ビッグデータ黎明期。入社3年目で飛び込んだプロジェクトで味わった葛藤

▲NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 小川恭平

子どものころから算数が得意で、理系少年だったという小川。大学では物理学を専攻していました。

小川 「就職活動時このまま研究職の道に進めば、学生時代と同じく、自分とよく似たバックグラウンドを持つ人たちに囲まれて仕事をすることになるのだろうな、と勝手に思い込んでいました。

でも私は、『自分にない価値観を持った人たち』と仕事がしてみたかった。システムという切り口で、あらゆる業界をターゲットに事業を展開するSIerなら、そんな仕事ができるはずだと学生ながらに考えたんです」

こうして、小川はさまざまな企業とそこで働く人との出会いを夢見て、2008年にNTTデータに入社します。

入社後初めて担当したのは、幅広いジャンルの情報ビジネスを展開するお客様。小川はその後約9年間にわたり、このお客様に関わることになります。

そして、小川が自身の経歴を振り返ったとき、「実質的な始まり」とするのは入社3年目です。

小川 「入社3年目のとき、同じお客様のもとで、複数の事業を横断するかたちで始動した『データ活用』を旗印とする新たなプロジェクトに参画するため、先輩社員2人と一緒にお客様先へ常駐することになりました」

2010年ころといえば、「ビッグデータ」や「データ活用」という言葉がまだそれほど浸透していなかった時期です。お客様にとっても、また業界にとっても新奇性のある試みが立ち上がろうとしていたのです。

当時、一緒に常駐することになった先輩社員は、大規模データの蓄積・分析を目的とするオープンソース「Hadoop」を用いた基盤ソリューションのスペシャリスト。腕利きのエンジニアでした。

小川 「右も左もわからない状況で、データ活用に関する知見があるわけでもなく、先輩のような秀でた技術力があるわけでもない。『個人として認めてもらうためにはどうすべきか?』を常に考えていました」

その後のキャリアにおいても、実務の中で困難に直面したことは何度もありました。しかし、初めて自社の外に出て、「自分を認めてもらう」ために「言われた仕事+α」を模索していた入社3年目当時を上回る葛藤を味わったことはないといいます。

その後、この横断プロジェクトの規模は徐々に拡大。NTTデータのメンバーも増員され、小川は初めて自社メンバーを束ねるリーダーポジションを任されます。

「自分を認めてもらう」ためでなく「お客様への提供価値を追求する」ために

お客様先に常駐を開始し、迎えた3年目。お客様内で、データ活用検討の専門部隊として独立したチームが事業会社側につくられることになります。

ここで小川は、指名により新たに発足したチームに参画。そして、それ以前よりもう一段高いポジションで、自社のメンバーの管理からお客様との交渉の窓口まで、すべてを担うようになりました。

小川 「自らの立ち位置が変わり、自分がやるしかない、自分がメンバーを引っ張っていくんだという強い想いに突き動かされていましたね。

また、どうすればお客様のビジネスに貢献できるような価値を提供できるか、ということをよりいっそう意識するようになりました」

「個人として認めてもらう」ためにどうあるべきかを模索していた時期から3年がたち、入社6年目を迎えた小川の最重要事項は、「お客様に提供できる価値の最大化」へとシフトしていったのです。

最終的に、このプロジェクトにおいて小川は、“NTTデータの”リーダーではなくお客様の社員や他のパートナー企業も含めた、総勢20名ほどの“チーム全体の”リーダーを任されます。

小川 「さまざまなプレッシャーはありながらも、明るく、かつ意思を持ってやりきる。そんな姿勢を貫いたことで、混成チームのリーダーを任せていただけたのかなと考えています」

お客様先への常駐は、7年ほどで終了。その後は、放送や広告業界の新たなお客様を担当します。

いわゆるコンサル的な役割を兼ねてはいましたが、小川自身は、「コンサル」「営業」「開発」といった職種による区分を意識することはなかったといいます。

小川 「『自分は○○。だから自分の役割はここまで』と思った瞬間に、それ以上のことをしなくなる。それは良くないなと思っています。『自分の役割を果たす』ことがゴールであると錯覚しがちですが、私たちが目指すべきゴールは『お客様に価値を提供すること』。

役割分担はありつつも、真のゴールを達成するために必要ならば、役割の範疇外であっても自ら実行することをいとわない。そんな意識を大切にしたいと思っています」

その後、サービス企画をミッションとする事業部が新設され、小川は自らの希望で異動します。小川が選んだのは、未経験の「サービス企画」に携わることができる新たな環境でした。

新天地でサービス企画を経験。「デジタルストア」実証実験から見えたもの

▲プライベートでは趣味のスポーツを楽しむ

事業部のターゲットは小売業です。ECの普及、および実店舗における販売の担い手不足といった環境変化に直面する小売業の“これから”を、デジタル技術を活用することでより良いものに──そんな未来志向の発想で、小売業にアピールする新たなサービスの企画に取り組む事業部です。

異動後間もなく、小川が自ら企画し立ち上げたプロジェクトがあります。それが、商業施設内でのデジタルストアの実証実験です。

小川 「『デジタル』の観点でいうと、AIによるレコメンド機能を搭載したデジタルサイネージと、アバターを介した遠隔接客、そしてQRコードによるECサイトへの誘導といったしくみを取り入れています。

また、本イベントの認知度を高めるため、ファッション診断の切り口を『12星座』にして、12体のマネキンを設置するなど仕掛けの面でも工夫しています」

職種で線引きをせず、真のゴールである“お客様への価値提供”のためにできることはなんでもやる。「ITのプロ」ではあるけれども、「IT以外」の領域にも深くコミットする。──小川のスタンスは一貫しています。

小川 「実現したいことは、デジタルを活用した新しい“お店づくり”。そのためには、デジタル周りだけを見ていてもダメで、お店の構成要素すべてに知恵を絞ります。

お客様、ひいてはユーザーが“使いたい”と思えるサービスになっているのか、というところまで検証しなければ意味がありません。サービスを導入することで得られる価値を考え抜くからこそ、“次”につながるノウハウも蓄積できると考えています」

新たなサービスを生み出すためには、すでにある技術や先行事例に対する「目利き力」も重要なポイント。それは、机上での検討ではなく、実際に自ら「試し、使い倒す」ことで養われるもの、というのが小川の考えです。

事実、実証実験では、花粉症のシーズンだったためにマスクを着用している人が多く、マスク着用だと顔認識の精度が低くなります。

また脱いだコートとバッグを手にかけているお客様はスマートフォンを取り出しにくいため、そもそもQRコードへのアクセスが期待できないことなど、「試す」まで想定していなかったさまざまな制約が浮かび上がったといいます。

小川 「今回のプロジェクトでは、サービスのつくり込みの面だけでなく、体制面に関しても、実際に複数社と組んでやってみて初めてわかったことがあります。

デジタルサービスは、当社単独のアプローチではなく、それぞれ得意技を持ったパートナー各社との連携が肝になると思うので、そうした点でも有意義な事例でした」

「アイデア」よりも大切な、「試行錯誤を楽しむ」マインドを胸に

▲試行錯誤を楽しみながら、お客様への価値を追求する

サービスの企画というと、いわゆる「アイデアマン」の専売特許と考えられがちです。しかし、小川はそうした考えを明確に否定します。

小川 「『あったらいいな』は、わりと誰でも出てくると思うんです。でも、その『あったらいいな』をどうすれば実現できるのか、そもそも現実の世界に当てはめたとき、本当に価値あるものになるのか。

ビジネスとして成立するのか。それぞれを検討した上で、最終的に利用者にとって価値あるアウトプットを生み出すことが難しい」

そうした困難なプロセスこそが、サービス企画の本質であると考えるがゆえに、「アイデアマン」よりはむしろ「試行錯誤を楽しむことができる人」が向いている、と小川は言います

小川 「世の中にまだないものを形にするわけですから、うまくいかない場面や、お客様に何度掛け合っても『NO』がかえってくる場面はたくさんあります。

そうしたときに、自分たちが生み出そうとしている『価値』を信じて、当事者意識を持ってやり抜くことができるかどうか。前向きに、試行錯誤を楽しめるかどうか。そういったスタンスこそが重要だと思っています」

そして、デジタルを活用したサービス創造のターゲットとして、ふたつの関心分野を挙げます。

ひとつは、自身が大好きだというスポーツ。

小川 「人がスポーツを楽しむ機会を増やすようなことができればいいなと思っています。たとえば、アバターを使って引退後のアスリートに講師をしてもらって、どこでも、だれでもハイレベルなアドバイスが受けられる……とか。そんな野球教室があったら楽しいですよね」

そしてもうひとつが、地方創生。

小川 「自分自身が地方出身ということもあり、地方の活性化につながる何かができたら、と考えています。

小売業にしても、地方は都市部以上に働き手の確保が難しい現実がありますが、子育て中で短時間しか働けない女性でも、アバターを介してなら自宅にいながらにして就業できるんじゃないか……とか。

それこそ、地元で暮らす私の親が、私の仕事の価値を実感できるようなことができたらいいな、と漠然とではありますが思い続けています」

自らの役割を限定せず、試行錯誤を楽しむ。小川は今日もそんな働き方を体現しながら、世の中にまだない「価値」を追求し続けています。