歴史をポップに! 人生楽しく! レキシズルが仕掛ける「歴史との遊び方」

東京都神田駿河台。かつて江戸幕府が駿河国の役人を住まわせたことから名がついたこの街に、毎週水曜日だけ開店するショットバーがあります。その名も「レキシズルバー」。ここは「誰でも気軽に歴史トークを楽しめ、つながりを持てる場をつくりたい」と、首脳・渡部麗(わたなべ・りょう)が開いたコミュニティ・バーです。
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レキシズルとは、歴史好きの交流活性を目指したメディアである

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レキシズルバー。ひとが溢れている
水曜日の夜19時。12名ほどのカウンター席があるだけの小さなバーに、ちらほらと人が集まりはじめます。夜が深まるにつれ、店の前にまで人が溢れていく光景を見て、通りすがりの人はちょっと驚くかもしれません。

「レキシズルバー」は、広告業を営む渡部商店が手がける、歴史好きのための社交場です。お城好きや大河ファン、歴史小説やゲームの愛好家、はては歴史学者ばりの知識家まで、あらゆる“歴史好き”がお酒と会話を楽しむために訪れます。

ここでは男女を問わず、幅広い世代のお客さんが歴史を肴に楽しく語り合う姿を見ることができます。仲間うちだけでマニアックな話題に終始するような閉鎖的な雰囲気はなく、はじめて遊びに来た人や、歴史は好きだけどそんなに詳しくないという人でも、すっと入っていける居心地のよさが特徴です。

渡部「歴史が好きといっても、みなさんいろんな“好き”がありますよね。だから、はじめてのお客さんには、必ず好みを聞くようにして、合いそうな常連さんとマッチングしちゃいます。ひとりには基本させません。だってきつくない?ひとりぼっち(笑)。常連さんもそのあたりをよく心得ていて、店の雰囲気づくりに協力してくれるんです」

ほどよく場も温まった21時頃から、お店では名物企画「数寄語り」がはじまります。数寄語りは、お客さんが自分の好きな歴史について自由に発表ができる参加型のトークイベント。話の上手い下手に関わらず、15分の持ち時間に歴史への熱き思いをぶつけようと、毎週多くのプレゼンターが挑戦する人気企画です。

さらに毎月第2土曜日には、この数寄語りを登竜門とした超・本格的プレゼンイベントが同じビルの3階で開催されています。その名も「TERAKOYA」です。

TERAKOYAに登壇するのは、数寄語りで腕を磨いたスゴ腕歴史プレゼンターたち。スライドを駆使しながら繰り出す彼らの軽妙なトークは、笑いあり、お涙あり、はたまたお色気あり。あらゆる角度から歴史を紐とき、聴き手をめくるめく歴史の世界にいざないます。

渡部「歴史って、知らないと語っちゃいけないイメージがあるじゃないですか。だけど、もっとポップにライトに楽しんでいいと思っているんですよね。知らないなんてもったいない!本気でそう思っているんです」

そんな渡部の思いをベースに生まれたのが、これらの企画を手がける歴史好きのコミュニケーションメディア「レキシズル」なのです。

レキシズルとは、興味層でも気軽に歴史を楽しめる社交サロンである

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レキシズルスペース初のTERAKOYAは「幕末龍馬」
レキシズルのプロジェクトがはじまったのは、2007年。PHP研究所が発行する月刊誌『歴史街道』の営業担当者や編集者たちと一緒に、「歴史をもっと盛り上げたいね」と語り合ったのがきっかけです。

渡部はふだん、家業である広告業を生業とする渡部商店の代表として、マスメディアを中心とした広告プランニングを行なっています。スタッフとともに、歴史への造詣の深さを武器としたユニークな企画を積極的に手がけています。

当時、ちょうど『歴史街道』での広告案件を取り扱っていた渡部。『歴史街道』は予備知識なしでも読める、わかりやすい紙面づくりをしている雑誌ですが、読者層のほとんどはディープに歴史を愛する人たちでした。

渡部「歴史ってこんなに面白いのに、ずいぶん敷居が高いものになっちゃってて残念だね、もっと誰でも楽しめるものにしたいねって話してたのね。だけど、どうしていいか分からなかったから、まずはディープな歴史好きの人たちと交流してみることにしたんです」

はじめは『歴史街道』主導ではじまったレキシズル。しかし月刊誌の編集業務は超多忙で、単発でのイベントを何回か企画するも、その後長くは続きませんでした。そこで、プロジェクトは渡部商店が引き継ぐ形となりました。

これから交流の場をどうやってつくろうかと渡部が思案していた矢先のできごと。渡部商店が先代から経営していたショットバーで、水曜担当のバーテンダーが辞めることになりました。そのとき彼は、だったらその水曜だけ、バーを歴史好きに開放してみようと思いつきます。

渡部「歴史プロデューサーとして活動してる女性を女将として入れて、歴史のバーにしたら面白いんじゃないかなって思ったの。当時盛り上がっていたmixiで告知してみたら、彼女のファンが来てくれるようになって。それがレキシズルバーのスタートですね」

2007年頃からじわりと認知されつつあった歴女の存在。レキシズルバーをはじめた翌年、それが偶然にも大ブームに。バーへの取材がテレビや雑誌から殺到するようになりました。

おかげでレキシズルバーは、歴史好きの間でちょっとした有名な店となり、多いときには5、60名と、対応しきれないほどのお客さんでひしめき合う場に成長します。

さらに2012年には、自社ビルの3階を改装しレキシズルスペースの運営を開始。TERAKOYAもはじまって、レキシズルはまさに順調そのものに見えました。

しかし渡部は、その成功を素直に喜べずにむしろ悩んでいました。なぜならその頃のレキシズルバーは、思い描いていた「興味層でも気軽に歴史を楽しめる場」とは違ったからです。

というのも、当時のバーの女将を慕う常連は歴史を愛するあまり、内輪の仲間を大切にし、興味層が入りづらい雰囲気があった。

渡部「はじめはそれでもよかった。歴史を熱烈に愛する人が磁力とならなければ、場は生まれないから。だけど、あくまでも僕の目指すゴールは、歴史をポップに楽しめる場だったんだよね。いろいろ悩んだ挙句、思い切って女将に身を引いてもらうことにしたんです」

決断は2014年のことでした。女将とは長年一緒にやってきただけに、それは身を切るような思いで決めた方向転換。当然、離れていくお客さんもいました。しかしこの思いだけは、どうしても譲ることができなかったと、渡部は振り返ります。

女将が去った後は渡部自身が中心となり、新しいバーテンダーと二人三脚でお店をイチから仕切り直しました。現在のレキシズルバーのように、歴史に詳しい人もそうでない人も、「歴史が好き」というだけで仲よく語り合えるポップな雰囲気は、このようにして渡部がいちばん大切にしてきたコンセプト。

2017年春、「いまが一番いい雰囲気だね」と渡部は笑います。

首脳・渡部麗とは、プレゼンスキルを持った歴史好きの広告マンである

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歴史を教えてくれた祖母と
渡部「そういう僕自身といえば、純然たるディープな歴史好き。物心ついた幼稚園児くらいからだろうね。ゼロ戦と戦艦大和のフォルムがかっこいいなと思ったのよ。その乗り物の存在意義とか分からないで」

幼い彼の様子を見た母方の祖母が、戦艦図鑑を買ってくれたり、太平洋戦争当時の話を聞かせてくれたりと、彼の知的好奇心を満たそうと取り計らってくれたおかげで、どんどん歴史の世界にのめり込んでいったと、渡部は記憶を辿ります。

渡部「歴史関連の本やゲームのある生活が日常だったね。思春期は、仲よかった友達3人と一緒にゲームとかして、小さいコミュニティをつくって情報共有しながら楽しんでたかんじ。閉鎖性あるよね(笑)。本質的には狭い人間ですよね」

そんな渡部が今、「歴史をポップに」をコンセプトに掲げレキシズルの活動を行なっているのは、<ものごとを分かりやすく、広く世間に知らせる>広告マンとしてのもはや職業病だと、自分では分析しています。

渡部「あるときね、もったいないなって思ったの。歴史はこんなに面白いものなのに、狭い世界の中だけで完結して楽しんでていいのかなって。マニアックな歴史好きはコミュニケーション下手も少なくない。彼らのコミュ力が上がれば、もっとたくさんの人に魅力が伝わるじゃない?」

たとえば彼がTERAKOYAにプレゼンターとして自ら登壇するとき、広告のプロとして培ってきたプレゼンスキルを使って、聴き手の知的好奇心をくすぐる工夫を施しています。特に気をつけているのは、あまり知識のない人が『この部分気になる、もっと知りたい』と思えるモヤモヤを残すこと。

すべてを教えずにあえて残した余白の部分を、聴き手が自分で調べるようになれば、それが歴史好きへの一歩になると渡部は考えているのです。そしてそのさじ加減は、ディープにマニアックに歴史を知り尽くしている渡部だからこそ、できるコミュニケーション。

そんな彼のポップでひねりの効いた話芸を楽しむために、多くのお客さんがTERAKOYAに遊びに来てくれています。

TERAKOYAとは歴史の魅力を伝えるスターを輩出する現代の私塾である

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TERAKOYAの風景

レキシズルが数奇語りやTERAKOYAを仕掛ける理由は、歴史のエンターテイメント化が進めば、世の中に歴史好きがもっと増えると考えているから。

知識の多寡に関係なく、自分の好きを他者に堂々と伝える場をつくる。そしてそこからキラリと光る才能を見つけ、彼らのプレゼンスキルを伸ばし、歴史の魅力を伝えるスターとして世にどんどん送り出す。

彼らが活躍の場を広げるほどに、より多くの人に歴史というコンテンツの魅力を知ってもらうきっかけが生まれます。渡部は歴史を好きになる種をどんどん蒔いていきたいのです。

現在、レキシズル公認の歴史プレゼンターは4名。幕末ファンにはたまらない「幕末、本当に日本を守った男TERAKOYA」や、歴史小説家・司馬遼太郎の魅力に迫る「司馬の夢TERAKOYA」など、彼らはTERAKOYAの場で、それぞれの持ち味を生かした魅惑的なコンテンツを披露しています。

渡部「幕末のころは江戸から地方まで、さまざまな場所に私塾があったんです。私塾から多くの人材が輩出されたから、あの時代が活性化したんですよ。レキシズルも歴史プレゼンターを育成する私塾のような存在になりたいんです。歴史に詳しい人には、初心者を楽しませる技術をぜひ学んでほしい。こういう風にやると分かりやすいっていうね。で、みんなもっと歴史と遊んでほしい(笑)」

レキシズルは、歴史を通じて何かに気づいたり、誰かとの交流がちょっと深まったりと、人生を楽しむためのツールとして、「歴史との遊び方」を広めるメディアでありたい。そう考えています。

渡部「歴史の魅力って結局は「ひと」。いわば人間学なのね。人って生まれる時代を選べないじゃないですか。平和な時代に生まれた人もいれば、激動の時代に生まれた人もいる。その時代で何を考え、どう生きていったか、それを知るのが面白くないわけがない。自分自身の魅力に結びつくヒントだっていっぱいある。その面白さを気楽にいい加減に楽しめるのがレキシズルのいいところ。だいたいうちは酒出してるし、お客さんみんな酔っぱらってるからねえ(笑)」

歴史には興味あるけど、どこから手をつけたらいいか分からない。そんなときに、レキシズルのイベントをちょっと覗いてみようかって、足を運んでもらえたら最高です。

レキシズルバーで歴史にちなんだカクテルを飲みながら、TERAKOYAで面白おかしいプレゼンを聞きながら、いつかの時代の誰かの物語に思いを巡らす夜が、あなたのこれからの人生を今以上に面白くすることでしょう。

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