日本茶AWARD・プラチナ賞受賞。理系出身の鑑定士が真の烏龍茶の魅力を発見するまで

2018年、日本茶AWARD・プラチナ賞を受賞した鑑定士の秋林健一(あきばやし けんいち)。同賞を受賞したのは粘り強く改良を重ねた烏龍茶でした。鑑定部門の配属になるまで中国茶をほとんど飲むことはなかったという秋林が品評会で評価されるまでにいたった道のりを紹介します。
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飲んだこともなかった中国茶、知れば知るほど魅了されていった

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三井農林に入社後、品質管理部門に所属していた秋林が、鑑定部門へ異動したのは2012年。主な仕事は原料の買い付け、ブレンド(味づくり)、商品開発です。

同社が取り扱う原料は、紅茶、緑茶、中国茶、ハーブなどの多様な素材。秋林は中国茶を担当。しかし当時は、中国食品の安全性を問うニュースが話題になり、除々に輸入量が減り、日本の市場では商品数が減っていた頃でした。

秋林 「中国茶に対して最初はいい印象はありませんでした。安全性に対して不安を持たれてしまっていたのですから。それに、普段は中国茶を飲まなかったので、ペットボトルで売られている烏龍茶のイメージしかなかったです。
ただ、茶葉の品質を評価し、購入決定する買い付け業務は、品質管理で培ってきたスキルやノウハウを使えるし、自分にとって新しい分野で面白そうだとは感じていました」

異動後、秋林は精力的に中国茶を勉強しはじめます。中国や台湾にもおもむき、現場で製法や技術も学んだほか、様々な中国茶も試飲しながら、茶葉の香味、知識を得ていったことで魅力にとりつかれていきます。

日本茶は、煎茶や碾茶(てんちゃ。※抹茶の原料)などの緑茶がほとんどであり、種類にするとそんなに多くありません。一方、中国茶は、緑茶だけでなく、青茶、紅茶、白茶、黄茶、黒茶も生産しています。

これら6グループの下に、製法などによりさらに細かく茶の種類が分かれています。その香味や形の多様性から中国茶の世界の奥深さに秋林はおどろいたと振り返ります。

秋林 「つくり方も違うし、味も見た目も違う。まさかこんな繊細なものだったなんて、純粋にすごいなーと。どうやってつくるのだろうとワクワクしました。安全性については見解の差異はあるものの、お茶の美味しさを熱心に追及する姿は、僕のイメージを一新させました」

異動から4年、秋林は日本茶AWARDへの出品を決意します。動機はふたつありました。

秋林 「ひとつは自分の鑑定士としての力量やレベル感を客観的に知りたかったから。目利きの能力って、経験年数や感覚的な部分が多く、技量を定量的に評価するのが難しいんです。
でも、自分でつくった美味しいと思う茶葉の味を評価してもらえれば、客観視できるのではないかと考えました。そして、もうひとつ。中国食品へのイメージを変えたいと考えていたんです」

中国茶に携わる人間として日本の市場を活性化したい、魅力を広めたいという想いに突き動かされました。

日本初の国産ブランド紅茶の再現をめざした茶葉で日本茶AWARDを狙う

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日本茶AWARDで、秋林が狙ったのは自社のルーツとなる味でした。

1927年に日本初の国産ブランド紅茶として販売した「日東紅茶」の前身「三井紅茶」にさかのぼります。この紅茶が、ヨーロッパで「ダージリンに似た香り」だと好評を得ていました。

「そのルーツの味を探りたい」と秋林は考えました。しかしながら、当時の味を示す資料はなかなか見つかりません。

秋林 「ダージリンのような華やかな香りなら『東方美人』に近いかもしれないと仮説をたてました。台湾の東方美人という烏龍茶は、非常に発酵度が強くて紅茶に近い。ウンカという虫によって被害を受けた生葉ほど良質な品質を生むことも共通しています」

2016年から茶葉の試作がはじまりました。当時、何度か烏龍茶の生産現場に立ち会っていたため、再現をすれば、ある程度の品質はつくれるだろうともくろんでいました。

しかしながら、予想を大きく下回る品質でした。同年に初チャレンジした日本茶AWARDにおいても、結果は低評価。「烏龍茶の生産は、すごく難しいことが改めてわかった」と秋林。そう簡単に狙った味はつくり出せない、プロにしかつくれない味があると痛感したのです。

続く2017年は、生葉と条件の組み合わせについて試行錯誤をおこないました。中国と日本で栽培されている茶樹の品種が異なるため、葉の大きさや厚さなどが違う。もちろん製茶をおこなう際の気温も違う。

そのため、萎凋(いちょう。生葉を萎れさせる製造工程)と発酵の程度の進み方が異なります。

各工程における萎凋・発酵の程度の変化、そして、生葉が放つ香りの種類とその強弱に注視しながら、より良い条件を探りました。生葉の量も多くないため、数少ない限られた試作のなかでの調整は、頭を悩ませました。

2年目の出品は、納得はしていないながらも狙った味に近づいている手応えはありました。受賞は逃しますが、後日送られてきた審査結果はかなりの高評価を得られました。改良のヒントもおおいにあったのです。

秋林 「講評を読みながら、自分がおいしいと納得できるものをつくることができれば、次は入賞できる。そう確信しました」

そして2018年、狙いどおりの味を完成させた「#3(スクエアスリー)RePro」は、秋林の読みどおり「紅茶・後発酵茶以外の発酵系の茶」部門において入賞を果たします。唯一の想定外、それは各部門の1位にあたるプラチナ賞を受賞したことでした。

ある種、抽象的な“味”という対象を、改良に改良を重ね、いくたびも発酵の工程を繰り返す地道な作業。根気や情熱も必要です。粘り強く前向きな想いを持って、3年間、着実にゴールに向けて成長し続けられたのは、なぜでしょうか。

「大学院に進んでいなければ、きっと達成できなかったーー」と秋林はいいます。

仮説と検証の繰り返し。ロジカルなプロセスが“おいしさ”へと導いた

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製茶のなかでもっとも難しかったのは「生葉は生きものであるため、思い通りにいかないところ」でした。

秋林 「手順上は学んだとおりなのに、なかなか思ったようにならない。手さばきについてアドバイスももらいましたが、結局、感覚的な話だから理解できない。
今年は3年目ですし、結果を出さないと……というプレッシャーももちろんありました」

そのもどかしい想いを支えてくれたのが、大学院時代の原体験だったのです。

秋林 「恥ずかしい話、研究に向き合ったのは、大学院に進学してからでした。研究という行為は、仮説・検証・再評価のプロセスの繰り返しになります。
お茶の試作も研究と同じ。目標の香味に行き着くためには何が課題で、課題達成をするためには何が必要か、その結果どうだったかを順序だてて考え、仮説と検証、再評価を繰り返します。
そして目標にたどり着く。ロジカルシンキングといえるものを、大学院の『研究』というもので学ぶことができました」

研究に明け暮れた学生時代は「暗黒の時代だった」といいますが、それは確実に人生のターニングポイントになったと断言します。

日本茶AWARDの受賞で「自分がおいしいと思ったものが評価されて、しかも自分でつくったことで、自信が確信に変わった」という秋林。応募動機のもうひとつに向けて、新たな道へと踏み出そうしています。

そう、中国茶の魅力を日本全国に伝えたいという想いです。

香りの魅力を伝えて、日本で烏龍茶市場を活性化させたい!

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お茶の分類では、酵素を発酵させないのが緑茶、完全発酵させたものが紅茶。そして、そのあいだの半発酵のものがすべて烏龍茶なのです。

秋林 「日本における烏龍茶というと、ペットボトルでよく飲む味の印象が強いけれど、発酵が弱いものから強いものまで烏龍茶の定義はかなり広く、香味のバリエーションが豊富です。しかしながら、数多くの烏龍茶ブランドを知る人は、日本では多くはいません」

ここ数年、国産紅茶の生産が活性化してきており、いろんな商品が市場にも登場しています。国産の烏龍茶市場はまだ小さいですが、プラチナ賞を受賞した「#3(スクエアスリー)RePro」のように発酵の強いものや、反対に発酵の浅い烏龍茶が、高い評価を受ける市場はまだ存在すると秋林は考えています。日本茶AWARDの受賞がそれを裏付けるともいえます。

秋林 「中国茶を担当してきて、色々な香味を持つ茶葉と巡りあうことができました。ですが、私が出会った茶葉たちも全体から見たらまだほんの一部です。
お茶本来の香りは、複雑で多様です。
香料を使用していないお茶なのに桃の様な香りがしたらワクワクしませんか?杏仁豆腐のような甘い香りがしたらおどろきませんか?お茶の香りの世界はまだまだ奥深いことを皆様にお伝えしていきたいです」

「#3(スクエアスリー)RePro」の感想として「これは烏龍茶なの?」「紅茶みたい」というおどろきが多く寄せられました。

とはいえ、「#3(スクエアスリー)RePro」に自分で点数をつけるとしたら「100点満点中の70点」。まだまだおいしく改良できる余地はあると考えています。

受賞というひとまずの目標を達成した秋林。「#3(スクエアスリー)RePro」を掲げ、烏龍茶の魅力を伝えながら、新たな市場を育てるという、さらなる目標にむかって、いま歩きはじめたところです。

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