているだけなのに、気が付くと優等生と褒められている。この反響は『危険だな』と思いました」(小林)

正の共感はある種の“気持ちよさ”があります。しかし、その気持ちよさは麻薬となり、いつしか自分は“共感を集めるため”にシステムを作るようになってしまう……。共感を集めたいあまりに「みんなが良いと言っているからやろう」と判断基準を外に委ね、自分の頭で考えることを放棄してしまう……。小林は、そうなりうる未来の自分に危機を感じていました。

そしてこの危機感は、次なるシステム、『サロン18禁』の重要なヒントになります。

「『ただめし』によって“優等生”になってしまった未来食堂を、もう一度自由な場所に立ち戻らせる必要があると感じました。“善い”(道徳的に正しい)から行うのではなく、“善い悪い”を超えたところにある本質を行えるお店でありたい。『次に発表するシステムは、絶対に既存の道徳モノさしでは測れないものにしよう』と考えていました」(小林)

そして2016年3月、新しいサービスを開始します。その名も「サロン18禁」。これは月1回オープンする会員制のサロンです。会員になれる人は18歳“未満”だけ。18禁というと、普通は「18歳未満は禁止」。しかしここでは裏返しの、「18歳以上が禁止」という意味をもっています。

「善いもの」ではなく「必要とされるもの」を作る

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18歳未満をターゲットにしたのは、未来食堂でおこなったクリスマス募金にて、お客様に募金先として「こども食堂」を教えていただいたのがキッカケ。実は、サロン18禁は元々構想があったわけではなく、「パッと思いついたコンセプト」だと小林は当時のことを振り返ります。

「未来食堂の理念は『誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所』。“誰もが”の中には子どももいるわけで、子どもを受け入れる形である『こども食堂』は良さそうだと漠然と感じ、実際に視察を重ねました」(小林)

ヒントを求めて、こども食堂へ向かった小林。しかし、その視察に行った小林は「自分だったらここには来たくない」という強烈な違和感を覚えます。

「“世話好きの優しい大人がたくさんいる”“おじいちゃんと仲良く皆でカルタ” …そのような空間に足を踏み入れ、『自分だったら1人でご飯食べてオンラインゲームしているほうがいい』と思ってしまったんです。道徳的に正しすぎて、なんだか居心地が悪かったんですね。ふと昔を振り返ってみると、自分は決して“優等生”ではなかった。だからかもしれません」(小林)

強烈な違和感の正体を、小林は考え続けました。

子どもに対するアプローチを考えたとき、「ご飯を食べられない子」や、「1人で食べている可哀想な子」ばかりをイメージしていたのではないか? しかし、それはごく一部の子どもを切り取っているだけではないか?

「”可哀想な子”を対象とした『こども食堂』の形に引き連られてしまい、未来食堂が“らしく”取り組む在り方が見えていなかった。『子どもと一口にいっても色んな子どもがいる。もっとフラットに考えてもいいはず』 そう気づいた時、『自分のように、何処にも居場所がないと感じている子どもが欲しがる場所を作ればいいんだ』と、バッと視界がひらけました」(小林)

視察前は不明確だった、未来食堂が受け入れるべき人たちの姿。それが明確になった瞬間でした。昔の自分が行きたいと思える場所—— ここから、目指すべき空間作りがはじまります。

「目指したのは『精神的飢えを満たす場所』。精神年齢が高くて、クラスメイトとの会話が合わなかったり、詩や小説をひっそり書いているけれど、友達に話すとバカにされそうだと話せない子たち…。そういった“少し浮いてる子”が、安心できるような場所を目指しました」(小林)

次に発表するシステムは絶対に既存の道徳モノさしでは測れないものにしよう——その決意の通り、「サロン18禁」は“弱者の子どもに強者の大人が手を差し伸べる”という道徳的な在り方と一線を画しています。

「こういうのをやりたい! こういう場所があったらこういう人が絶対に来る!と、ガツンと絵が描けたら実行します。褒められるかどうかは関係ない。それが求められているものなら、やらないといけない。道徳的に正しいかよりも、本質であるかが大事だからです」(小林)

未知の扉は自分で開けるーー“親”と入ることができない「サロン18禁」の仕組み

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“世間に褒められるから”ではなく、“求められているから”という発想をベースに生まれた「サロン18禁」。毎月第2日曜日の11〜18時にオープンしています。正会員になれるのは18歳未満の人だけ。身分証明書確認や規則の読み合わせなど、いわゆる普通の会員制バーと同じ作りです。

「子ども相手だからと、手を抜いた空間にするつもりは全くありません。むしろ今までにないサロンだからこそ、より上質な空間にするよう計らいました。普段は定食屋の未来食堂も、この日は内装を入れ替え、全くのカウンターバーに姿を変えます」(小林)

じつは18歳以上の人でも、正会員の招待に預かればサロン18禁の会員として登録、入店が可能です。しかし身分は副会員。正会員とは権限が違い、サロン18禁の運営に関する決定権はありません。あくまで主役は18歳未満の正会員たちなのです。

サロン内では子ども、18歳未満、未成年という雰囲気を一切出さないように設計しています。たとえば飲み物メニューは「黒/白/ハーフ」。これはお酒のような名前ですが、じつは「珈琲/牛乳/珈琲牛乳」。このように細部までこだわりぬくのは、上質なバーであれば当然です。

そして正会員は、とても強い権限を持ちます。たとえば、正会員6名の同意があると副会員を除名でき、気に入った副会員をサロンマスターとして推薦できます。サロンマスターとは、カウンターに立ち会員をもてなす、言わば”店の顔”です。どういう人をサロンマスターにしたいかを考え、「自分の意見で大人をコントロールできる」仕組みがあります。

そのため副会員の紹介にも、ちょっとした制限があります。正会員の親族二頭身以内は招待できないのです。つまり、親や兄弟をサロンに招待することはできません。

「親御さんにとっては、自分の手が届かないところに子どもがいることが、不安かもしれません。でも、子どもが“副”でなく“正”である空間が本当に魅力的だと考えるなら、その不安は飲み込んでほしい。サロンとは『日常から切り離された空間』です。子どもは、その上質さに戸惑いながらも背伸びして、少しずつ良い大人になっていくもの。友達や親と来るような”日常”と地続きでは意味がありません。未知の扉は自分で開けてほしい」(小林)

サロンの1回目は、3月13日に開催されました。その日は小学5年生から高校生まで、6名のお客様がご来店。中には、すでに自分で稼いでいる人や、小林が想像していた通りの人もいたそうです。

「誰も来ないかもと思っていたので、最初はお客様が来てびっくりしました(笑)。 “クラスで浮いている”って一括りにしても、たとえば理系男子や文系女子など色んな人がいますよね。そういう子たちって普段混じりあわないじゃないですか。お互いのことを知るまで手探りというか、不器用な感じの雰囲気もありました」(小林)

しかし、「副会員の私がお膳立てすることはありません」と小林はその姿勢を崩しません。「居心地が悪い」からはじまってあたりまえ。なぜならこの場所は、まだ体験したことのない、初めての空間なわけですから……。

「今はネット上で何でも解説されている時代だから、二次情報だけでわかった気になることも多い。そんな中で、ゴロッとした『居心地の悪さ』を体験できるのは尊いことです」(小林)

「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」を目指して

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しかし、この「サロン18禁」を開始するにあたって、不安がないわけではありませんでした。

「公開することは、すごく怖かった。なぜなら『自分は中高の頃、こういう社会不適合者でした』と自らの弱点をさらけ出しているようなものだからです」(小林)

じつは、「サロン18禁」が生まれた背景には、小林の思春期時代の原体験があります。当時“浮いている子”だった小林は、知り合いの紹介でゲイバーに足を踏み入れ、衝撃を受けました。本名がわからないまま仲良くなったり、サービスの値段が明確になっていなかったり……。

そこでの大人の姿やお金の使われ方、時間、人付き合いなど、今まで自分が見てきた世界にはないものばかり。そのとき感じた「緊張するけど楽しい」といった感覚を、この「サロン18禁」では再現しているのです。

自分の過去、弱点をさらけ出すことへの恐怖——その不安を押し切り、2016年3月8日、「サロン18禁」の開始を告知します。

「既存の価値判断で測れない空間であるため、細やかな説明が必要だとは思いましたが、それを振りきって、未来食堂のファンが集まっているプラットフォームではなくて、未知のプラットフォームで、文面もすべて第三者に任せた告知を、あえて選びました」(小林)

細やかな説明が必要と考えつつ、第三者にゆだねた理由を、小林はこう語ります。

「この『サロン18禁』は、未来食堂の“わかりやすさ”から一歩離れた、“わからない違和感”を大切にした場所です。そういう意味で、今までのファンや理解者に“わかってもらう ”ことよりも、大きい会社に頼むことで、より多くの人に伝播されることを目標としました。『分からない』と罵倒され炎上することにより、結果伝播される裾野が広がるのであれば、それすらも受け入れようと思ったんです」(小林)

プレスリリースを配信した日は、「1日中ハラハラしていた」といいます。

「自分の脆さを焦点にして炎上が巻き起こるという可能性は、考えただけで怖かった。人によっては、『未来食堂はちゃんと食事をやらず、プロモーションばかりやってるよね』『サロン18禁? なんか変なことやってるね』といった解釈をされるリスクもあるので。名前もキャッチーだから誤解を招きやすいし、怪しいし…(笑)」(小林)

炎上リスクを抱えながらも、「サロン18禁」をリリースした小林。結果として大きな波は起こらず、ホッとしたと語ります。

「もちろん『真意を図りかねる』といった戸惑いの声もありますが、反響を見ていると『こういう場所が欲しかった』『さすが未来食堂らしい』というような好意的なものが多かった。正直ホッとしました。思っていたよりも真意を分かってくれた人が多くて嬉しかったです」(小林)

まだはじまったばかりの「サロン18禁」が、今後どういう形になっていくのかは、今はわかりません。副会員No.1であり、初代サロンマスターである小林自身が、どう立ち振る舞えばいいかすらも、小林はずっと考えて続けています。

「善も悪も、美も醜も、愚も賢も、すべてのものが区別なくあるからこそ、この世界は美しいのだと私は考えます。これからも、「善い」と褒められることに振り回されず、“あなた”にとって必要なものを作っていきたい」(小林)


「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」——未来食堂と小林せかいは、その場所を目指し、これから先もずっと精進し続けていきます。

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サロン18禁
http://miraishokudo.com/salon_18kin/

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