ますます重要になる子どもたちのクリエイティビティ

▲自分で描いたガイコツを全身に貼りつけていました

パナソニックの新規事業創出活動Game Changer Catapult (ゲームチェンジャー・カタパルト)にて新規事業アイデア「DrawNet (ドローネット)」のリーダーを務めている勝山 雄介です。

「明日の京都の天気は?」「あのお店ってどこにあったかな?」

現代は、自分が知りたいと思った情報に難なく辿り着くことが出来る世の中です。スマートフォンの普及やインターネットによるデータ通信はめまぐるしいスピードで進化しています。

しかし、効率的に知りたい情報や答えに辿り着ける一方で、今まで以上に「自ら考える」ことが重要になってきているのではないでしょうか。AIもめざましく進化しています。AIは正解がある問題を解くことは得意ですが、正解のない問題を解くことは不得意です。

ここで登場するのが人間の持つ“クリエイティビティ(創造力)という能力です。

“創造力”は2015年には10番目に重要なビジネススキルと位置づけられていましたが、2020年には3番目となり、その重要性が急上昇しています(※1)。まさしく“これからの時代を生き抜くためのスキル”です。 近年、子どものクリエイティビティの育みを目的に「アートやデザイン」を従来以上に重視し、科学分野などと共にアートを統合的に学ぶSTEAM教育手法に注目が集まってきています。

また、トロント大学ビジネススクール教授リチャード・フロリダ氏は著書の中で「クリエイティブ・クラスの人材育成こそ、国と企業の競争優位の原動力となる」と述べています。

クリエイティブな人材を集め、その才能や技術が寛容な風土の中でのびのびと生かされる中でこそイノベーションが生まれ、都市としての競争力を高めることができると主張しています。このように、「クリエイティビティ」とは単に絵がうまい、工作が得意、ということだけにとどまらず、イノベーションや競争力を生み出す源泉として注目されているのです。

さて、学校教育の中で“アート”と聞いてどのような印象を受けるでしょうか。

絵画、書道、音楽、ダンス、演劇……思い浮かべるイメージは様々かと思いますが、「受験とは無関係な科目」という印象が強いかもしれません。しかし、これからはこのアートこそが重要な科目になると考えています。

アートには正解がありません。正解がないからこそ、自由に自分の考えや思いを表現することができ、また、そうしたいと感じる機会を与えてくれます。

※1:2016年1月 世界経済フォーラムで発表されたランキング

「教育」と「アート」に対する私たちの思い

▲チームメンバーで議論している様子

私たちのチームは3人で活動をしていますが、この活動に対する思いや得意分野はそれぞれ異なります。

アートの中でも私は美術、特に絵を描くことが小さい頃から大好きでした。幼稚園児の時はガイコツが大好きで、ガイコツの絵をひたすら描き続けている子どもでした。ガイコツは何か危険な物を表すネガティブなイメージがありますし、私のことを気味悪がっていた友だちもいたと思います。「子どもがガイコツの絵ばかり描くんです……」と、親なら子どものことを心配するかもしれません。

しかし、私の両親は私の個性を認め、画材を与え、自由に絵を描ける環境を作ってくれました。そして、私にとってお絵描きは自分の表現欲求を叶え、自信をもたらし、他者とのコミュニケーションのためのツールにもなりました。

そんな私に子どもが生まれ、「子育て」がより身近になった今、自分の好きなお絵描きを通じて、子どもの未来に役立つ事業を創りたいと考えるようになり、DrawNet事業を考案しました。

そして、Game Changer Catapultが開催している社内のビジネスコンテストへ応募することを決めたのです。

一緒に事業化を目指してくれるチームメンバーを探している時に、社内のピッチイベントで私のアイデアを聞いていた國松 志帆 が共感し、参加してくれることになりました。

國松は3人の子どもを持つワーキングマザーです。業務で、小学生や中高生と関わる中で、次世代を担う子どもたちや自身と同じ子育て中の親御さんに向け、心の健やかさに直接貢献できる、教育サービスを事業化したいと考えていました。

さらに、私と同期入社の赤井 優也に声を掛け、メンバーに加わってもらいました。赤井は音楽好きであるとともに、学生時代にロボットやゲームを作った経験も持ち、私や國松とは違う視点でアートの解釈を広げてくれるはずだと考えたからです。

こうして「教育」と「アート」という異なる専門性を持ちながら、同じ志のメンバーによるチームが編成され、事業化に向けた活動が始まりました。

お絵描きを通じて子どものクリエイティビティを育む

▲水野先生のアトリエにある子どもたちの作品のギャラリー

私たちは、幼児期のお絵描きに着目しました。なぜなら幼児期がクリエイティビティを育む黄金期であり、クリエイティビティの源泉となる 「何かを表現したい」という子どもの欲求を実現する最も端的な方法だと考えたからです。

子どものお絵描きについての関連書籍を読み、学校・保育園・幼稚園・学童保育の先生などからお話を聞くうちに「正解のないはずの子どもの絵に大人の価値観が押し付けられることで、子どもが大人に合わせた絵を描くようになり、お絵描きそのものを嫌いになってしまう」という事実がわかりました。

大人になるにつれて、写実的な絵が良い絵であるという価値観が生まれ、その価値観で子どもの絵を見てしまうからです。

学童、絵画教室、大学等の現場でアートを通して、子どもたちの創造性を育もうと実践されている専門家へのヒアリングを通し様々なお話を伺うことが出来ました。

人づてでどんどん専門家を紹介していただく中で、京都造形芸術大学 名誉教授で、現在は自らのアトリエを開き、幼児からお年寄りの方々にアートで出会いの場を作られている水野 哲雄先生に出会いました。

「上手下手はその子の個性。描く作業は自分の意識を確認することであり、描いていくうちに自分が何を表現したかったのかを自覚する」というお話を聞いた時、子どもにとって、お絵描きは自分自身を発見するプロセスだと強く感じました。

さらに先生から、「お絵描きで大事なことは子どもたちが自分の好きなように、自由に絵を描ける環境と他者と絵を描き、刺激し合える場」というお話がありました。この考えに基づき、子どものクリエイティビティを刺激する表現活動の場の提供を目指してDrawNetというサービスの中身を詰めていきました。

DrawNetが目指す世界

▲ビデオ通話を通してお絵描きスタジオの検証 を行っている様子

DrawNetは、「子どもたちが自由に絵を描ける環境と他のお友達と刺激し合える場所」をオンライン上で提供し、クリエイティブインストラクターが主催するスタジオに子どもたちが参加することができます。

クリエイティブインストラクターとは、アートだけではなく、様々な分野で活躍している専門家で、子どもの発想を自由に楽しく広げてくれます。

スタジオには「リンゴの味をみんなで描いてみよう」や「毛糸を垂らして絵を描いてみよう」などの異なるテーマがあり、子どもたちに絵を描くきっかけを提供します。

そしてファシリテーターとしてクリエイティブインストラクターが合いの手やコメントを入れることで 、子どもたちの自由な発想 をどんどん引き出します。スタジオに参加している新しい友だちとの出会いや、そこで生まれる相互刺激が、子どもの発想をどんどん広げ、お絵描きを楽しくし、クリエイティビティの育みをサポートします。

私たちの考えるDrawNet事業は、絵のテクニックを学ぶためのお絵描き教室をオンラインで提供することを目指しているのではありません。

お絵描きだけではなく、お絵描きから始まる造作、美術、音楽、ダンス……と世界を広げ、 子どものクリエイティビティの育みに役立つ表現活動や、人との出会いの場を提供することを目指しています。

DrawNetを通じて育んだクリエイティビティで、子どもたちの未来に貢献することが、私たちの願いです。