「ペットも飼い主も幸せになれるペット先進都市を作る」 大分県佐伯市でドッグサロンを営む店主の“後悔”と“恩返し”

大分県佐伯市にある「Dog Salon 102(ワンオーツー)」。トリミング、ペットホテル、犬グッズの物販をメインとした同店の店主 大津勇人は、トリマーとして店舗を運営するかたわら、ドッグフェスタや愛犬家団体を主催しています。地元ではない佐伯市で、大津はなぜ精力的に活動するのか? そこには、後悔、そして恩返しの気持ちがありました。
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ワクチン接種ができていない犬は受け入れない――未来のための苦しい決断

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ドッグサロンを経営するかたわら、ドッグフェスタやしつけ教室など、地域を巻き込んだ活動もおこなっている大津勇人。ドッグサロンの利用者も右肩上がりで増えており順風満帆に見えますが、彼が、自身の現状に対して真っ先に口にしたのは、後悔の念でした。

大津「自分が今までやってきていなかったことに関しては、なにも言い訳できない。でもこれからは、絶対に徹底していこうと心に決めました」
彼がこれまでやってこられなかった、そしてこれから徹底していきたいこととは、「ワクチン接種ができていない犬は、ドッグサロンのお客様として受け入れない」ことです。

「佐伯市をペット先進都市にする」という目標をかかげる大津ですが、それを実現するためにはまだまだ多くの課題があります。そのひとつが混合ワクチン、狂犬病ワクチン接種への意識の低さです。

都市部では多くのドッグサロンで義務づけられているワクチン接種証明書の提示。しかし、佐伯市ではそういったお店はまだまだ少ない状況で、実際に飼い犬にワクチン接種をさせていない飼い主も多くいます。

大分県大分市出身の大津。地元ではない佐伯市で開業したこともあり、できるだけ多くの人に自身の店を知ってほしい、来店してほしいという……。良くないことだとは知りつつ、ワクチンの接種ができていない犬であっても受け入れてしまっていたのです。

しかし、もし他のお客様の犬がお店で病気を移されてしまったら……そのような問題がいつ起こってもおかしくありません。ペット同士の話だけでなく、近所の犬に噛まれた時、その犬がワクチンを接種していなかったら、同じ地域で暮らす人々まで危険にさらすことになるのです。

大津「今の私の店もそうですし、今まで働いてきた店も『混合ワクチン必須』という決まりは作っていませんでした。でも、それでいいのかどうか考えたときに、やっぱり良くないですよね。都心部でできているのに佐伯市でできない理由はない。だからまずは自分がはじめるしかないと思っています」
たとえ一時的にお客様が減ってしまったとしても、長期的な視点でペットと飼い主のためになることをしたい。自分の弱さへの後悔は強い覚悟に変わり、大津は新しい一歩を踏み出したのです。

専門学校を1年で自主退学。葛藤の先に見つけた トリマー の夢

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トリマーとして佐伯市で独立開業している大津のルーツは、少年時代までさかのぼります。幼いころから動物が大好きで、小学生の卒業アルバムに書いた夢は「上野動物園の園長」。高校卒業後は動物の飼育員になるための専門学校に入学し、順調に夢への道を歩んでいました。

専門学校への入学と同時に、たまたま見つけたペットショップの「スタッフ募集」の貼り紙をきっかけにアルバイトを開始。そこでトリマーの仕事内容を深く知ることになります。

もともと動物とふれあうことが大好きだった大津。座学の多い専門学校の授業に悶々とする一方、ペットショップでのアルバイトの楽しさにのめりこんでいきます。「もしかして自分にはトリマーのほうが向いているのでは?」 そんな思いが芽生えはじめていた頃、専門学校で動物園へ研修にいく授業がありました。

動物が展示場所に出ている間に、バックヤードを掃除、エサを準備し、また掃除をし……。完全に裏方に徹する飼育員の仕事は素晴らしいものだと理解しつつも、「自分には向いていない」と感じたそうです。

せっかく入学した専門学校なのに、自分には向いていないのかもしれない。そんな現実に葛藤する大津でしたが、そんなとき背中を押してくれたのは、アルバイト先のペットショップの店長の言葉でした。

「大津くんは、飼育員よりトリマーが合っていると思うよ」

自分がもっとも興味を持っている職業はトリマーだと気付いた大津は、動物飼育員の専門学校を1年で自主退学。福岡県内にある、トリマーになるための専門学校に入学することになります。

約80%の生徒が2年間で手に入れるB級資格を取得して卒業するなか、飼育員の専門学校を辞めてしまった後ろめたさを感じていた大津。自身の退路を断つ意味も込めて、4年間かかるA級資格を習得し、無事に大分市内の有名店にトリマーとして就職します。

その後、別府市のドッグサロンに移り、トリマーとしての腕を磨いていった大津に、転機が訪れます。「独立」という大きなチャンスが舞い込んだのです。

師匠との出会いと佐伯での独立が、自分を大きく変えてくれた

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大きなチャンスをくれたのは、師匠として慕う、先輩トリマーの松林智宣さん。佐伯市で持っていた物件が空いたので、居抜きで使ってドッグサロンを開業しないかという話でした。

大津「少し無茶でも、チャンスには思い切って飛び込む性分なんです。居抜き物件でこんな条件で話をいただけることなんて、なかなかない。だから、師匠から『お店をやってみないか』とメールが来たときは、『やってみます』と2つ返事で引き受けました」
松林さんと大津が出会ったのは、その1年ほど前のこと。松林さんは大分県国東(くにさき)市でサロンを開業しているトリマーで、全国大会でも優勝するほどの腕前の持ち主です。以前から松林さんを知っていた大津は、国東市まで松林さんに会いにいき、交流を深めるようになっていきました。

そして2012年、「 DOG SALON 102」をオープン。地元と同じ大分県ではあるものの、見知らぬ土地である佐伯市で、大津ははじめて“自分の店”を持つことになりました。

24歳という若さで自分の店を持つことになった大津。A級トリマーの資格を持っているとはいえ、まだまだ技術的に学ぶべきことが多く、さらに経営まで考えなくてはならないという大変さに、挫けそうになることもありました。

そんなときに大津を支えてくれたのは、チャンスをくれた松林さんの言葉、そして佐伯市の住民の皆さんでした。

大津「経験の浅い私が店を出すことになったときに、『教えてくれる人はいないから、お客さんから教えてもらえ。どこが悪かったかを聞いて修正していけば、必ず技術は上がっていくから』と師匠からいわれました。

その言葉を胸に刻み、お客様からフィードバックをもらっては、空き時間に練習して……。そうやって繰り返すうちに満足していただけることも増えていきました」
自分なりに改善を繰り返していたオープン当初の1年間。「楽しいことも多かったけど大変なことも多かった」時期は、後から振り返れば彼を大きく成長させてくれる時間になりました。

地道に信頼を積み上げてきた成果を感じられるようになったのは2年目から。お店の宣伝は一切していないにも関わらず、口コミでお客様が順調に増え、お店の経営も軌道に乗ってきました。

佐伯に恩返しを。小さな変化を繰返し、ペット先進都市を作る!

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そして2016年現在、佐伯市に受け入れてもらい、お客様が順調に増えるにしたがって、大津の問題意識も大きくなっていきました。ワクチン接種が徹底されていないことや、しつけが不十分なのに放し飼いされている犬に近隣住民が噛まれてしまう被害が何件も出ているなど、ペットに携わる者として看過できない事態が多く見えてきたのです。

犬と人がもっと気持ちよく共存できるようにしたい、でも一人ひとりの飼い主にアプローチしていくだけでは根本的には変わらない……。思い悩む大津にアドバイスをくれたのは、またしても師匠の松林さんでした。

松林さんは、国東市で9年続くチャリティードッグフェスタを開催しています。はじめた当初はフンの放置がひどかった地域も少しずつ変わり、今ではマナーが格段に向上したそうです。アクションを起こして地道に続ければ必ず成果が出る、そう勇気づけられました。

大津「時間をかけて文化を作っていくしかないと改めて気づかされました。そのために色々なイベントを主催するし、たとえ失敗しても途中でやめることなく、絶対にやり続けます」
ドッグフェスタはもちろん、しつけ教室や飼い主同士の交流会、佐伯市唯一のドッグランの運営など、精力的に活動する大津。その背景には、佐伯市に“恩返し”をしたいという強い気持ちがあります。

特に開店から1年間、お客様が彼を育ててくれました。たとえカットに失敗しても何度もチャンスをくれた、佐伯市の飼い主の方々を喜ばせたい、そしてこの地域を盛り上げたい。大津は佐伯市でならきっと実現できると確信しています。

大津「都心部とは違って、佐伯市は地域のコミュニティが濃く、いい活動をしていればそれが広まるのも早いんです。ワクチン接種があたりまえ、しっかりしつけしているのがあたりまえになる環境を作れば、少しずつ変えていくことができると思います」
今までできていなかったことも、地道に続けていけば変えていけるはず。「来店者への混合ワクチン接種の義務付け」も、そんな想いがあっての決断です。

大津「まずはうちのお店だけでもワクチン対策を徹底して、ノミダニもいない、安心してペットを預けられる環境を作るのが重要です。その上で、ペットの正しい飼い方まで教えたり、コミュニティを作ったり、プラスαの価値を返せるようになりたいです」
実際にイベントに参加した飼い主や、地域のマナーが高まったと感じてくれた住民から喜びの声が届くなど、嬉しい変化が起こっています。

小さな変化を起こして、佐伯市をペット先進都市に変えていくことが何よりの恩返し。ペットと心地よく共存できる地域を作るための、大津の挑戦は続きます。

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