“世界初”の全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」が生まれるまで(中編)

「洗濯物を畳む手間から開放されたい...!」その願いを叶えてくれる世界初の全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」。本年5月30日に、いよいよ予約販売がスタートします。画像解析、人工知能、ロボティクスの融合で、開発の糸口が見えた前回(前編参照)。しかしメンバーに新たな試練が待ち構えていました。
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研究所の移転と、新メンバーの加入

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試行錯誤の末、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」の最初の試作機が完成したのは2010年のことです。しかしこの時点の機械は、まだまだ“超大型サイズ”。一般家庭で使ってもらうためには、さらなる改良が必要でした。

Xプロジェクトの立ち上げから携わっていたメンバーのひとり、北川宏司は、ようやく開発が波に乗ってきたことを実感していました。しかしそんな矢先、メンバーにとって予想外の事態が起こります。社内の組織再編に伴い、関西の研究所から、神奈川県相にある研究所へ移ることになったのです。

そこで彼らが直面したのは、これまでのように自由な開発ができないという問題でした。

関西の研究所は開発チームが好きなように使うことができていたのですが、移転した先はグループ会社の製造チームとの共用。当然、会社としては、まだ試作段階のXプロジェクトよりも、製造チームのメイン業務を優先させざるを得なかったのです。

北川 「作業時間が重なる場合は当然向こうにスペースを譲り、その間研究はストップしてしまいます。作業場所や測定器を使用するにも、常に許可を取る必要がありました。工場を稼動させることは会社にとって最優先事項なので仕方ありませんでしたが、どうにもはがゆい想いをすることが多くなりましたね」

せっかく勢いに乗れたと思った開発にブレーキがかかり、思い通りにXプロジェクトを進められない日々……。

しかし、それでもとにかく前に進むしかありません。先の見えない研究開発を着実に進めていくために、新たに開発責任者となった尾﨑毅志は、月単位で設定していたスケジュールを週単位に変更。率先してメンバーを鼓舞し、仮説と検証を細かく繰り返していったのです。

一週間でできなかったことは、次の一週間でクリアする……。メンバーはひたすらそれを繰り返し続けました。もう、寄り道ばかりしてはいられません。すべては1日も早く、世界初の「全自動衣類折りたたみ機」を世に送り出すため。

制限が加わってしまった環境をはねのけるように、全員が一丸となって、研究開発のスピードを加速させていったのです。

他の事業でトラブル発生——2年間の開発スローダウンを余儀なくされる

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しかし、Xプロジェクトの受難はさらに続きます。なんと会社の基盤ビジネスである、BtoB事業が危機を迎えたのです。2011年のことでした。

北川 「同じ工場内で別部隊がはじめた、BtoB向けの新たなビジネスでトラブルが発生してしまって……。なかなかお客さまに納品ができなかったんです。そのためXプロジェクトのメンバーも、開発を一時スローダウンして、その事業に協力することになりました」

この思わぬトラブルは思っていた以上に長引き、北川をはじめとしたXプロジェクトのメンバーは、それから約2年のあいだ、BtoB事業のサポートに多くの時間が取られることになりました。

当然、ランドロイドの開発は大幅にスローダウン。しかし北川は、どんな状況下でもランドロイドのことを常に考えていました。彼は別事業の製造ラインでサポートをしつつ、開発に活用できる動きはないか……というシミュレーションを行い、少しずつ研究開発を進めて行ったのです。

このとき、北川たちはすでにふたつの試作機を完成させていました。

ひとつは、2010年に完成した試作機①。見た目はまさに産業機器といったものでしたが、ロボットアームの動きをよりスムーズにすることに成功しました。「つかむ」「広げる」「折り畳む」という今のランドロイドの基本動作を、当初は数百万円かかると想定されていた産業用のロボットアームではなく、安価なもので実現できたのです。

さらに北川たちは改良を繰り返し、2011年には試作機②の完成にこぎつけます。

北川 「試作機①と試作機②の大きさは変わりませんが、後者には家電としての外装として、見た目をより洗練させることを目指しました。ふたつの試作機を開発して、次は機械を連動する部分の組み合わせを改良する必要があるな、と考えていたところでした」

まだまだ、改良しなければならないことがたくさんある――もどかしい気持ちを抱えたまま、プロジェクトメンバーはしばらく、他の事業に時間を取られることになります。しかしその脳裏には、常に「ランドロイド」があったのです。

開発再開で完成に一歩近づくも、まさかの資金不足に……

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ようやくメンバーがBtoB事業のサポートから離れることができたのは、2013年のことでした。北川らは、急いでランドロイドの開発を再加速させます。

2年の間に温めてきた改良のアイディアや、新たなメンバーの加入を得て、ランドロイドの技術は短期間で飛躍的に向上することになりました。

北川 「今までに作った試作機は、ロボットアームの一連の動作がスムーズにできないのが課題でした。しかし、新たに加わった小島修一の技術により、大きく一歩前進しました。おかげで今まではぎこちなかった動きが、短期間で徐々に改善されていったんです」

ランドロイドの完成に、一歩、また一歩と近づいていく――しかし研究開発期間がすでに長期化していたため、資金がそろそろ底をつきかけていました。代表の阪根は2014年のはじめから、投資家の援助を受けるため投資家と資金調達に向けた交渉をはじめます。

阪根 「その頃、当社の新商品である一般医療機器の『ナステント』や、カーボンゴルフシャフトの『セブンドリーマーズシャフト』が販売を開始するタイミングでした。このふたつの商品については、売り上げは見込めるだろう。でも正直なところ、ランドロイドは……という評価がほとんどでした。本当にこの夢のような技術が実現するのか、半信半疑だったのだと思います」

まだ世界のどこにもない商品に対して、投資をしてもらう。それは想像以上に難しいことでした。完成までのんびり待つなどという流暢なことは、先方にはできません。「もういい加減、試作機を見せてください」――投資家から催促を受けた阪根は、2014年のゴールデンウィーク明けに、「ランドロイド」の最新の試作機プロトタイプAを見せる約束を交わします。

北川 「デッドラインが決まったからには、そこで絶対に良いものを見せなければいけない。でもその時点で完成していた試作機は、まだ公に披露できるようなものではありませんでした。プロトタイプAは『つかむ』『広げる』『折り畳む』という一つひとつの独立した動作はできましたが、一連の動きを最後までできる確率がわずか10%程度だったんです」

衣類はつかめるけど、その後に繋げられない。畳むことはできても、そこに至るまでの動作がうまくいかない……。失敗が続き、北川たちは頭を抱えることになります。

ゴールデンウィークまで、残り数ヶ月——。Xプロジェクトは大きな正念場を迎えていました。

開発の命運を握る、投資家へのプレゼンテーション

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メンバーが必死に改良を続けたにもかかわらず、試作機の成功確率は向上しませんでした。プレゼンの1ヶ月前になっても、アームが衣類をポロッと落とす始末。この状況には、さすがの阪根も青ざめてしまいます。

北川 「ひとつの大きな問題を解決すれば、すべてが瞬く間に改良されるわけではありません。たとえば、ねじや機械部品のように形の変わらないもの(固形物)は、一度動作を記憶させれば次の動きに進んでくれます。でもランドロイドが扱うのはやわらかい衣類(柔軟物)です。そのため、スムーズな動作を記憶させることが非常に難しかったんです」

いつになったら、最後の動作までスムーズにできるのか……。出口が見えない中、北川たちはひたすら検証と改良を続けました。それでも、成功確率は50%程度が限界。納期のタイムリミットは、すぐそこまで迫っていました。

そして、ついに迎えたプレゼン当日。相模原の研究所まで訪れた投資家に、改良されたプロトタイプAが披露されました。はじめて、ランドロイドが社外の人の目に触れた瞬間です。

ものものしい雰囲気の中、「全自動折りたたみ」の実演がはじまりました。メンバーは固唾を飲んで、全身全霊をかけて改良してきた試作機を見つめます。

ロボットアームが衣類をつかみ、落とすことなく畳んでいきました。しかし1着を畳み終えるまでに要した時間は……なんと40分。時間はまだかかると伝えていましたが、実際にそれだけ長い時間を待たせるのですから、冷や汗ものです。

永遠にも思えた40分の実演を終えた瞬間、投資家の方々の反応は――?

阪根 「みなさんが『これはすごい!』と、とても良い反応を示してくれました。人類以外のものが、初めて衣類を全自動で畳んだ歴史的瞬間だ、と。それを目撃した驚きを感じてくださったようです。それを見て、ようやく私たちもホッと胸をなでおろしましたね」

この実演を成功に導いた要因は、学習を重ねた人工知能がその威力を発揮したことでした。メンバーがギリギリまで地道に検証を繰り返し、問題となる部分を一つひとつ潰してきたことで、解決の糸口を引き寄せたのです。当初はたった10%だった成功確立が、プレゼンの直前には一気に90%近くまで上昇していました。

怒濤の追い込みにより、なんとかひとつの壁を乗り越えたメンバーたち。ランドロイドの実演を見た投資家は、Xプロジェクトにさらなる課題を提示します。それは「もっと短い時間で」「もっと小さいサイズで」というもの。まだまだ、一般家庭で使われるには及ばないという判断でした。

「世界初の全自動衣類折りたたみ機」を構想してから、すでに9年の月日が流れていました。まだ、クリアすべき課題はたくさんある――ランドロイドが一般家庭に並ぶ日を夢見て、Xプロジェクトのメンバーはさらなる前進を誓いました。

【後編に続く】

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