“世界初”の全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」が生まれるまで(前編)

「洗濯物を畳む手間から解放されたい…!」 その願いを叶えてくれる、世界初の全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」。2017年3月に、いよいよその先行予約がスタートする予定です。構想から10年以上。 “ゼロ”から手探りで進めてきた開発の全容を、全3回にわたりお届けします。
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「375日」 人生に、新たに豊かな時間を創造する

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突然ですが、あなたが毎日の生活の中で「洗濯」に費やす時間は、どれぐらいだと思いますか?

洗濯物を集め、洗濯し、干して、畳んで、仕分け、クローゼットにしまう……。4人家族で試算すると、この一連の「洗濯」に関わる行為の合計時間は、およそ1万8,000時間にもなるそうです。そして、この半分にあたる9,000時間が、乾いた洗濯物を畳み、各人ごとに仕分け、クローゼットに運んでいる時間に該当しています。

9,000時間。日数で考えると「375日」、それは1年(365日)よりも多い時間です。セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社(以下、セブンドリーマーズ)は、この375日を開放し、人生に新たな時間を創造したい。その一心から、世界初の全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」を開発しました。

2017年発売予定のランドロイドでは、一度に約30枚の衣服が投入可能。洗濯物を1枚ずつ、きれいに畳み、家族ごとに仕分ける機能も付いています。さまざまな衣類を、ランダムな状態から全自動で畳むことができるロボットは世界に例がありません。2019年には、全自動洗濯乾燥機と折り畳み機能を組み合わせたオールインワンタイプを発売予定。2020年には、スマートハウス向けにビルドインタイプを発売予定です。

※セブンドリーマーズは、この一大プロジェクトの実現に向けて、パナソニック、大和ハウス工業とも提携。現在は、2017年モデルの発売に向け、最終局面を迎えています。

ランドロイドには、画像認識技術、AI(人工知能)、IoT、ロボティクス技術など、現在注目されている技術がすべて集約されていると言っても過言ではありません。初出展した「CEATEC JAPAN 2015」でも非常に注目され、世界23カ国以上で衝撃ニュースとして取り上げられました。現在、ようやく日の目を見ている「ランドロイド」。しかしその開発背景には、幾たびも訪れる試練、そして試行錯誤の日々がありました。

「世の中にないモノを創り出す技術集団」であるセブンドリーマーズが、その開発に着手したのは、実に10年以上前にさかのぼります。

BtoCビジネスで世界に勝負したいーー「Xプロジェクト」始動

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現在、セブンドリーマーズの代表取締役社長を務める 阪根信一が米国で博士号を取得し、その前身である研究開発型のメーカーに入社したのは、2000年のこと。当社は、特殊な樹脂を用いたプリンターや医療機器のパーツから、小型無人飛行機の開発や衛星事業など、高い技術力を持つ会社としてBtoBの世界で一定の評価を得ていました。

しかし阪根は、製造業の会社だけが持つポテンシャルの大きさを信じていました。「会社はもっともっと大きくできる。そのためには世界で戦える技術力と一流のブランド力を持った完成品で、BtoCビジネスへの参入が必須だ」と、当時から考えていたのです。

まだ世の中にないモノはなにかーー。探し続けていた阪根の目に、ある日飛び込んできたのは、洗濯物を畳む奥さまの姿。それは2005年、春のことでした。洗濯も乾燥も全自動でできるのに、洗濯物を全自動で折り畳める機械はない。すぐにリサーチを行ったところ、本格的に開発に着手している企業はこの時点でいない。

「これだ!」と確信した阪根は、早速社内にプロジェクトチームを立ち上げることにしました。極秘中の極秘プロジェクトとしてつけられた名前は「Xプロジェクト」。同時にXプロジェクトの開発に必要となる技術を既存事業に生かすべく「Zプロジェクト」も同部署内に立ち上げます。

両プロジェクトであわせて計5名の部署。世の中にないモノへのチャレンジは、この小さなチームからスタートしました。現在も開発の中心メンバーである北川宏司は、立ち上げ当初からXプロジェクトに参加しています。北川は当時、新人研修が終わったばかりの“ぴかぴかの新入社員”でした。

北川「チームのミッションをはじめて聞いたとき、『世の中にないモノを創り出す』未知への挑戦に対する期待と不安で胸がいっぱいでした」
社運を賭けた一大プロジェクトが、動き出した瞬間です。極めて難しい技術開発なので、事業化までは「5年はかかるだろう」と見込んでいたXプロジェクト。それが、実に10年以上の歳月がかかるとは、このときはまだ誰も知る由もありませんでした。

アイデアひとつダメになっても、またすぐに次にチャレンジすればいい

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世界中で利用される製品にするために、Xプロジェクトには、明確な理想像がありました。「一般家庭におけるサイズであること」「ぽいっと放り込まれた乱雑な状態から洗濯物を畳めること」「安全面を考慮し形状は箱型」「価格は一般家庭の手に届く範囲」――。2017年モデルが持つ形状は、はじめからすべて、その“理想像”がゴールに設定されていました。

北川たちはまず、追加で技術調査を実施。自動折りたたみ機は、本当にまだ世の中に存在していないのか、論文や特許を精査しました。結果は、やはり世の中には「ない」。市場調査の結果では、やはり世の中にニーズは「ある」。このふたつが判明した時点で、北川たちは調査をいったん終了させることになります。

北川「せっかく世の中にないモノを作ろうとしているのに、過去にあった技術や、他人が考えたアイデアが目に入ってしまったら、どうしても影響を受けてしまいます。必要最低限の情報を揃えたら、あとは自分たちの力で方法を考えたかったんです」
当時はまだ名前すらなかった「ランドロイド」。その構想を形にするまでには、開発すべき技術、解決すべき課題が、文字通り“山のように”ありました。

衣類を1枚ずつ、「つかむ」「広げる」「折り畳む」「仕分ける」「収納する」。一連の動きを想定し、北川たちがまず取り掛かったのは「折り畳む」方法を模索することでした。洗濯物はどうすれば畳むことができるのか。自分でも何度も衣服を畳みながら、マシーンが衣類を畳む手順を考えていきました。

技術者の底力は、すごいものです。解決すべき課題が目の前にクリアになってくると、彼らは次から次に、その解決方法を考え出してきます。

メンバーが3ヶ月で作り上げた、最初の試作機の名前は「カラクリ君」。たったひとつのモーターだけで、レバーを回すと、パタパタとキレイに畳んでいく様子をみた阪根は「すぐに特許を出すぞ!」と叫ぶほど驚いていました。しかし、このカラクリ君方式では、Tシャツはうまく畳めても、それ以外の衣類に応用が利かないこともすぐに判明。北川たちは落胆することもなく、また別の方法を模索しました。

デパートで利用されている、折り畳み補助器具を真似してみたり、何度も洗濯物を広げては畳んでみたり……。まさに暗中模索の中、北川たちの“手探りで開発”は進んでいくことになります。

幸運の女神は、あきらめない者にほほ笑む

動画出典:平井 慎一教授 (立命館大学) 『Cloth manipulation』   https://www.youtube.com/playlist?list=PLXQXjTfDOR0y_CjhW9dF2tXJPcy0EaYq6
2007年には、衣類のような柔軟物をハンドリングするロボット工学の技術を研究する大学の理工学部との共同研究をスタート。マシーンのハンドで衣類をつまみ、そのまま衣服の上を滑らせる「つまみ滑らし」の技術を共同研究しました。

これは、「衣類のどこがつまみやすいか」を画像認識するという最新技術の掛け合わせ。そもそも形状が変化する“柔軟物”を画像認識させること自体が当時ではかなり斬新な試みで、当然北川たちにその知見はありませんでした。

北川「画像認識を研究するにしても、まず、どんなカメラを使えばいいのかも分からない。カメラメーカーを招いて勉強会を行ったり、大学の研究者から教えてもらったり。この頃は、とにかく必死に勉強していましたね」
顔認識などの画像認識技術はいまでこそ一般的な技術ですが、ときは2007年。現在のようなAIブームでもなければ、画像認識が得意なディープラーニングの技術が世界的に広がるのも、2010年代と、まだまだ先の話です。

2008年、研究開発に光が見えない中、リーマンショックが襲いかかります。それに伴い会社の既存事業も例外なく売り上げが低迷。2009年には、さまざまな企業が研究開発予算を縮小・削減するニュースが飛び交っていました。技術開発も暗礁に乗り上げてしまい、Xプロジェクトは厳しい時期を迎えることになります。

しかし「ランドロイド」の開発チームは、開発の手をゆるめることはありませんでした。新規事業開発は、会社存続のためにも絶対に必要だーー。そう考える阪根の熱意もあり、ランドロイドの研究開発は予算の縮小はなし、続行決定となりました。その想いは、北川たちXプロジェクトのメンバーにも伝播されていきます。

北川「早くこの技術を完成させたい。その一心で開発に取り組んでいました。むしろ『技術開発を加速させ、早く次のビジネスを生まなければいけない』と、これまで以上に強く思うようになったんです」
転機が訪れたのは、2010年。研究開発を既存事業に生かすと研究を進めていたZプロジェクトが、先に実を結ぶことになりました。

北川「画像認識は、固形物の認識は得意なんです。工場のラインに画像認識技術を取り込み、自動検査機としての実用化に成功。既存事業のコスト削減に寄与することができました」
同時にこの頃、北川たちにブレイクスルーの瞬間が訪れました。大学との共同研究の結果Tシャツやタオルを一定の位置にセットした後にはうまく畳めるようになっていても、ランダムに積まれた衣類を一枚一枚取り出し、その衣類が何であるか認識し一定の位置に静置するめどがまったく立たず息詰まっていたときのことです。

通常は計算式で表せる事象も、柔軟物である衣類ではTシャツ1枚をとってもその変数が無限にあり、計算式に表すことすらできません。複数の衣類を同時に扱いたいとすればなおさらです。「どうすればいいんだろう」と、北川たちは何度も何度も何度も……衣類を広げ、折り畳む動作を繰り返していました。

幸運の女神がほほ笑んだのは、そのときでした。

○柔軟物がなんであるかを認識する「画像認識技術」
○認識した情報を学習し応用する「人工知能」
○認識した物体を折りたたむメカニズムである「ロボティクス技術」

個別の技術がひとつに繋がり、「ランドロイド」の“完成系”が北川の脳裏によぎった瞬間でした。

北川「極秘の技術のためその内容はまだ明かせませんが、ロボットアームで衣類を畳むだけなら、とっくに 目処が立っていたんです。それでも、ランダムに放り込まれた洗濯物をなんとかしないと、“世界中で利用されるもの”にはなりえない。『広げる』『折り畳む』この2ステップに込められた技術と想いが、5年間(2010年時点)の集大成です」
当時は、まだまだ実用化には程遠い、しかも一般家庭には置けないような“超大型”。それでも、試作機が完成して、ようやく光が見えはじめました。

北川「次にやるべきことは、各技術のスムーズな連携、サイズのコンパクト化、そしてコストダウン。この頃から開発は勢いを増したような気がします」
しかし、外部に見せられるレベルの試作機が完成したのは2014年。さらなる試練がXプロジェクトのメンバーに訪れることを、当時の私たちには想像すらできていなかったのです。

【中編に続く】

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