大企業をHackせよ!──パナソニックが描く未来の家電メーカー像と社会課題の解決

パナソニックアプライアンス社の“出島”である、企業内アクセラレーション組織Game Changer Catapult。真鍋馨は、既存の事業部のマネジメント職というポジションにいながらも、未来の事業をつくりたいと、同組織の立ち上げに挑戦しました。彼が描く、未来のパナソニックのあり方とは。
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社内横断プロジェクトから生まれたGCカタパルト

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▲Game Changer Catapult事業開発統括 真鍋馨

パナソニックアプライアンス社 Game Changer Catapult(以下、GCカタパルト)が発足する1年前の2015年、パナソニックアプライアンス社では当時の社長・本間哲朗のもと全社横断プロジェクトが実施されました。

そのテーマは「10年先の家電事業のビジョンとそれを実現する大型新規事業」。2025年には、家電のコモディティ化がさらに進んでいることが確実視される中、各部門から集められたメンバーが家電事業の将来像を議論し、模索する場でした。

真鍋 「プロジェクトで議論を重ねていく中で、『くらしの願いをカタチにする』というビジョンステートメントにたどり着きました。方向性は決まったものの、こうした社内横断プロジェクトは提言の後にアクションが何も起きないことも大企業ではよくある話です。
そこで、このメンバーの中の 4人が集まって、具体的な事業アイデアと目標を本間に提案しました。その時に、現代における『くらしの願い』をかなえる手段として、ユーザーデータを活用したサービスやサブスクリプションなど、まだ当時では一般的ではない概念を取り入れながら、アイデアの原型を描きました」

当時から、コモディティ化した家電ひとつで満たせるユーザーニーズが、少なくなってきていることを感じていたと話す真鍋。それが、GCカタパルトがその後立ち上げるプロジェクトのベースとなる考えになっていきました。

真鍋 「単純なハードウェア起点だと、『今までにない掃除機や洗濯機をつくろう』という発想になるのですが、それを家事と捉えたらどうか。テレビであればメディア・エンターテインメント、電子レンジであれば食のソリューションやヘルスケアとして捉えたらどうか。
そういった、家電を使う文脈の中にひそんだ顧客の課題を見つけて、それをどう解決できるかが私たちの価値だと考えました。GCカタパルトで扱うプロジェクトに、サービスデザインと呼ばれるようなアイデアが多いのは、こうした背景もあります」

当初はプロジェクトメンバー有志による“持ち込み提案”だった事業企画案には、GCカタパルトとして発足するのに欠かせない要素がありました。それは、世の中や顧客の変化に対応するため、自分たちも変わらなければならないという危機意識です。

真鍋 「このままだと生き残れないという危機感を、強く持っていました。当時まで経営企画の仕事を長く担当していましたが、その視点で大組織を変えていくことと、スピード感を持ってビジネス環境の変化に対応していくことは、やり方が違うのではないかと思っていました。
大きな組織にも良い側面があるのですが、事業の再構築という意味では、出島として経営を分け、第二のパナソニックをつくって新しい事業の創出に挑戦することが、一番早く、経営リスクも抑制できる道じゃないかと。
GCカタパルトの立ち上げ時には、なんとかして現状を打破したい想いがありました。この課題感は経営企画をやっていたからこそ得られたものかもしれません。だから GCカタパルトの活動は、相当な当事者感を持って進めています」

家電メーカーの未来を握る「ライフログ」

▲スマートコンシェルジュサービス「totteMEAL」(トッテミール)紹介動画

家電事業の衰退という危機感を持ったメンバー4人によってスタートしたGCカタパルト。これまでに社内ビジネスコンテストや社外との共創を通じ、手がけたプロジェクトは120を超えますが、そのキーワードが「ライフログ」です。

真鍋 「昨今は IoTや AIなどが話題になり、とりあえずデータを取っておこうなど、手段先行でサービスがつくられることも少なくないと思います。でも本来大切なのは、『誰のどんな課題を解決するか』ですよね。GCカタパルトでは、その解決すべき課題に重きを置いています。
扱う領域は家事、食、健康など、家電事業と親和性が高いものの、比較的多岐にわたっています。
ただ、その中で共通しているのが “ライフログ ”です。たとえば、『誰が・いつ・何を食べたか』を喫食データと呼んでいますが、これもそのひとつです。家電メーカーの視点だと、これをたとえば冷蔵庫から取得できるデータや、家の中にある家電を使って取得できるデータの利活用に目が行くかもしれません。しかし、生活者のカスタマージャーニーをきちんと考えると、家の中だけで完結しないことの方が多いことに気付きます」

こうした、既存の事業部では捉えきれないニーズや課題に目をつけたプロジェクトのひとつが、ランチタイムに栄養バランスの良い食事を提供するスマートコンシェルジュサービス「totteMEAL」(トッテミール)です。

真鍋 「オフィスなどに置かれた冷蔵庫に、スマートロック機能やスマートペイメント機能などを後付けできる IoTデバイスを開発して、そこに食品サービス事業者と共同で、ユーザー個々のニーズに合った食事を届けます。ユーザーはスマホアプリを使ってレコメンドを受け、予約や支払いができるサービスで、現在は、事業性を検証するために実証実験を進めています。
食ってすごくおもしろくて、複雑なんです。家で食べる内食、中食もあれば、外食もあります。とくに家族がいる場合は、それぞれが違う場所で違うものを食べることもありますし、当然、好みや健康状態、その時の気持ちも違います。そうしたそれぞれのくらしに寄り添うことで、たとえば一家がそろう夕食の献立や、家族それぞれにとっての健康的な食事をレコメンドするといった、次の展開が生まれます。
また、totteMEALとは別のプロジェクトで、『 OniRobot(オニロボ)』というプロジェクトがあります。これは、たとえばアレルギーや健康状態など、一人ひとりの食の嗜好やケアする内容を反映し、アプリで具材を選択してパーソナライズ化した “おにぎり ”を握るロボットで、一番大事な “おいしさ ”にこだわり、職人の手握り・できたて感を再現、これを省人・省スペースの飲食店ソリューションとして提案しています。
こうした顧客に寄り添うことで得られるデータを統合することで、糖尿病や肥満など、健康課題に対するソリューションにもなります。ライフログを起点にすることで、家電を超えた価値が提供できるようになるんです」

GCカタパルトが、このほかに取り組んでいるものも、口腔内の健康状態や血圧の管理、家事を通した運動不足の解消など、ライフログを起点とした事業開発です。

真鍋 「 GCカタパルトでは、こうした事業を通して社会課題の解決に貢献していくことをかかげています。そのために、何よりこうした生活者のくらしに焦点を当てています。それは私たちが家電メーカーだからではなく、『一人ひとりの生活者の課題を解決することを紡いでいくことで、結果として社会全体の課題解決に貢献し得る』と考えているからです。
たとえば、現代の高齢化社会において、嚥下障がいという社会課題は大きなイシューですが、そういった方やサポートする方のために、見た目や味を変えずに食べ物を柔らかくする『 Delisofter(デリソフター)』という機器の事業アイデアを、ビジネスコンテストで育成してきました。これは発案者の親御さんが家族と同じものを食べられないという悩みから生まれたものです。
この事業に関しては GCカタパルトの活動から事業化した第 1号案件となりました。( 2019年 4月ギフモ株式会社として事業化)
このように一人ひとりの悩みを解決することで、同じ課題を抱える人たちの問題解決にもつながり、その輪が広がることで社会全体に影響を及ぼすことができると私は考えています」

“大企業の新規事業創出プロジェクト”が抱える葛藤

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▲創業100周年記念フォーラムの一環として行われたNEXT100で登壇する真鍋

GCカタパルトの活動を通して、パナソニックの新しいあり方を提示し続けている真鍋。しかし、その裏には大企業ならではの苦労や葛藤があったと話します。

真鍋 「今でこそ少しずついろいろなプロジェクトが社外に認知されだしていますが、まだ社内では何をやっているのか理解されていない部分もあると思います。とくに立ち上げ当初は、社会課題の解決や未来の事業創出といった志と現実のギャップが大きかったですね。
それもそのはずで、これだけの大所帯ともなると、各部門の大半のリソース・機能は、大量生産型の既存事業を効率よくオペレーションすることに最適化されています。そんな中で、不確実性の高い新規事業にリソースを割くのは、会社としてもなかなか難しいことです。
また、大企業の仕事にはルール化されたものが多いので、自らルールをつくりながら進んでいる GCカタパルトは、かなり特異な存在でした。たとえば totteMEALにしても、『家電メーカーなのになぜ家電をつくらないのか』といった声が挙がりしました」

それでもGCカタパルトを「やって良かった」と笑いながら話す真鍋には、どのような世界が見えているのでしょうか。

真鍋 「 GCカタパルトを通して社外の人たちとの共創が増えたことで、新たな価値基準が生まれました。自分と社会や、自分とお客様との関係の中で、いかに役に立てているかという意味で、充実度と自身の市場価値の見方が変わったと感じています。
GCカタパルトでは、プロジェクトによってはギフモのように会社からスピンアウトして事業化を目指すことも可能です。自分もそのスキームづくりや各プロジェクトの統括において、会社の枠を越えたマインドで進めていますし、こうしたマインドを持つ人材と新しい事業を世に出す発射台(カタパルト)の活動を、共感いただける顧客や社外の方々とも、枠を越えて加速していきたいと思います。
会社を離れたら、パナソニックの看板で仕事はできません。だからこそ、会社の枠にとらわれないチームとして、個人と個人がどのように協力や共創をして、世の中のどんな課題を解決するのかを意識すべきだなと思います」

「到達度は5%」と語る真鍋が見据える未来

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パナソニックでは異色の存在と見られながらも、その意義を愚直に社内外に示し続けている真鍋。2016年の活動立ち上げから3年が経過した今、どのような未来を描いているのでしょうか。

真鍋 「すべてが整ってからやろうとすると、スピードが落ちてしまいます。だからこそ、私が重視するのは、仮説をどんどん実行に移していくこと。実行することで結果が得られ、軌道修正する仮説をつくり、また実行する、この繰り返しです。ただ、思い通りにはなかなかいかないもので、私が GCカタパルトでやりたい世界の 5%ぐらいしかまだ実現できていません。すべてがそのまま実現するとは思っていませんし、カタチを変えながら一歩ずつ進んでいくしかないと思っています。
GCカタパルトには『 Unlearn』(既存の考え方を捨て去る)と『 Hack』(やり抜く、何かを利用してうまくやる)という行動指針がありますが、まさにこれまでの当たり前を Unlearnして、パナソニックという土台を Hackすることが大切です。パナソニックが挑戦を続けるからこそ、活動を知ってくれる人も増えていますし、声をかけてくれる協力者もいます。
大企業の良いところを生かしつつ、既存の枠にとらわれず他社との共創・共同事業にするなどして挑戦を続けていきたいですね」

会社として、GCカタパルトとして、複数の視点で現状の課題を見極める真鍋。その先に実現させたい世界についてこう語ります。

真鍋 「実現したいのは、自分も含めた一人ひとりが抱える生活の課題や『くらしの願い』を、一つひとつ良い方向に持っていくことです。ミクロなところを起点に、さまざまな手段を駆使して社会を変えていくことを目指しています。
そのために、各プロジェクトにおいて、プラン通りじゃなくても毎日軌道修正を繰り返して、出会いや気付きをいかに得ていくかが大切だと感じています。計画通りに進んでいる感覚はまったくないですが、事業化に向けた意思決定を日々行うことで、個人としてもミッションに向けて成長できているのかなと思います」

大組織の中では異質な存在になりがちな新規事業部隊にありながら、確固たる意思を持つ真鍋。既存の事業部で会社を支える社員とは、また違った視点で未来を描き、不確実性が高い道にもめげず日々まい進しています。

高齢化の問題などから、家電メーカーのあるべき姿を考えるきっかけとなる2025年が近づく中、パナソニックの未来をGCカタパルトとともに模索し続けていきます。

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