育休中に新規事業を発案。「もったいない精神」が生み出した「ママボラン」誕生の背景 

総合人材サービスを提供するパーソルホールディングス株式会社で働く稲田明恵。彼女がワーキングマザーのキャリア支援サービス「ママボラン」を考えたのは、育休中のことでした。復職と同時にそのアイデアを事業化できた背景には、稲田自身の育休体験と、「誰でも必ず輝ける環境がある」という強い想いがありました。
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人材と企業をマッチングさせ、世の中から「もったいない」をなくしたい

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▲「ママボラン」を立ち上げた稲田明恵。外苑前のオフィスにて

稲田が在籍しているパーソルホールディングスは、人材派遣の「テンプスタッフ」や人材紹介の「DODA」など、幅広いサービスを手掛けています。2004年に当時のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒で入社した稲田は、法人営業を約3年経験し、その後、障がい者雇用支援サービスの立ち上げに関わってきました。

2018年3月現在は、育休中のワーキングマザーをベンチャー企業やNPO法人にボランティアとして紹介する新規事業「ママボラン」の責任者を担当。企業への営業やワーキングマザー向けのキャリア支援セミナーの運営など、多岐に渡り活動しています。

もともと稲田が人材サービス業界に興味を持つきっかけとなったのは、父親の早期退職でした。稲田は当時の複雑な想いをこう語ります。

稲田 「まだまだ社会で活躍できる年齢だったのに、もったいないと思いました。もっと父の強みを活かせる会社・環境があったはずです。古い雇用慣行によってキャリアを諦めるのではなく、自分自身でキャリアをつくれる社会にしたい。だからこそ、客観的な立場からその人に合った会社や仕事を見つける支援をしたいと考え、人材サービス業界に進みました」

この「もったいない」という想いが最初に形になったのは、障がい者雇用支援サービスの立ち上げです。

稲田 「社会で活躍したいと思う障がいがある方も、採用したい企業もたくさんいらっしゃるのに、就業機会の創出は全然うまくいっていませんでした。ニーズがあることは確かなので、障がい者雇用支援サービスは社会から必要とされる事業になると確信していました」

イチから立ち上げたこのサービスは、障がい者雇用支援領域でシェアNO.1を獲得するまでに成長しました。その人らしさを活かせる場をつくるため全力で事業に取り組み、営業・事業立ち上げ・人事と様々な役割を乗り越えるビジネス人生を送っていました。

とにかく必死に「やらねばならぬ」という想いだけで突っ走ってきた彼女に転機が訪れます。

育休期間に、ワーキングマザーの力を活かす新規事業を考える 

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▲外苑前オフィスにて「ママボラン」記者向け説明会の様子

仕事一筋だった稲田は、2015年10月に産休に入ります。この休みにより、一心不乱の仕事生活から一転、これまでの社会人人生をじっくり振り返ることができました。

稲田「自分の強みは、色々な人に会って色々な話をして、自分なりに解決したい課題を見つける。そこから周囲の人にも共感してもらえるビジョンを掲げ、事業を推進していくことだと思ったんです」

一方、時間があれば仕事のことを考えてきた稲田にとって、時間を持て余す育休期間は、バリバリ働いていた頃との大きなギャップを感じる日々でした。育児と両立するこれからのキャリアを想像すると、「このままでいいのかな……」という不安が募っていったのです。

稲田「このあり余る時間を使って何かやってみようと考えた時に、きっと同じような想いのママたちがほかにもたくさんいるだろうと思ったんです。ママボランを共に運営している金子と山本はすでに復職を経験し、再度私と同じタイミングで産育休に入っていました。
彼女たちの経験談を聞いて、育休期間に自分自身のキャリアと向き合うことの重要性を感じました。それであれば、育休中にキャリアを考えつつ、潜在的なワーキングマザーのパワーを活かせるビジネスをつくったらどうだろうと思ったんです」

そこで考えたのが、育休中のワーキングマザーと企業とのマッチングでした。とはいえ、副業が認められていない企業も多いので、通常の就業支援は難しい。たどりついたのは、「ボランティアとして、ベンチャー企業やNPO法人での活動の場を紹介する」ということでした。

稲田は育休中に地元の友人や仕事関係の知人など様々なワーキングマザーに話を聞き、「本業以外の会社も見てみたい」という好奇心があることに気付きます。

さらに、生後半年の子どもを連れて約20社の企業を訪問し、アイデアをプレゼンして回りました。そこで、「雇用ではなく、一時的な業務をお任せするために優秀な人材と出会いたい」という企業のニーズを掴んだのです。企業とワーキングマザーの想いが合致すると確信した稲田は、「ママボラン」と名付けたアイデアを社内の新規事業コンテストへ起案。

稲田の想いが届き、彼女の復職後に事業化が決定、いよいよママボランをスタートすることになりました。

2017年8月31日のサービス開始から、ママボランの反響は大きいものでした。大々的なプロモーションをしなかったにもかかわらず、登録者は開始から約半年で250人に上り、こんなにも意欲的なワーキングマザーたちがいたのだと稲田は感じました。ボランティア活動の前に参加するワークショップや、実際の活動を通じて、これまで抑えていた「社会とつながりたい、人の役に立ちたい」という自分の想いにまっすぐに向き合い、いきいきとするワーキングマザーは非常にたくさんいることが分かったのです。

稲田「育休中にボランティアなんて、と思う人もいるかもしれません。でも自分自身がやりたいことを素直に受け入れることは、人生においてもキャリアにおいても大事なことです。私はそのことを、ママボランで伝えていきたいと思っています」 

ママボランで自分の強みを発揮できたワーキングマザー

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▲「ママボラン」を利用した大川さん(中央)、Trimの荘野さん(左)と天間さん(右)

ママボランに登録した大川美希さんも、そんなワーキングマザーの一人でした。大川さんは大手ECサイトで、社内のアワードを何回も受賞するほど仕事に打ち込んできました。その分、稲田と同様に産育休への反動は大きかったようです。

大川さん 「今まで仕事で何十人とやり取りしてきたのが、いきなり一人でぽつんとなってしまい不安に感じていました」

セミナーや講座受講などインプットばかりで物足りなさを感じていた時に出会ったのが、ママボランでした。2017年11月から大川さんは、育児サポートツールを手掛けるTrim株式会社で商品をユーザー目線で検証することや、提案資料の作成、インターンの育成、時には商談への同行などのボランティアをスタートさせました。

大川さん 「今まで溜まっていたインプットを、アウトプットできているのが楽しい!しかも提案したことに対してのフィードバックだけではなく、感謝までしていただけるのがものすごく嬉しいです。自分の強みを再認識できてアドレナリンが出ます(笑)」

そんな大川さんを受け入れているTrim社の荘野(そうの)さんと天間さんも、同じように産育休期間の不安を通過してきたワーキングマザーです。

荘野さん 「育休期間に不安な思いを抱えながらもボランティアで働きたい気持ちを持ってくださる方は、仕事に対しての意欲がとても高いんだろうと思いました。そういったワーキングマザーを応援したいという考えもあって、参加していただくことにしたんです」

最初はどこまで仕事を任せればいいか手探りでしたが、大川さんが積極的にかかわってくれたことで、想定以上の仕事を手伝ってもらうことになりました。

天間さん「私たち社員には効果的な営業手法を、さらにインターンの学生さんたちにも資料のつくり方などを教えてくださって、本当に助けられています」

こういった声は、稲田にとっても大きな励みになっています。

稲田「ママになると仕事に対する両立の不安を感じ、これまでと同じ働き方ができないことに自信をなくす女性がたくさんいます。一方で、これまで社会人として培ってきた経験は、特に人材不足で悩んでいるベンチャーやNPO法人にとって、とても価値のあるものです。大川さんのように、ママボランを通して自分の強みを再発見する、そんな機会を創出できればと思っています」

企業の受け入れ体制をしっかり築き、ワーキングマザーが輝ける環境を増やす

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▲稲田と愛娘。娘がいるからこそ今の稲田がある。

サービス開始より多くの企業・ワーキングマザーから反響を得る一方で、課題も見えてきました。利用したお二人からは、こんな声があります。

大川さん「自分はやりたいって思って手を挙げても、子育てと並行した仕事なので、『できなかったらどうしよう』と躊躇することもありましたね」
荘野さん「赤ちゃんがいる中でのボランティアということで、どこまでお願いしていいのか、納期は設定してしまっていいのかなど、最初は判断に迷ったこともありました」

限られた時間の中でお互いの想いをすり合わせて、Win-Winの関係を築くことはそう簡単ではないのです。しかしこういった課題も、稲田にとっては大きなやりがいのひとつになっています。それは入社して以来、確固たる信念を持ち続けているからです。

稲田「育休期間に自分を振り返る時間を持てたことで、事業をつくることを決心できました。『誰でも必ず輝ける環境がある』という想いのもと、これからもママボランを成長させていきたいです」

父親の早期離職をきっかけに、「もったいない世の中をなくしたい」という想いからはじまった社会人人生。稲田は、今まさしく実現に向かって進んでいる途中です。必要としてくれる人がいればビジネスになると信じ、自社マーケットをつくっていくと心に決めて、稲田はこれからも人と企業の橋渡しを担っていきます。

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