コンサル業界を渡り歩いた男が出した年上部下マネジメントの解。それは「対話」

今の日本企業において、「年上部下のマネジメント」というテーマが潜んでいることをご存知でしょうか。年上の部下に言いたいことが言えない上司、一方的に理想だけを膨らませている年上部下。難しいダイバーシティのテーマである“年齢逆転のマネジメント”のために奮闘している男が、パーソル総合研究所にいます。
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思いがけず没頭することになったHR領域、そのきっかけは……

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▲パーソル総合研究所オフィスにて。右奥がコンサルタントとして活躍する石橋誉(ほまれ))

パーソルグループのシンクタンク・コンサルティング機能であるパーソル総合研究所で、コンサルタントとして活躍する石橋誉(ほまれ)は、厳しいコンサルティング業界を渡り歩いてきたなかで、HR(ヒューマン・リソース)領域に自身の活路を見出しました。

1993年、ITコンサルタントとして新卒でプライスウォーターハウスコンサルタント(現PwCコンサルティング)に入社し、その後デロイトトーマツコンサルティングで経験を積みました。そして、かねてからの希望であった戦略コンサルティングを希望して、NTTデータ経営研究所に入社。ここでの経験がHR領域にかかわる転機となります。

石橋 「 2000年初頭フリーターやニートといった若年無業者が報道に取りあげられはじめ、社会問題になりつつあったんです。彼らを支援する仕組みができないか、と考えたことが契機でした。
調査を進めるうちに、どうやらリクルートが若年支援を展開するらしい。これは一緒に何かやれるかもしれないと思って話を聞きに行ったんです。
すると、すでにフィジビリ(事前調査)をスタートさせており、そこに IT関連のパートナーとして参画することになりました」

こうしてリクルートとともに立ち上げたのがジョブカフェ。この事業を通して石橋は大きな気づきを得たのです。

石橋 「当初は戦略コンサルティングに興味があったんですが、人や組織といった HR領域の面白さ、奥深さを知ったんです。どんなにいい事業アイデアがあっても、いいリーダーがいなければ物事は進まないし、メンバーの能力によっても事業の命運は左右されてしまう。
こうしたことに気づいて、HR 領域でもっと専門的にやっていこうと思ったんです」

こうして次に飛び込んだのが、なんと新卒で入社したPwC。しかし、入社直後にリーマンショックが襲います。

案件がまったくなく、経験を積めないもどかしさを感じていた石橋に、一本の連絡が。それは、ジョブカフェをともに立ち上げたリクルートの担当者からでした。

石橋 「再就職支援事業(リストラなどの事情により、退職を余儀なくされる労働者などの円滑な再就職を支援すること)で、ミドルシニア領域における新サービスを立ち上げるから一緒にやらないか?という話だったんです。
この事業は、世の中が不景気のときに活況を帯びるビジネスモデルなのですが、景気変動に左右されないビジネスをつくりたいという方針があったんです。事業開発ができるのでこれはおもしろそうだと思って参画を決めました」

しかし、雇用契約は正社員ではなく、業務委託社員としての採用。スポーツ選手のように毎年契約更新していくシステムでした。

リクルートでの新規ビジネスのルールは3年で黒字化に転換することが求められていましたが、2年目まではまったくそのめどが立たず、契約終了もちらついた切迫感のあるなか、ひとつの企業との出会いで局面が大きく変わるのです。

石橋 「2011年のことでした。YKK様が定年延長を検討していて、パートナー企業を探していたんです。
条件は、人事制度改革コンサルティング、意識啓発のための研修、再就職支援の3つの観点でサポートできること。このミッションに対して自分たちの新規事業の核になるサービス開発ができるのではないかと思いました。
そこで展開した研修がベースとなり、他の企業への導入が加速度的に進み、黒字化のめどが立ったんです」

こうして実績をつくり、契約更新を7年間継続してきましたが、リクルートの事業転換のタイミングで「契約更新はない」という状況になり、あらためて今後のキャリアを考えることになるのです。

くすぶっているミドルシニアを救いたい!彼らに活躍してもらうには

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▲石橋は、講師として研修を実施することも多い

転職を考えているなかで、まず思い浮かんだのが競合企業でした。

石橋 「組織人事のコンサルティングファームに戻ることも考えたんですけど、7年間ミドルシニアの事業展開をフロントで担ってきて、このテーマの深さとともにこの領域で自分と同じようなことができる人はいないと感じていたので、まずは競合を調べました。
そうするとパーソル総合研究所がミドルシニアを対象にしたリサーチをやっていることがわかりました。まさに今まで取り組んでいたターゲットですし、これまでの経験が生かせます。
リサーチ、ラーニング、コンサルティングというサービスが同一組織体にあるということも魅力だったので入社させていただきました」

当時パーソル総合研究所では、法政大学大学院の石山恒貴教授をプロジェクトリーダーに迎え、「ミドルからの躍進を探求するプロジェクト」として、2300人を対象にした大規模調査をスタートさせていました。

今後の少子高齢化に向けて、ミドルシニアを活躍させるための方策を科学しようとしていたのです。

石橋 「リサーチの結果を踏まえて研修を企画することは王道と言えますが、過去の経験からは、それだけではこの問題は解決できないという確信がありました。
人事制度設計・運用改革、意識改革のための研修、新たな職域創造としての再就職支援。この三位一体のサービスが、本当の意味で企業のミドルシニアに活躍してもらうための大事な要素だと考えたのです。
そしてパーソルであれば、どの切り口でも支援できることが圧倒的な強みだと思いました」

石橋は、なかでもミドルシニアが活躍するにはふたつの観点が重要だと結論づけました。ひとつは本人の意識改革、もうひとつは年上部下マネジメントの在り方です。

ひとつ目の本人の意識改革とは、より早い段階で不都合な未来も含めて“自分ごと”として考えるということです。多くの人は退職再雇用時や役職定年後で初めて、漠然とした理想と現実が違うことに気づきます。そこからでは、もう遅いのです。

石橋 「誰しも理想通りのキャリアを歩めるわけでないと薄々は思っているんです。ひとつの終わりを意識し、新しいことをはじめることに意識を向ける。これだけでも大きな差が生まれます」

もうひとつのマネジメントの在り方については、石橋が特に大きな課題を感じているキーワードになります。特に深刻だと感じているのが「年上部下のマネジメント」です。

石橋 「年上ということで年下上司も遠慮してしまって、言いたいことも言えず放置に近い状態になってしまっていることが多いんです。
そうなると年上部下は疎外感を感じます。マネジャーには悪気はないかもしれませんが、そのような扱いを受けると部下は今後のキャリアを描けないし、やりがいもなくなってしまう。今回の調査では、そういう負のスパイラルが見えてきました。
これから課長職などに上がろうとしている人たちは、ちょうど氷河期世代。企業が採用を抑えていたこともあり、若手の育成すらも経験していない人たちが多いんです。今まで日本が直面してなかった課題であり、これは意義がある!と感じました」

こうして、本人の意識改革と上司教育を組み合わせる新しいサービスを開発するに至ったのです。

お互い相いれない年上部下と年下上司、関係をつくるのは会話に尽きる

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こうした石橋の考えに共感し、組織の課題を委ねてくれたのは、かつて石橋を頼ってくれたYKK株式会社でした。YKK様を知り尽くしている石橋を、中長期の構想策定パートナーとして再び認めてくださったのです。

YKK様も石橋と同様にマネジメントへの課題を感じていましたが、手を打てていない状況だったのです。

石橋 「一番問題だと思ったのは、上司と部下のコミュニケーションがまったくなく、お互いが何を考えているかわからないことだったんです。
年上部下はこれまでの自分の実績を過大評価し、『悪いようにはされないだろう』って思っています。
一方で、年下上司は部下が何を望んでいるのか、どんな経験を積んできて、いつまで働きたいと思っているのか。人となりや希望をまったく知らないんですよ。この点をしっかりすり合わせしていく。
これはマネジメントをつかさどる上司の責任であることを、理解してもらうことが大事だと考えました」

これまで石橋が行なったリサーチ結果などにより、「上司に対しての信頼度=中長期のキャリアを支援してくれること」であることも明確になっていました。

実践力を上げてもらうため、特に力を入れたのがロープレです。上司役と部下役をそれぞれ配置し、キャリア面談のロープレをやってもらうのです。実際に対象者に実施してみると面白い傾向も見えてきました。

石橋 「上司役の人の話す量が多いと、ロープレもすぐに終わってしまうんですよ。逆にちゃんと部下の話を聞いていこうとすると、部下も上司に話すようになるんですよね。
部下の立場を疑似体験してどういう気持ちになるか、身をもって知ることが大事なんです。このロープレを通して、部下とどうコミュニケーションを取ればいいかが分かった!という方が非常に多くいたのは大きな成果だったと思います」

お互いが暗黙知で理解しようとすることは日本固有の特徴かもしれません。ですが、そういったマネジメントが限界にきていることを石橋は声を大にして伝えていきたいと考えています。

石橋 「本人と組織の意向が異なっていることほど不幸なことはないですよ。組織人事の仕事というのは、究極は人を幸せにする仕事なんですよね。
そして、働いている社員がやりがいや満足を感じるかどうかは、上司がもっとも影響性をもっています。相手が年上であろうがなんだろうが、一緒に考えて悩んであげることで、ミドルシニアはもっともっと躍進できると思っています」

少子高齢化で若手社員が減少していくなか、組織のなかでくすぶってしまっているミドルシニアの躍進、その鍵を握っている年下上司のマネジメントのあり方を変えることが日本を元気にするといっても過言ではないのです。

実現したいのは純粋にお互いを理解し合うこと、ただそれだけ

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2018年現在、人事制度改革や新たに開発した研修、さらには再就職支援を行なうパーソルキャリアコンサルティングとも連携した、組織高年齢化対策支援を行なっています。石橋はこの課題に対して、ただの研修で終わらせるつもりはまったくありません。

石橋 「今の日本にとってミドルシニアの活用は、量的にも質的にも日本の労働市場における一丁目一番地のテーマ、要はもっとも緊急で重要な課題のはずなんです。一般的に彼らが再雇用とか役職定年で役割が変わるときは、『でも』『しか』とあきらめて進んでいくことも多いんです。
そうではなく、自分ならではの働く意味、意義を見出して働いてもらいたいんですね。いつ契約を打ち切られるかわからない1年契約更新を経験した人間から見れば、仕事があるということ自体が素敵なことですから。
そして、究極はこうしたマネジメント研修が必要なくなる世界が理想ですね」

さらにはミドルシニアならではの、ポジティブなキャリアチェンジが増えていくことを願っています。

たとえば農業や大学講師など、ミドルシニアだからこそ「こんなキャリアがあったのか」という事例をつくることも、石橋の構想には描かれています。

お金だけで物事を考えるのではなく、「何のために働いているのか」を問い直すことが、人生100年時代の人生戦略においては求められているのです。

石橋 「そもそも、みんなもっとコミュニケーションを取るべきですよね。単に目標管理をするのではなく、これからどういう生き方をして、どうなりたいのか。どんなときにうれしかったり、落ち込んだりするのか。
一見無駄話に見えるようなことも含めて、互いが未来予想図を語り合えるようなコミュニケーションが促進される環境をつくっていきたいです。
若いからわかっていない、シニアだからわかっている、なんてことはないのですから。一緒に考えて、お互いが自分の考えや未来を共有すれば多くのことは解決すると思います」

手がかりは意外とシンプルなことなのです。日本特有の年齢に対しての考え方にとらわれずに、純粋にお互いを理解することが、石橋の目指す世界の実現につながっていくのでしょう。

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