直感を信じて。一瞬にして魅了された船の世界の奥深さ

▲大きな成功体験となった国際学会での発表

初めは、なんとなくメーカーに行くのかなーと思っていました。研究分野も半導体ですし、周りにもメーカーに行っている人が多かったので。

でも院生最後の年に、自分にとってとても印象に残る出来事があって……。

提出した論文が査読を通り、その分野で最高峰の国際学会で発表することになったんです。

研究を始めたころは手探りで進めた部分もあり、そんな機会をもらえるとは思ってもみませんでした。もちろん、教授や周りの方々の助けがあって初めて成し得たことでしたが、

「わからないことでも地道に取り組み、努力を積み重ねれば結果がついてくる」

ということを学ぶことができました。

最終的に大学院では3つの研究に取り組んで、それぞれから得たものはありましたが、そのまま研究者の道に進む気はありませんでした。もちろん、理論や公式をベースに実績を積み上げていく技術の世界は好きでしたが、同じ研究を続けるのではなく、常に変わる環境の中でいろんなことを学び続けられる仕事が良かったんです。

だから、研究室の先輩から船の技術者の話を聞いたとき、ピンと来たのは必然だったかな、と思います。

船にはいろんな技術が応用されていて、各分野の知識を学べます。また、ジョブローテーションで船の一生の各場面を経験でき、積み上げた仕事が最終的には船という、動くでっかいものとして形になる……。

「すごく、楽しそうだな」と直感的に感じたことを覚えています。それに、船は生活に欠かせないあらゆるモノを運んでいるので、社会貢献できるんじゃないかなってなんとなく思ったんです。

一日ひとつ。ひたむきに経験を重ねる中で見えてきたやりがい

▲インドでの海外研修では、自動車物流の現場で学んだ(前列中央左側が黄山)

そうして、大学院に入ったころにはまったく想像していなかった進路に進むことになりました。

船の技術系の仕事は本当に幅広いですが、今は大きくふたつの仕事を担当しています。

ひとつ目が、LNG(液化天然ガス)船に搭載する機器の工場出荷試験の立ち会いです。メーカーの担当者の方と一つひとつの機器を確認しながら、問題が見つかれば対策や再発防止策を協議していきます。

ふたつ目が、小型LNG船の新規入札対応と仕様の検討です。平たく言えば、コストとクオリティのバランスを考え、船の仕様と建造造船所を決める仕事です。

わからないことがあれば調べたり、直接現場の方に聞いたり、社会人になっても何かを学び、新しい知識を吸収する重要性は変わりません。ただ、学び方、という点でこれまでとの違いを感じ始めています。

大学までの学びでは、背景や結果が見えた上で、体系的に教えてもらうことが多かったように思うんです。でも、会社ではすぐには価値がわからないことも、アグレッシブに吸収していく必要があって……。

初めはわからないことだらけで大変なのですが、そうして集めた“点”としての知識が、あるとき“線”や“面”となって立体的に組み上がる瞬間があるんです。

たとえば、入社してすぐにモーターの試験に立ち会ったんですが、そのときはこういうものかーという程度にしか思っていませんでした。それが、別の機会で発電機の試験に立ち会い、実際の細かい構造や、船の中でどのように機能するのか説明を受けたとき、その機器の意義や重要性を理解する上で、モーターの試験で得た知識が思いがけず役立ったんです。

「そのときは価値がわからなくても、自らつかみ取った知識や経験は必ず血肉になっている」

それは、入社する前は想像していなかった仕事の楽しさでした。

見え始めた壁。技術者として成長するために不可欠なこと

▲関わる分野が広く、手探りで進めることに時に不安を感じることもあるという

今自分が担当しているのは船全体から見たらまだ一部分だけですが、巨大なLNG船も一つひとつの機器に必ず意味があり、すべてが積み重なって初めて滞りなく運航できる──そう思ったときに大きなやりがいを感じることができました。

そうして以前よりも船に詳しくなっていく中、技術者としてもう一段階成長するためには何かが足りないな、と感じ始めていたんです。

きっかけとなったのは、ある試験立ち会い中に起きたトラブルでした。郵船の代表として、自分より高い専門知識を持った現場の担当者と交渉をする必要があり、気力も尽きるほどに精一杯対応したことを覚えています。

生半可な対応で運行時のトラブルにつながる仕事をしたくないですし、オフィスにいる上司にも説明できるレベルの整理ができなければ、現場に行った意味がない。

そのとき自分を突き動かしていたのは、まぎれもなく責任感でした。でも、上司や先輩たちの仕事ぶりを見る中で、そのときの自分には「自分はどうしたいのか」という気持ちが欠けていたことに気付いたんです。

前部署のチーム長は郵船の技術に強い誇りを持っていて、キャリアの中で得た知識を会社に還元して、みんなが使えるようなシステムをつくり上げていました。海洋事業で奮闘している先輩は、入社前からその事業に携わりたいという想いを持って入社して、自ら発信して仕事に取り組んでいました。

ただ仕事をこなすのではなく、自分なりの色を付けていく。生き生きと楽しそうに仕事をするそんな先輩たちの姿を見て、自分も「自分なりの熱意を見つけたい」という気持ちが強くなってきたんです。それが、技術者としてのさらなるに成長にきっとつながると思っています。

わからないことは、これからもある。だからこそ今に全力で向き合っていく

▲「これからもあらゆる仕事を経験して、技術者としての幅を広げていきたい」と言う黄山

船をつくるときには、本当にいろんなことを考えます。

それは本当に運航上過不足ないスペックなのか。お客さんにとって魅力的な価格はどれくらいなのか。10年後、20年後も機能する仕様なのか……。

船は基本的に一点もので、どんな船がいい船なのかはっきりとした正解はありません。船に用いられる技術も、日々新しいものが開発されています。

そういった意味では、これからもわからないことはずっとあると思っていて。その中で、私が大切にしたいのは「自分の意見と方向性を持つ。そして、熱意を持って仕事に取り組むこと」です。

まだ自分ははっきりとした熱意は見つけられていないですが、それは経験による引き出しや、そこから生まれる自信があればおのずと出てくると思っています。

知らないことやわからないことがあったとき、率直に聞ける環境があり、助けてくれる人たちがこの会社にはたくさんいます。だから、どうなるかわからない明日のことを考えるよりも、まずは貪欲に目の前の仕事に仲間と取り組む中でこそ、見えてくるものがきっとあると信じています。

就職活動を振り返れば、自分も大いに悩んでいました。ただ、これから社会に出る人たちに伝えられることがあるとすれば、直感には必ず意味があるということです。なぜそう思ったのか掘り下げて分析すれば、必ず理由が見つかるはずです。

また、院生で就職活動をしている学生には、研究の内容にこだわって進路を狭める必要はない、ということを伝えたいです。まったくわからないことを勉強して、そこから研究で成果を出していく──研究ならではのプロセスの中で得た経験を生かせる場を求めて、ぜひ広い視野を持ってほしいですね。