リリース直後のRettyに3分で投資を決断ーー決め手は「人柄」一点のみ

資本金400万円でスタートしたRetty。半年後には資金が尽きることが分かっていたRettyに、初めて出資をしてくれた人が林正栄さんです。社長の武田和也と会ったその日に出資を決めたという林さんに、その理由を伺いました。
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出資をするのに、人柄以外をチェックする意味はない

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▲エンジェル投資家・林 正栄 さん
1981年伊藤忠商事入社、ドイツ鉄鋼会社取締役、シカゴ支店長等を歴任。2001年に食品関連上場企業取締役に転じた後、2003年に事業投資ファンドを設立し副社長に就任。2010年に経営コンサルやスタートアップ支援を行うエミアル株式会社を設立、代表取締役就任(現任)。
2015年に日本最大規模のエンジェル投資家グループを擁するAngel Bridge株式会社を共同設立、パートナー就任(現任)。青山学院大学法学研究科非常勤講師(現任)。


商社に長く勤めたのち、2010年にエミアル株式会社を設立し、コンサルティング事業を中心に投資活動をしている林さん。同時にRettyユーザーでもあります。

林さん 「商社に勤めていた時の海外駐在中、レストラン情報は大事な引き継ぎ事項のひとつだったんです。お客さまをおもてなしすることが多いから、駐在員同士で日本人向けのお店や外国のお客さま向けのお店の情報共有をしていました。アナログなRettyみたいな感じですよね。Rettyも『この人がこう書いてるんだったら間違いないな』って判断できるところをすごく気に入っています。『行きたい』ボタンを押し過ぎて、今ではお店リストが2000店以上になっちゃいました」

林さんと武田の最初の出会いは2011年5月末。Rettyをまもなくリリースしようとしていたタイミングでした。

林さん 「共通の知り合いを通じて知り合ったのがきっかけです。武ちゃんは体つきが細いから、一見頼りなく見えたんですよ。でも少しお話をして印象が変わりました。この人は“やりたい何か”を強く持っている。可愛げがあるし、なんとなく人に好かれそうだから、たぶんみんなが手伝ってくれるんだろうなぁと思いました。あとはインドに行って人生観が変わった話をしていましたね。『人の役に立つことをしたい』っていうのは当時から言っていました」

「今初めて見返した」と笑いながら、林さんは当時のメモを記したノートを見せてくれました。

林さん 「『資金調達をして海外展開をしたい』『お店とユーザーの関係性を深くするサイトなんだ』っていうことを一生懸命話してくれましたけど、2〜3分聞いてすぐに出資を決めたから、メモは書いたもののあまり聞いてなかったんですよね(笑)。でも今見直すと当時を思い出せて面白いです。この時言っていた想いや事業の進め方は今も全然変わってない。ここまでブレないのは珍しいし、すばらしいと思いますね」

わずか2〜3分で出資を決めたのは「事業のことは聞いても仕方がないから」と林さん。

林さん 「これからやることがうまくいくかどうかなんて、誰にも分からない。だから『どういう人なのか』ってこと以外、チェックする意味がないんです。武ちゃんはたぶん、お金に全く興味がないんですよ。それはすぐに分かったので、出資をしたら一生懸命何かを作りあげようとするんだろうと思えた。なんとなくいい人そうだし、運がありそうだし、みんなと一緒に事業をやっていくんだろうなと思いましたね。武ちゃんに想いがあって、なっちゃん(現取締役の長束)はプログラミングはやったことないけど頑張るって言っている。それでもう、私としては十分なんですよ」

武田にとっての「厳しくも頼れる」存在

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▲2011年6月末、武田と2度目の面談をした時の林さんのメモ

林さんがRettyに1000万円の出資をしたのは同年8月。続けてRettyはサイバーエージェント・ベンチャーズからの資金調達を実現しましたが、「林さんからの出資が決まっていたおかげで有利に交渉ができた」と武田は振り返ります。

その際の交渉の相談に乗ってもらったり、契約書の見方についてアドバイスをもらったりと、当時の武田にとって、林さんは頼れる存在でした。

林さん 「すごくかわいい瞬間があったんですよ。武ちゃんに食事に誘われたんだけど、出資はもう決めてるし、断ったことがあって。そうしたら『一緒に食事をしてお互いの人柄を知ることが出資していただく条件となっております』って言われたんです。おぉ、偉そうにしたなぁと(笑)。それでなっちゃんと3人で四谷の出島厨房ってお店に行きました。なっちゃんは大人しそうな人っていう第一印象で、ちょっと失礼ですけど、こういう人が起業するんだなぁって意外でした。彼は自分の哲学をあまり語らなくて、武ちゃんをうまくサポートするんだろうって印象がありましたね」

一方では、時に厳しく接することも。 

林さん 「創業から1〜2年後に、Rettyはすごく厳しい時期があったんです。たぶん武ちゃんのRetty人生でも一番苦しかったことの一つじゃないかな。その時に『お金を貸してほしい』って相談されたけど、安易に手を差し伸べてはいけないと思って断ったんですよ。ところが後で聞いたら想像以上に苦しんでいて、いろいろなところでの工面をした後だったようなんです。『1回自分で頑張ってみてよ』ってつもりだったのに、1回どころか100回頑張った後だった。可哀想だったなって今でも思ってますが、同時にお金を出さなくてよかったのかもしれないとも思ってます。すごく嫌な言い方をしちゃうと、そこで断ったから彼はさらに頑張れたんだと思うんですよね」

VCからの出資も先送り。2ヶ月後に資金ショート

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▲資金が底をつきかけていた当時の通帳には、残高がわずか7万円という記載が残っている

当時のRettyはまだ売り上げが立っていない時期。信用が足りずに銀行からお金を貸りることができず、成長性の見極めが難しいことからベンチャーキャピタルの出資も先送りに。まもなく社員5名分の給料も支払えなくなるところまで資金は尽き、2カ月もすれば潰れてしまいそうな状態でした。

武田が林さんを訪れたのは、まさにそんなタイミング。「期待感というよりは、もはや『行くしかない』という状況だった」と武田。「すでに断られ続けていたので、がっかりするよりも『次に当たるところを探さなければ』という思いが先だった。でも表情はかなり切羽詰まっていたと思う」と苦しかった当時を語ります。

投資家の特権は“自分にはできないけど社会に役立つこと”を応援できること

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▲2017年6月に移転したRettyの麻布十番オフィスで、当時について振り返る林さん(左)と代表の武田(右)

創業当時の武田と長束の様子を「少ない資本金の中、赤坂の築50年ぐらいの事務所で死に物狂いで頑張っていた」と振り返る林さん。そういう状況での出資は、林さんにとって幸せなことだったのだそうです。

林さん 「”自分にはできないけど社会の役に立つこと”は、世の中にたくさんある。それに対して『少しの資金で応援する』っていうのは、振り返れば私にとって居心地のいいサポートの仕方だったのかもしれないですね。自分にできないことを一生懸命やってくれる人を応援できるのは、人生で一番幸せなことなんです。うまくいくかどうかは別として、非常にうれしいことなんですよ。だから出資したお金をどういう風に使ったかなんて、全く興味がないんです。武ちゃんに聞いたことも一度もないですしね」

お金の使い道も、最終的に事業がどうなるかにもこだわらない林さんにとって、投資をしてよかったと感じるのは、どのような瞬間なのでしょうか?

林さん 「2015年の戦略発表会にお伺いしたんですが、メジャーリーグベースボールの発表をするような部屋を貸切にして、大勢の人の前で武ちゃんがスティーブ・ジョブズ風の雰囲気でプレゼンをしていて。その時に、応援しててよかったなぁって本当に思いましたね。実は武ちゃんは私の息子とほぼ同い年なんですよ。だから自分の子供がリトルリーグで二塁打打ったみたいな感じで(笑)。涙が出そうなぐらいうれしかったですね」

「武ちゃんは親を大事にしてくれる子なんですよ」と林さんは続けます。

林さん 「彼は投資家への感謝をすごく持っている人。『海賊と呼ばれた男』という小説の中で印象的なシーンがあって、富裕層の人が自分の家を売って全額を主人公である創業者に投資するんです。そして老齢になってその会社が上場した時、一番前の席に座って『自分のやったことは人の役に立った』と実感する。これって、良い経営者と良い投資家、どっちもいるからこそなんですよ。家を売れって言われたら、ちょっとどうしようかなって思いますけど(笑)。こういうお互いが気持ちのいい関係は、すばらしいなと思いますね」

2011年のリリース当初からユーザー数3000万人を突破した現在のRettyまで、ずっと応援してきた林さん。最後に、今後のRettyへの想いを伺いました。

林さん 「最初は武ちゃんとなっちゃんだけだったのが、社員数は100人近くになって、皆さん楽しそうにしている。そこに対してちょっとでも応援できたならうれしいですよね。武ちゃんはすごくオープンなんだけど譲らないことを結構持っている人なので、たぶん彼はみんなと一緒に、自分が信じていることをやっていくんでしょうね。彼は初めて会った時からユーザーの方、社員の方、 お店の方、関わるみんながハッピーにっていう考えを持っていて、そこは今でも全くブレない。これからもそこの部分は変わらずにやってくんだと思います」

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