「デジタル依存」「待ち」の営業体制への危機感が、新たな構想につながった

▲ワクワク広報室主導で年2回実施している「野菜市」の様子。地元川崎産の旬野菜をリーズナブルな価格で提供しています

「住まいサポート・法人パック」は、勤務地エリアでの住まい探しをサポートする“従業員のための”地域企業向けサービス。

導入企業のみならず、従業員やその家族も個人として利用できるのが特長です。賃貸仲介・売買仲介手数料の割引や、当社運営の企業主導型保育事業「こころワクワク保育園」への優先案内、外国人スタッフによる3カ国語対応、自社管理以外の物件も紹介可能など、独自性を持った内容で展開しています。

2008年の創業以来“地域”、“ひと”への想いを原動力に、事業領域を拡大してきた当社。

2015年には溝の口という街の魅力を広報すること、人をつなぎ、街の魅力を向上させることを目的にした「ワクワク広報室」を設置しました。

ワクワク広報室では、街の資産である食材や商品、店舗にスポットを当てた地元住民向けのイベントを実施。回を重ねるごとに“街のキーマンたちとのリレーション構築”と“新しいプロジェクトの創出”といった成果が少しずつ見え始めてきました。

一方で、会社としてまったくコンタクトを取れていなかったのが、地域企業とその従業員、そして外国人見込み客でした。

「住まいサポート・法人パック」の起案者であり、現在責任者の営業部部長・上野 謙は、立ち上げの背景をこう語ります。

上野 「それまで、当社の賃貸仲介事業は不動産ポータルサイトに頼りきりでした。サイトに管理物件を掲載し、その後はお客様側からの問い合わせをひたすら待つのみ。『このままでいいのだろうか』と漠然とした危機感を抱き始めたのは、2017年の初頭でした。

物件が主役のポータルサイト上で、同業他社との差別化を図るのは非常に難しい。デジタルだけでなくリアルな場でもお客様との接点を持ち、私たちの事業やサービス、想いを知ってもらわなければ、近い将来、集客に限界が来てしまう……。そう思ったんです」

手探り状態から始動。失敗を重ね、身に染みたのは「既存顧客」の大切さ

▲溝の口駅前。川崎市を代表する繁華街が、私たちエヌアセットの拠点エリアです

2017年6月。上野は法人向けの新たなサービス「住まいサポート・法人パック」の立ち上げを経営層に向けて提案します。

その大きな後押しとなったのは、同じ年に当社に入社した外国人社員1号のトリリンガル・林 同財の存在でした。上野は、林をチームの一員にすることで、各社に在籍する外国人従業員の住まい探しもフォローできると考えたのです。

「住まいサポート・法人パック」はエヌアセット初の法人向けサービス。営業活動を開始するには、まず新しい部署を設置しなければならず、組織変更のため1年以上の時間を要しました。

2018年9月。上野と林、ふたり体制の法人営業チームが満を持して始動。

とは言うものの、それまで会社としても一個人としても、能動的な営業活動をしたことがなく、ノウハウはゼロ。まったくの手探り状態からスタートしました。

上野たちはまず、川崎市内に拠点を持つ企業約3000社に資料を郵送してみることに。

しかし、寄せられたのは「こんなチラシ送らないでください」という1件のクレームのみでした。その後も、営業電話をかけたり、飛び込み営業をしたりと体を張った挑戦を重ねましたが、箸にも棒にもかからない状況が続きました。

上野 「営業先のほとんどは、エヌアセットの社名すら知りませんでしたし、『不動産会社です』と言うと、顔をしかめる人もいました。さすがの私も『この状態から新サービスを売るのは至難の業』だと悟り、新規開拓ではなく、既存のお客様への営業活動にシフトしたんです。

すると、すでに私たちの事業内容や社風を理解してくださっているので、話が早い。『いい取り組みだ』と導入を決めてくれたり、他社に紹介してくれたりする人もいて。そこからいい方向に風向きが変わりました」

取引先や協力会社、そしてワクワク広報室で培った会社のリレーションを生かして「住まいサポート・法人パック」の導入企業数を徐々に増やしていった法人営業チーム。中でも、即導入してくださったのが、溝の口に本社を構えるローカルダイニング社でした。

“街になくてはならない飲食店”の経営に、スタッフの職住近接は不可欠

▲ローカルダイニング 代表 榊原さん(左)と上野。同社が経営する「石窯イタリアンDon Carnemo」にて撮影させていただきました

2020年3月現在、割烹居酒屋やイタリア料理店など全13店舗の飲食店を経営するローカルダイニング社。溝の口エリアでは6店舗を展開しています。

代表の榊原 浩二さんと上野が出会ったのは、2008年。1店舗目となる「海鮮大衆割烹 えんがわ溝の口」を開店することになった榊原さんが、ご自身の住まいを探していた折、たまたまエヌアセット本店へ入店。その際に接客したのが、当時社会人3年目の上野でした。

榊原さん 「もう10年以上も前のことなので、当時の上野さんについて実はあまり覚えていません(笑)。でもこうして連絡を取り合っていることから、間違いなく好印象だったんだと思います。エヌアセットさんは地域密着を掲げる不動産会社。溝の口のあらゆる情報を知る上野さんには、いつも何かと相談してしまいます。でも、嫌な顔ひとつせず、常に親身になって応えてくれる。心強い存在ですね」

2018年、上野から提案を受け、いち早く「住まいサポート・法人パック」の導入を決めた同社。経営方針と勤務地エリアで従業員の住まい探しをサポートするサービス内容が一致していたのが、最たる理由だと榊原さんは話します。

榊原さん 「当社が掲げるミッションはその街になくてはならない『百年品質』の飲食店をつくる。スタッフが“その街の住人”であることがその実現に欠かせない要素だと考え、できるだけ条件に合った人を採用してきました。私たちのメインターゲットは地域で暮らすお客様。スタッフも同じエリアに住むことでお客様と共通の話題も多くなり、意気投合しやすい。

すると、自然とリピート客やファンが増え、応援される店になる。つまり『その街になくてはならない飲食店』へと成長できるんです」

とはいえ、今は人材不足の時代。田園都市線エリアに住む採用候補者の数も限られます。一方でローカルダイニング社の店舗数は年々増加。2018年には、溝の口に2店舗をオープンさせました。遠方に住むスタッフを採用せざるを得ない。そうしたときに役に立ったのが「住まいサポート・法人パック」でした。

榊原さん 「これまで5名のスタッフが、このサービスを利用して店舗の近くに移住しました。私が最も避けたいのは、終電の時間が近づくと、お客様よりも先にスタッフが自分の帰りを気にして、店内がせわしなくなってしまうこと。

スタッフには常に余裕を持って、お客様と接してほしい。そんな私の考えもあって、職住近接を推奨しています。これからも『住まいサポート・法人パック』をうまく生かしながら、お客様に居心地のいい空間を提供したいですね」

導入企業100社を達成。街の経営者の「ブレーン的な存在」を目指したい

▲法人営業チームのメンバー。得意領域の異なる4名が地域企業に向け、力を尽くしています

設置から1年が経過した2019年9月。

上野、林のほかに、ワクワク広報室の松田 志暢(兼務)、ベトナム出身の新入社員ブイ・ティ・タン・フェンが加わり、法人営業チームの体制は大幅に強化されました。

新体制スタートから4カ月後には、導入企業100社を達成。利用数も外国人客を含め延べ約80件となり、チームのモチベーションは右肩上がりです。

上野 「とくにここ半年は、保育園や介護施設、サービス業などの定着率が低く、職住近接が望ましい、外国人従業員が増えつつある業種を主要ターゲットに据え、営業活動を進めてきたのですが、その取り組みが徐々に数字にも表れてきました。

従業員が低コストかつ快適な住まいを確保できることで、一人ひとりの生産性や定着率が上がり、結果、企業の収益も上がる。『住まいサポート・法人パック』は法人にとっても、個人にとっても意義のあるサービスだと理解されつつあるのは、嬉しいです」

一方で、賃貸仲介・売買仲介手数料の割引や他社の管理物件を紹介するのは、利益優先とは言えないサービスです。エヌアセットとしてサービスを提供する意義を、上野はこう話します。

上野 「不動産会社である私たちの役目はいわば、企業・人と場をつなぐこと。たとえば、オフィスや店舗、倉庫などのスペースを探す、従業員のために保育園や介護などの施設を探す、などビジネスのあらゆる場面において実力を発揮することができます。

この『住まいサポート・法人パック』は、エヌアセットの持つ機能や強みについて広め、多くの企業に利用してもらうためのひとつの入り口。目先の利益ではなく、会社としての将来を見据えた、意義ある事業だと自負しています」

現在、上野は法人、賃貸・売買仲介すべての営業を取り仕切る営業部部長を務めているほか、福祉事業者と連携した高齢者向け施設紹介事業も展開しています。

上野「たとえば、売買仲介業で出会ったお客様から、高齢者向け施設の紹介をお願いされるなど、ひとりのお客様から連続して別の依頼をされるのが、わたしが思う“きれいな仕事”。個人のみならず、地域企業ともきれいな仕事を増やし、経営者たちから『まずはエヌアセットに相談しよう』と言われるようなブレーン的な存在を目指したいですね」

今のエヌアセットであれば、どの企業のどんなビジネスにもなんらかのサポートができる、と言い切る上野。「住まいサポート・法人パック」や他の事業を通じて、また新たなビジネスモデルを創出する。そんな日が近く訪れるかもしれません。