船乗りとして入社後、初めての陸上勤務。陸上職の同期と同じ配属先に

▲郵船ビルにて対談するふたり。篠田(左、海上職)と竹之内(右、陸上職)

自社養成機関士として入社し、これまで合計8隻の船に乗船してきた篠田 晃司は現在、グループ会社のNBPで勤務しています。数年間の船乗り生活から一転、2019年4月に社内のジョブローテーションで陸上勤務に異動。事務系や技術系の社員と机を並べ、オフィスで仕事をすることになりました。

篠田 「現在メインの仕事は燃料節約活動です。データ上で燃費が悪くなっている船を探し、解析して、どう悪いのか知らせています。できるだけNBPが運航している船の燃料代が安くなるように、さまざまな策を講じていますね。

そのほかにも、運航船にエンジントラブルなどが発生した場合は、その対応に当たったりすることもあります。2019年の後半は、2020年1月から始まる船の燃料規制強化に向けた対応がほとんどでした」

篠田が出向したNBPでは、篠田と同期で日本郵船に入社した竹之内 春佳も働いています。現在は同じ配属先で一緒に働いているふたり。初めての陸上勤務をしている篠田に対し、竹之内はこれまでの部署でも海上職社員と一緒に働いてきた経験がありました。

竹之内 「NBPに出向する前、私の最初の配属先は液化天然ガスの輸送を行うLNGグループでした。とくに入社直後は何もわからないひよっこ状態だったので仕事はとても大変でしたね。たとえば議事録ひとつ書くにも、『HDコンプレッサーの不具合が発生し~』って言われて、何それ?みたいな感じからのスタートで。

そんなときに、まずそれが何に影響を及ぼす可能性があるのかとか、そもそもコンプレッサーって何をしている?とかも全部、海上職の方々がとても丁寧に説明をしてくれました。

現在は、バルク貨物を取り扱う部署にいます。燃料節約やエンジントラブルの相談などで篠田のチームとは一番やり取りをする機会が多いです」

日本郵船の海上職社員に求められていること

▲新人時代の乗船研修、多国籍の乗組員たちと(竹之内)

自社では陸上職の数倍にあたる多額のコストをかけて海上職の社員を育成する一方、フィリピンやその他アジア諸国からは人件費にも競争力のある優秀な船員たちが多く流入してきます。はたして日本郵船の海上職には何が求められているのでしょうか。海上職の働き方や職種ごとの連携について、ふたりはこう語ります。

竹之内 「NBPは全部署にわたって陸上職と海上職との関わりがとても多いです。篠田の部署にはエンジンや燃料関係でよく助けてもらっているし、機関士のほかに航海士ももちろんいます。たとえば、重量物などを運ぶ在来船では、荷物の積み付けプランの作成は航海士の担当ですね」
篠田 「船の上のどこにどんな機械があって、どう動いているとか、配管がどう流れているとか、陸上から想像しろと言っても絶対に無理な話なんです。一方、私たちは船上で働いていた経験があるのである程度は理解しているし、説明できます」

中でもとくに海上職社員が求められるのは、お客さんや船主さんの前に立つときです。

竹之内 「たとえば、お客さんの工場のすぐ近くに止まっている船でワイヤーが損傷するなどのトラブルが起きた場合は、プロフェッショナルの人が直接説明に行くとお客さんとしても安心ですよね。やはり初期対応のスピードは会社の評価につながるし、そこへ海上職がプロとしてすぐに飛んでいけるのは強いです。

そのほかにも、たとえば船主さんに船の減速運転に協力していただく際にメインエンジンの予備部品を買うとかなると、それはどのメーカーのどの型式ですか?という話になってくる。そうなるとまた海上職のアドバイスが必要になる。私たちはいつもタッグを組んで仕事をしている感覚です」
篠田 「いろんな人から相談されたときに、自分の知識や経験を生かしてどや顔で答えられるのは陸上勤務をしていて嬉しい瞬間ですね(笑)。まだ陸上勤務を経験していない若手の船乗りは、実は今やっている自分の仕事が陸ではダイレクトに必要とされていることを意識できたらいいと思います」

じゃあ船乗りが会社の仕事を全部やればいいのでは?

▲海上勤務時の篠田、船の機関制御室での一枚

どんなときも海上職社員が必要な状況ならば、海上職の社員だけですべての仕事をするのが理想かもしれません。しかし、海上職の人数は少ないのが現状。日本郵船全体でも海上職社員は600人しかいないので、陸上のひとつの部署には数人しかいないのです。

海上職のみで仕事が成り立たないのには、ほかにも大きな理由がありました。

篠田 「マンパワー不足に加えて、ビジネスの背景や営業のノウハウ、船主さんと会社の関係とか、海上職社員にはわからないんです。技術的なところだけ話に出して、『いけるじゃないですか?やってくださいよ』って、私たちだったら言いかねない。

そうしたときに、『何言ってんだこいつら』ってパッと船を貸してくれなくなったらそれで船が動かせなくなる。日本郵船が荷物を運べなくなる。もちろんそういうわけにはいかなくて。だから、一緒に力を合わせてやらないといけないんです」
竹之内 「日本の船主さんには人との関わりを大事にされる方も多く、信頼関係がとても重要なんです。あのときに助けてもらったから今度は助けようみたいな、話を進める中で人と人とのやり取りという部分がすごく大きいこともある。

船のスペシャリストが来るのはもちろん心強いことではあるけど、営業には営業で、過去の経緯を全部わかった上で柔軟な対応をする能力が必要です。そういう能力をすべて兼ね備えられて、人がたくさんいるなら、海上職社員がすべての仕事をやったほうがいいとは思います」

しかし、現実的に兼ね備えることは不可能。お金がかかるのに加えて、一人ひとりの負担が大きくなってしまいます。

篠田 「仮に、すべてをやらせるなら海上職社員に営業の仕事もさせて、もちろん船に乗せて、管理系の仕事もさせて、それをひたすら繰り返してやっとできあがる。アサインされる人もそれぞれ中途半端にならないようものすごく力をいれないといけません。それに、そんなハードなところに入れるんだったら、スペシャルなインセンティブでも持たせないとモチベーションが保てないですよね。

そして根本的に、陸上職事務系の仕事を船乗りができるか?っていったら、そもそも気質的にできない海上職社員は間違いなくいると思います。人には適合と不適合があって、得意と不得意があるので、お互いに力を合わせてやっていくのが一番大切なんです。

しかし職種で明確な線引きをするわけではなく、これからは陸上職も海上職も今よりもさらに深く結束して交流していけば、それが郵船の大きな強みになると個人的には思っています」

将来の目標は 「話しかけやすい」機関長になること

▲郵船ビル内にあるNBPのオフィスにて

互いに補完し合って仕事をしている、篠田と竹之内。ふたりは、働く上で何を大切にし、どんな想いを持っているのでしょうか。

篠田 「自分が海上勤務をしていたときの経験から、船を運航する仕事は話し合いがすべてだと思っています。みんなの知識と経験を集結させて、いい感じで、船を動かしていくのが大切。もちろん知識に根拠があることは前提ですが、船に関わらずすべての仕事がそうかもしれません」
竹之内 「私たち陸上職のもとには海上職と異なり、お客さん、船や現場、社内とすべての関係者の情報が集まります。陸上職の役目は、その情報をもとに場面に応じてベストな解決策をスピーディーに判断し、各方面へ協力を求めそれを実現することだと思っています。

私たち陸上職は船について100を知る必要はないけれど、お客さんの前に立てるよう30でもいいから知れるようにかみ砕いて説明していただけると、本当にありがたいんです。それができる海上職の方をとても尊敬しています」

篠田の人柄もあり、NBPの若い人は篠田に『燃料タンクの運用はこれでいいですか』と聞きにいっています。わかる人に聞く。そういった考え方ができていると竹之内は話します。

ふたりの目指す未来は、どこに向かっているのでしょうか。

篠田 「私は話し掛けやすいことを自分の強みにしています。若い子に『なんでそんなことも知らないんだ』って言っちゃうような、オーソリティーが高い海上職社員にはなりたくないですね。

会社では船にトラブルが起きて、海上職に話を聞かないといけない場面は多くあります。

なので、私の10年後の目標は、軸は変わらず『若い子に話しかけられる機関長』になることです(笑)。船の知識を蓄積するのは船乗りとして当然のこと。そうじゃなくて個人的には、人間性を売りにしていきたいですね」
竹之内 「陸上職は各方面への窓口を担うので、常に関係者すべての架け橋となれるように意識しています。船会社に予期せぬトラブルはつきものですが、現場でがんばって対処してくれている海上職のためにも、関係者の協力や理解を得て、いかにスムーズに解決していくかは陸上職ならではと思います」

ふたりはそれぞれ、自身の想いを持って今日も前に進んでいきます。