嗅覚、脚力、プレゼン力でネットセキュリティの先駆者に【ネットムーブ成長期】

ネットムーブ株式会社の事業の3本柱は、決済、コミュニケーション、そしてセキュリティ。このセキュリティサービスは2004年に後発でスタートした新規事業でした。立ち上げのキーマンが営業として全国を奔走した取締役・ソリューション事業部長の三股泰彦。実はシステムもインターネットもまったくの門外漢でした。
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急激な時代の変化のなかで、着実にチャンスを掴み大事を成し遂げる男、登場

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就職氷河期——。三股が大学を卒業したのはバブル崩壊後、そう呼ばれた時代でした。

三股「もともとマスコミ志望で、大学は広報メディア学科。でも、旅行という目に見えないものをつくるのも面白いと思って、広告と旅行と両業界で就職活動をしていました。結果的には、就活が厳しい状況だったこともあって、先に内定をもらった旅行会社を選んだんです」
旅行業界の仕事は、想像以上に大変でした。当時、退職して旅行にいく同僚も多く、それに感化された三股も、2年後に退職。ワーキングホリデーで1年間海外生活を体験します。

帰国後、「やはり原点に帰ろう」と考えた三股は、広告制作や企画の仕事を探し、クレジットカード会社のコンサルティングを主な事業としている会社に就職します。

そこで担当したのが、キャンペーン企画や、毎月の支払い明細書といっしょに送られてくるリーフレットの制作。リーフレットについては、編集からコピーライティング、デザイナーへの発注、印刷まで、あらゆることを体験しました。

そのうち、時代は大きく変化。パソコンが普及しインターネットの時代になると、紙の印刷物のニーズが次第に減少しはじめます。自分の仕事の将来的な先細りをじわじわと感じていた三股に、転職した元上司から思ってもみないオファーが舞い込んできました。

三股「元上司から、自分の知り合いがネットの会社をつくるから印刷物のできる人材を探している、三股いかないかと。ネットは知らないけれど印刷物ならできそうだなと、実は、わりと気軽に入りました(笑)」
三股が転職を決めたその会社こそが、創業したばかりのネットムーブ。そして、“人材を探していた知り合い”とは、創業者・代表取締役の澤田富仁だったのです。

入社後、三股は「セットアップツール」、つまりインターネットプロバイダ(ISP)事業者に入会した後の詳細な設定を簡単に操作できるソフトウェアを担当。仕様決め、印刷物・CD-ROMのプレス、そして納品まですべての工程をまかされます。

三股「印刷やプレスはわかっても、ソフトウェアの仕様決めなんてさっぱりわからない。最初は会話の意味すら理解できず苦労しました。ところがようやく知識が身についてきた頃、お客さまがいなくなってくるんです。つまりインターネットの普及で、プロバイダが淘汰されはじめたんですね」
ようやく社内で自分の活躍する場を築けたかと思った矢先のこと。しかし、それは、ネットムーブにとっては新規事業、セキュリティサービスの確立のきっかけでもあったのです。

三股の怒涛の全国営業への扉が開いた瞬間でした。

いま被害がなくても、いずれ社会的な課題になるーー先手を打たなければ!

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ネットムーブは2000年に創業、セキュリティサービス事業に踏み出したのは2004年。この間の4年間を支えていたのは決済サービス事業でした。

ネットムーブの前身は、日本初のインターネットサービス向けのクレジットカード決済代行事業を行なっていた企業のある事業部。当時の主なクライアントは、プロバイダ料金の課金をクレジットカード決済するISP事業者でした。事業もお客さまも、そのまま引き継いでの起業だったので、経営面では安定していました。

また大手教育事業者から、クレジットカード決済で通信教育をやりたいという話が持ち上がり、本格的に立ち上がるまでに2〜3年はかかったものの、それも事業の安定につながりました。

しかし、大きな柱であった既存の大口顧客案件に、“手数料引き下げ”という大波が襲いかかります。このままでは赤字に転落してしまうーー。そうした状況で、澤田の嗅覚が働きました。

澤田「その頃からすでにコンピュータウィルスはありました。インターネットでPCがネットでつながりはじめると、ウィルスやワームの感染が広がっていく。この状況を自分ならどうする?と考えて、僕が悪い人間ならこれを使って脆弱なシステムを絶対狙うよなと思いました(笑)。でも、だったら守らないといけないとも同時に思ったんだよね」
当時、日本国内では、まだインターネットバンキングや決済システムを狙った被害事例はありませんでした。ただ、澤田は「そのときは、絶対にくる」と直感し、対策が必要になると確信していたのです。

ネットムーブは、いよいよセキュリティ対策サービスの開発に乗り出しました。

新たなサービスモデルを日本で定着させるまで苦節2年。一気に拡大!

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▲代表取締役の澤田(左)と三股(右)
澤田の嗅覚を確信たらしめていたのは、海外の銀行業界の状況でした。

まず大前提として、金融機関はユーザーの個人情報漏えいを防ぐために当然自らのセキュリティ対策は打ちますが、すでにエンドユーザーのパソコンがウィルスに感染していた場合、そこから情報が抜かれる危険性があります。要するに、企業側の対策だけでは守りきれないということ。

澤田「ただし、ウィルス対策ソフトというのは、家に鍵をかけるようなもの。つまり個人のパソコンへの対策まで銀行が面倒をみるというのは、個人宅に一つひとつ鍵をかけて通帳と印鑑を盗まれないようにするというようなもの。それはちょっと違うよなという考えが当時の日本ではありました」
一方、たとえば韓国では銀行側がユーザーサービスとして個人ユーザーのウィルス対策を徹底。なぜなら、国の施策としてオンラインバンキングが推奨され、リアルな店舗は縮小の方向にあったから。ユーザーのウィルス対策は銀行側の義務として法整備がされていたのです。

これを日本で展開しようと考えますが、社会背景の異なる日本でそう簡単にはいきません。「苦節2年。なかなか売れなかった」と澤田。しかし、この苦節を頭を切って乗り越えたのが三股だったのです。

三股「セキュリティを扱いはじめたのはいいけれど、営業に行きたくても金融機関に太いパイプもないし、そんな大きなマーケットでもないのでほとんど開店休業状態に近かった」
それでも、三股は全国の銀行をまわります。

三股「最初の頃は正直いって、打てど響かず、説明中に舟を漕ぎ出す人もいて……。せつないですね。でも、東京スター銀行さんが『そんな面白いサービスがあるの』と関心をもってくれたときは、うれしくて、何度も通いました(笑)」
しかし「では導入を」となると、実績や顧客サポートや詳細な条件や手続きがひっかかり、なかなか先には進みません。最初に導入が決まったのは、すでに決済システムで取引のあった大手教育事業者、そしてその決済を担うクレジットカード会社でした。

「そこからは早かった」と三股。まず銀行業界で最初に東京スター銀行が導入。当時、偽メールによるフィッシング詐欺が流行りはじめたこともあり、東京スター銀行がその対策を講じたことは新聞や雑誌に大きく取り上げられました。次に、りそな銀行もーー。

三股「そうなると全国から問合せが殺到。新たな全国行脚がはじまりました。ウィルス対策のデモを見せるとみなさん、おおーと歓声があがる。以前とはまったく違いました。それは楽しかったですね」

ネットセキュリティの分野では、常に先駆者——。追うより追われろ!

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セキュリティサービスは、その後、不正送金被害の減少とともに新規契約数はいったん横ばいに。しかし、Web画面を改ざんするウィルスが猛威をふるった2012年以降は被害額も増加。2015年には年間30億円におよぶ被害が発生。ネットムーブのセキュリティサービスの需要が復活します。

それまで導入していなかった小規模な銀行もシステムを入れざるを得なくなり、ネットムーブはさらなる拡張サービスを開発し続け、いまではセキュリティサービス事業は、自他共に認める3本柱のひとつとなったのです。

そして2017年現在、FinTechの中で新たなセキュリティニーズが生まれています。2020年、日本が世界中から注目されるタイミングに向けて、より強固なクレジットカードのセキュリティの必要性が高まっているのです。ヨーロッパや欧米で多発しているスキミング被害、そこから発生する偽造カード。日本ではまだ多くありませんが、インバウンドの増加に伴い増えると想定、取り組みが強化されています。

まずは2020年までに、クレジットカードの情報漏えいを防ぐために、そもそも情報を保有しない、カード情報の非保持化対応が義務付けられました。このシステムを導入するうえで必要となるのが、海外ではすでに多用されているカードのICチップ上の情報を読みとる端末。ネットムーブは、この分野で世界シェア上位のイギリスのミウラシステムズ社と提携し、“SaATポケレジ”というスマホ決済サービスの提供を開始します。

澤田「非保持化にむけて、中には端末だけを取り扱う会社、端末とシステム開発を行う会社とさまざまありますが、端末管理を含め、アプリケーションサービスプロバイダ(ASP)として、自社で開発したシステムを提供しているのは当社だけです」
こうした裏側の開発に力をいれるネットムーブ。世の中の多くのこうした端末や機械のインフラ部分に、名前は出ていなくても、ネットムーブが開発したシステムが入っているというケース、実は多くあります。

澤田「商社で働いてモノを売る厳しさもリスクも知りました。そのうえで僕が目指したいのは、自分たちで開発したサービスを提供するというビジネスモデル。だから、SaATポケレジに関しても、他社が手を出したがらないシステム開発に、徹底的に時間も労力をかける。1年半から2年近くかかりましたよ」
だからこそ、他社がシステムの根幹の部分は、自社で開発するよりネットムーブの提供するものを導入したいとなる品質までつくりあげることができるーー。目指すのは、まさにそういうビジネススタイル。

ネットムーブは、常に時代を牽引していく。創業から常に一歩先をいく開発の手を、まだまだゆるめることはありません。

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