ポケットのないドラえもんでいい。釼持広樹がロボットをつくる理由

パルスボッツ株式会社創業者である釼持広樹。インターネットやITが昔から得意だったことと、人が大好きだということ。このふたつが釼持の人生を大きく変えていきます。2014年にロボットをつくるきっかけとなった、「あること」とは?過去の決断も周りの存在も、すべてが今につながっていました。
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「留学するより、友だちといたい」そう気付いた中学時代

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▲中央の黒い服を着てピースをしているのが釼持

ロボットを通じて、人に寄り添うサービスをつくっていきたいと感じている釼持。その原体験は彼の中学時代にあります。

釼持 「中学の時は、本の影響でソフトバンクグループ株式会社代表の孫正義さんに憧れていて、卒業したら海外に留学しようと漠然と思っていました。資料も取り寄せて、親からも承諾を得ていました。なので、ロクに受験勉強もせず(笑)。

でも中学 3年の 1月に友だちと初詣に行った時、こいつらと離れたくね〜!もっと一緒に遊びたい〜!と強く思ってしまい、やっぱり近所の高校に進学することにしました(笑)。それでも高校を卒業したら、海外に留学しようかなと、うっすら考えていました」

留学はやめ、近所の高校に進学した釼持ですが、高校時代はとても楽しい青春時代を過ごしました。軽音楽部に入ってギターを弾いたり、生徒会で副会長を務めたりと、多くの友だちに恵まれた楽しい日々。

そんな時、市役所の ITを管理しているベンチャー企業に知り合いがいて、その知り合いから市役所のイントラネットをつなげられないかと相談されます。

釼持 「当時は周りにたまたま無線 LANでイントラネットを組める人がいなかったので、アルバイトとして僕が手伝うことになりました。高校生に見られないようにスーツを着て市役所の市議会室に出入りし、バイト代も高額でした。大人にまじって仕事をするのが新鮮で、ITなら年齢に関係なく活躍できるんだなと強く感じました」

そんな貴重なアルバイト経験をしたことや、ベンチャー企業の設立も相次いだことから、いつからか、東京の大学に行き、そこからベンチャー企業を立ち上げようという気持ちになっていました。

釼持 「留学したかったけど、友だちが大好きだし、結局、自分は寂しがりやで誰かにそばにいてもらいたいんだと気付きました。人に寄り添うサービスをいつか人のため、ひいては自分のためにつくろうと(笑)」

大学進学後は大手IT企業にインターンとして入り、1日18時間働き、多くのことを学びました。インターン終了後、在学中に初めての起業をしましたが、なかなか自分のやりたいサービスを立ち上げることができず、納得のいかない日々。

そして初めての起業から3年後に、別の会社を立ち上げました。

事業は成功!そしてゲーム業界からロボット業界へ

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▲ORATTA時代

2社目に設立した株式会社ORATTAは、ゲーム業界にいた知人と立ち上げました。初めての作品を2010年11月にソーシャルゲームプラットフォームの「GREE」で出し、3カ月後にはGREE Platform Awardを受賞し盛況を受けました。

釼持 「当時はまだスマートフォンが出ておらず、先行していた海外市場を研究し、ガラケー向けの売れそうなゲームをコテコテのコテコテにつくっていました(笑)
僕はソーシャルゲームを開発、運営した経験があったことから、ユーザーの動向を分析していました。分析を続けるうちに、匿名同士の関係であっても、ほかのユーザーのためにゲーム内での努力や課金を無限に行う人を、少なからず見てきたんです。人は “つながり ”に価値を感じていることを体感しました」

いろいろな気付きがある中で、ORATTAでの事業は順調に進んでいき、会社のゲーム色がどんどん強くなっていきました。

もともとソーシャルに興味があった釼持は、ゲーム事業が安定してきたこともあり、新しいことをはじめたくなったタイミングでORATTAを離れることに。

そしてそのすぐ後、人生を大きく変えた出会いが訪れます。

それは、感情認識パーソナルロボット「Pepper」です。2014年6月にソフトバンクグループからPepperが発表され、Pepperという存在、そしてロボットに可能性を感じるようになりました。

釼持 「本の影響で昔から孫さんに憧れていたので、孫さんの動向は気にしていましたが、 Pepperの発表は本当に衝撃的でした。 Pepperの発表の映像で家族として一緒に暮らしている Pepperの姿を見て、ただただ直感的に、これは世界が変わるきっかけとなる出来事だと思いました」

ORATTAで感じた、人は“つながり”を必要としているという学びが、ロボットで活きるのではないかと釼持は感じはじめます。

ロボットと人が心を通わせる時代がくるーー。そんな気持ちが釼持を動かしました。

想像していたよりも難しかった、Pepper会話機能の開発

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▲大手広告代理店のイベントにPepperを導入したとき
釼持 「孫さんの Pepperの発表をオンタイムで見ていて、その場でロボット事業をはじめることを決め、Facebookで周りにも宣言しました。その時の投稿が今でも残っているはずです(笑)」

そしていよいよPepperのデベロッパー先行モデルを貸与していただき、新たなるロボット業界に足を踏み入れます。Pepper発表の約5カ月後には、実物を手に入れました。

釼持 「まずはロボットのことを何も知らなかったので、Facebook上でロボットに関するコミュニティをつくり、開発情報やロボット本体の機能について、情報交換しました。ロボットに対してみんながいろいろな期待をもっていることを、そのコミュニティで知ることができました」

釼持はPepperのアプリを開発し、いち早く介護施設や空港へ導入するなど、着々とロボット業界に参入を図ります。

しかし、Pepperの開発は想像以上に難しいものでした。

釼持 「Pepperが初めて家に来た時、家の中での存在感の大きさにまず驚きました(笑)。しかし開発をはじめてみたところ、その存在感に対する期待値が高く、それに見合ったコミュニケーションをつくることが非常に難しかったんです。ですが、 Pepperがいるだけで、ロボットと共存する未来が想像できました」

そして、Pepperのコミュニティを通じて、のちの共同代表である美馬直輝と出会います。その後、「ロボットと共存する社会を目指す」という共通の理念のもと、2015年7月にパルスボッツを設立しました。

孤独や寂しさを、ロボットが少しでも解消できる未来をめざして

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▲パルスボッツ創業メンバー

過去の経験を通して、人は人とのつながりを求めていること、特にそれを求めているのは、孤独や寂しさを感じた時だと気付いたことから、それを少しでも解消できる方法は何かないかと考えていました。

釼持「ちょっとタイミングが変なんですが、大学生くらいから、なぜかドラえもんにハマりました(笑)。ある時、友達とドラえもんの道具で何が一番ほしいかを話していたら、最終的に秘密道具じゃなくて、ポケットがなくてもいいからドラえもんがほしいなって話になったんです。
その時に、やっぱり僕が一番ほしいのは、掃除をしてくれるロボットや料理をしてくれるロボットではなく、ドラえもんのような、そばにいてくれるロボットなんだなと気付きました」

釼持にとって、ロボットを使って一番やりたいことは人に寄り添うロボットをつくること。そばに寄り添い、人の寂しさや孤独を少しでも埋めてくれるようなロボットです。

釼持「日本は世界の中でも超高齢社会のロールモデルになると言われています。一番いいのは人が人に寄り添えること。しかし一人暮らしをしていてなかなか家族に会いたくても会えない方も多くいます。そういった方々に、そばに寄り添い、孤独や寂しさをロボットが埋めてくれる未来づくりに貢献したいです。あくまで僕の価値観ですが孤独が何よりも悲しいことだと思っています」

便利なデジタル社会になったいまの世の中だからこそ、直のコミュニケーションが大事になってきます。ロボットが人に寄り添い、楽しさを提供してくれる。そして、悲しい時は話を聞き、そばにいてくれるーー。

人とのつながりがあまりなく、忘れてしまいそうな対話のコミュニケーションを、ロボットを通じて思い出せるような、釼持はそうした世の中をつくることを目指しています。

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