そのリリース、中国で本当に効果ありますか?相手との違いを知ることで情報はより輝く

オズマピーアールでは、インバウンドの過熱に伴い、海外への広報に力を入れています。しかし、中国コミュニケーション戦略に従事する呉昱(うー・ゆー)はインバウンドの過熱ぶりに疑問を感じていました。そんな彼女が日中のカルチャーギャップを乗り越えて追求した、異文化における情報発信の“あるべき姿”に迫ります。

グローバルコミュニケーションで、見失ってしまいがちなものはなんだろう?

▲オズマピーアールの中国コミュニケーション戦略を担う、呉昱(うー・ゆー)

呉「インバウンド、インバウンドって言うけど、ただ観光客に日本に来てもらってたくさんお金を使ってもらえば、それでいいのかな?わたしはそれだけじゃないと思うんですよね」

国の成長戦略の大きな柱とされるインバウンド。政府は2016年、訪日外国人観光客数を2020年には4000万人へと倍増させる目標を掲げました。2017年の訪日客数は過去最高の2800万人超を記録。2018年の今、2年後に東京五輪を控え、ますますインバウンドは盛り上がりを見せています。

オズマピーアールは、各国でのPRの見識をもつスタッフが、現地のメディアや生活者、トレンドに応じた独自のコミュニケーションを立案。国内観光施設や地方自治体などの依頼は、件数、規模ともに近年大幅に増加しています。

そんな中、インバウンドの過熱ぶりに疑問を呈したのは、オズマピーアールで日本国内の企業の中国コミュニケーション戦略を支援する呉昱(うー・ゆー)。日中両国で中国向けPRを経験している中国コミュニケーションの専門家です。

日中間のカルチャーギャップを肌で感じながら、両国の架け橋となるべくPR業界で活躍してきた呉は、日中のコミュニケーションにどんな思いを抱いているのでしょうか。彼女のPR人生を振り返りながらひもといていきます。

住んでみなくちゃ、本当に日本を理解できない。日本留学を経てオズマへ

▲オズマピーアール入社時、中華圏メディア取材ツアーの様子

呉は北京第二外国語大学日本語学部卒業。大学で日本語を学ぶことにしたきっかけは、中学生の頃にテレビで放映していた日本のドラマがきっかけでした。

1980年生まれの呉が中学生の頃、中国ではファミコンやウォークマンなど日本の電気製品が人気に。テレビでも日本のドラマやアニメの放送がはじまります。呉は、初めて触れた日本のカルチャーにすっかり夢中になりました。

呉「『東京ラブストーリー』『ひとつ屋根の下』『101回目のプロポーズ』などなど……。赤名リカ(鈴木保奈美さん)が大好きで、しゃべりかたもすごくかわいいと思ってました。それで日本語を勉強しようと思ったんです」

大学卒業後は日系PR会社の現地法人に就職。3年後には日系電機メーカー広報部に出向し、海外広報の企画や実施に携わります。

日本語が堪能な中国人スタッフとして重宝され、がむしゃらに働いていた呉。しかし仕事をしている中で、とある思いが募り、それはジレンマへと変わっていきました。

それは、「自分は本当の意味では日本語を、そして日本を理解できていないのではないか」という思い。

呉「もちろんビジネス上、言葉を訳すことはできます。でも言葉では伝わらない部分に含まれた意味合いやニュアンスが、本当の意味では理解できない。経営戦略や決算発表のリリースや、社長インタビューといった仕事ではなおさらです。

これは、いくら中国で勉強してもダメだ、日本で生活してみないとわからないことなんじゃないかなと思いました。だから、日本に留学することを決めたんです」


そこで呉は会社を辞めて日本に渡り、慶應義塾大学に入学。政策・メディア研究科修士課程で2年間、企業戦略論、組織行動論を学び、日本の企業を理解する土台を築きます。

そのうえで、再びコミュニケーションの世界に身を投じるべく、オズマピーアールの門を叩くことになるのです。それは2011年のことでした。

日中の「ズレ」を知ることこそが、伝わるコミュニケーションの出発点

▲呉が執筆した書籍「やっかいな中国人のホンネがわかる本」

呉はオズマピーアール入社当初、上司と衝突ばかりしていたといいます。

呉「なんで言うこと聞けって言われなきゃいけないのよ、中国に行ったこともないくせに!と思ってましたね、当時は(笑)。中国人は、上司だろうが部下だろうが、自分の意見があればはっきり言うのがふつう。日本人は、口に出さなくてもみんなわかってる、みたいなところがありますよね。理解できるようになるまで、最初の1~2年は日本と中国の価値観の違いには苦労しました」

それでも呉は持ち前のガッツで、手探り状態ながら仕事を一つひとつ作りあげていきました。中国のメディア環境やPRの考え方について社内向けの資料を作成したり、中国のメディアデータベースをイチから構築したり。

上司とはケンカしながらも一緒にさまざまなメニューを開発し、クライアントに自主提案をして実績を積みあげていきました。中国のPR会社との戦略提携は、呉の中国勤務時代のリレーションからなし得たものです。

呉が日ごろから念頭においているのは、日本人と中国人の考えかたの違いを十分に知っている自分だからこそ、単なる言葉の翻訳から、より伝わるコミュニケーションへと進化させること。それは仕事の進め方しかり、観光のコミュニケーション戦略しかりです。

たとえばニュースリリース1本をとっても、単に文章を中国語に訳しただけでは、果たして効果があるのでしょうか。中国のメディアや生活者のものの捉え方をふまえたうえで、より的確に伝わる戦略が、そこには求められます。

日中のはざまでPRを実践してきた呉だからこそ、日本人の一元的な価値観ではなく、日中双方の視点を融合させて、より効果的にコミュニケーション戦略を立案、実施することができるのです。

呉「流行の“お・も・て・な・し”も、日本人が良いと思うサービスと中国人のとらえかたには温度差がある。たとえば飲食店でスタッフが片膝をついて注文をとる姿を見ると、私の父なんかはびっくりして『王様と召使いじゃあるまいし、どうしてそんなにへりくだっているの?』と、かえって居心地が悪くなってしまいます。

でも、日本人がどうしてそんなふうに振る舞うのか、きちんと情報発信すれば中国人も理解します。どちらかが正しい、間違っていると考えるのは間違い。文化や考え方の違いを知れば、互いにハッピーになれます。わたしの役割は、そこで潤滑油になることだと考えています」


訪日客数や消費金額といった、インバウンドの数字の面だけにこだわる姿勢に疑問を呈するのも、相互理解の必要性をなにより重視しているため。

呉「中国では、毎年およそ1億人が海外旅行に出ています。そのうち日本に来ているのはわずか5%にすぎません。まだまだ、日本のことを知らない人が圧倒的多数なんです。

日本の良さ、日本人の良さ――たとえば、職人魂や、そこから生まれる製品の品質、安心――を中国人に知ってもらうこと。反対に中国、中国人の良さもたくさんあるから知ってほしい。一つひとつの案件を通して、小さいことでも“良いこと”を発信していくように意識しています」


より効果的な情報発信の手法を模索して、新たな挑戦は続く

▲2018年2月現在、中華圏コミュニケーションのコンサルティングを日々行なっている

オズマピーアールはグローバルコミュニケーションの領域では、どちらかというと後発組。その代わり、戦略立案に決まりきった枠組みがなく、新たな取り組みにも柔軟にチャレンジできるのが強みです。

最近の取り組みとして挙げられるのは、ひとつは在日中国人のネットワークを活用した情報発信。日本に住む中国人はおよそ70万人といわれます。彼らが発信する情報は、本国在住の家族や友人知人に、信頼性の高いクチコミとして広がります。呉らのチームでは、在日中国人向けのポータルサイトと提携。サンプリングや体験ツアーなどを実施しています。

もうひとつの施策は、微信(WeChat)メディアの開設。中国人約7億人が使用しているとされる世界最大規模のSNSで公式アカウントを開設し、個人旅行客向けに、日本に住んでいる中国人から見た“よりディープな日本の魅力”を発信しています。

呉「今(2018年現在)、中国人には映画『君の名は。』の舞台になった飛騨高山が人気なんですよ。ツアーが満員で取れなくて、タクシーで5万円かけても行きたいという人もいるくらい。こういう情報は、ソーシャルメディアが強いです。

ただ、日本のWEBサイトやガイドブックを中国語に翻訳して、そのまま発信しても、それは中国人も面白いと思うとは限らない。それではコストと時間の無駄ですよね。今後はこういったソーシャルメディアの情報流通構造も検証しながら、ビジネスとして磨きあげていきたいと考えています」


日本を深く理解するために努力をおしまず、中国と日本の架け橋となっている呉。その成果が身を結び、2017年5月には、呉のほかに中国人スタッフが加わり、オズマピーアールの中華圏ソリューションチームはさらに強固な態勢となりました。

今後、対中国コミュニケーションはいっそうの成長が見込まれる分野。失敗を恐れず、新たな挑戦にも果敢に取り組んで、日本と中国のコミュニケーションのステップアップを実現していきます。

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