商標の専門家として、ひとすじの道を往くーー特許庁OB・林栄二の心意気

新技術の権利取得を専門に手がける弁理士が多いなか、正林国際特許商標事務所では商標に特化した弁理士の雇用に力を入れています。入所2年目(※2017年時点)の林栄二は、商標審査官として特許庁で法律の立案を手がけてきたプロフェッショナル。今回は、彼が商標の専門家として歩んできた道のりを振り返ります。
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特許庁事務官から“文系”審査官になるまでの長い道のり

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「若いころは勉強にしろ仕事にしろ、これがやりたいという積極的な感じはほとんどなかったですね。よくいえば、縁に導かれて今があります」——そう話すのは、正林国際特許商標事務所(以下、正林事務所)の弁理士・林栄二。30年以上勤めた特許庁を定年目前に早期退職して早1年。2016年5月に弁理士として正林事務所に入所したばかりです。

高校時代に社会科系科目が好きだった林は、大学も明治大学法学部。そんな彼が特許庁へ。

林 「特許庁の審査官は公務員としては珍しく、自分の裁量で仕事ができるので面白いなとは思っていました。ただ実際には、特許や意匠は技術やデザインに詳しい理系大学出身者が審査を担当しますし、私みたいな文系人間は、事務官として入所することになるんです」

こうして林は総務や庶務といったバックオフィス業務の担当者として特許庁でのキャリアを開始します。特許に関わる仕事があっても、それは出願書類の書式をチェックするという程度。その内容の審査に関わることはありませんでした。

総務課のフロアには、法律の改正に携わる審査官たちも配属されています。林は彼らと顔見知りになって何度か言葉を交すうちに、どうせ特許庁に入ったのだから、審査をしたり法律を作ったりする仕事をしてみたいと次第に思うようになっていきました。

林 「先輩たちの姿を見ながら、法律を作る仕事は法学部出身の自分にぴったりだなと密かに思ってはいたんです。だけどそれは審査官にならないとできない。せっかく、特許庁に入所したんだから、審査官も経験してみたい。さてどうしようかと。唯一、文系でもなれるのが商標、いわゆるマークを登録する審査官だと知って目指すことにしました。ようやくやりたいことを見つけたといいますか。先輩との出会いは大きかったですね」

事務官から審査官になるためには、いくつものステップが用意されています。審査官への転身を希望する者は、まず選抜試験を受けなければなりません。そこをクリアすると心得と呼ばれる審査官見習いとなり、指導審査官について審査の基本を学びます。そして心得を卒業すると、今度は審査官補としていくつもの研修と試験が待ち受けているのです。 

林はこの長い道のりをゆっくり着実に歩んできました。そして入庁11年目、晴れて全ての研修を終え、試験に合格し、審査官としてのキャリアをスタートさせました。

憧れの「法律を作る仕事」を手に入れて得た充実感

誰もがはじめから自分がいったい何者であるのかを知っているわけではありません。林がそうであったように、縁や運に導かれてその時々でやってきたことから、少しずつ自分の資質に気づき、徐々に歩むべき道を見出していくものなのかもしれません。

自分の道を見つけた林は、商標審査官としてすぐに新しい法律の策定に携わる機会を得ました。それは、1992年に開始されたサービスマーク登録制度の導入。彼がはじめて自身の知識を使って条文を作成した仕事です。

林 「法律を作る仕事に関われたのは、しみじみ嬉しかったですねえ。まだ若い頃だったので張り切って法律の骨子を考えては、上司と何回もチェックしてね。その後、ほかの部署や国会に説明に行って、またそこでブラッシュアップして。非常に勉強になりました」

それまで商標登録といえば、「ビール」や「自動車」といった商品だけに許されたものでしたが、サービスマーク登録制度によって新たに「銀行」「運輸」「レストラン」といったサービスについてもマークの登録が可能となりました。

当時、商標登録の必要性が社会に認知されてきた時期だったこともあり、林が手がけたこの制度をきっかけに商標の出願数は何十万件にも増えました。

その後も林は、お菓子や飲料水の容器などの立体商標や、商品に地域の名称を用いる場合の地域団体商標制度、小売業者のマークの登録制度など、多くの法律や審査基準の作成や改定に携わります。

林 「仕事は大変。でもそのぶん充実感がありました。今と違って夜通し作業したりね。実は、結婚して数日後に審査官の採用試験に合格したんですよ。新婚なのに家に戻らない日も多くて、女房にずいぶん我慢してもらいました。思えばよくぞできたなと。家族には感謝しています」

商標の専門家は、世の中の流れに広く目を配る才能の持ち主

家族の陰ながらのサポートを受けながら、商標審査ひとすじの道を歩いてきた林。仕事にどんな魅力を感じていたのでしょうか。

林 「特許は新しいテクノロジーが次々に登場することで淘汰されていきますが、商標はそうではありません。まったく無名だった商品がその商標によって売れたり、有名になったりする。担当した商標の成長を見届けることができるんです。いい法律を作ることでそのサポートができますし、自分が審査官として登録した商標を街で見かけたりすると、やはり嬉しいですね」

商標の審査をするには、世の中を広く知っておくことが必要です。何故なら出願されたロゴやネーミングが既に世の中に出回っていないかを見極めることが商標の審査においてはとても大切だから。

林 「最高裁の判例でも、標準的な事業者目線で判断しなさいと決められています。あまりにも専門的すぎてもダメで、知らなさすぎてもダメ。たとえば、百貨店に置かれている商品はすべてが商標権の対象です。そう意味では広く浅くというか、一般的な感覚が必要ですね」

そのほかにも、世間一般に使われている言葉なのか、他人に不快感を与えはしないか。国や自治体で使用されているマークと重複しないかなど、目を配るべきは世の中の流れです。新しい技術かどうかを見極めるために、その分野の専門技術を深く熟知する必要がある特許審査とはそこが大きく違います。

林 「たとえば出願されたロゴを見て『このマーク、どこかで見たことがある!』とパッと思えるかどうか。そこが重要なんです。もしも気づかないまま通してしまうと、後になって困ってしまいますので」

そんな商標の面白さに魅せられた林は、さらに自分の知見を活かすため特許庁を早期退職することを決めます。そして2016年4月、商標の専門家を募集していた正林事務所へ弁理士として入所することになりました。

お客様から安心して任せられる弁理士になるため、新たな一歩を

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昔と比べると商標登録への意識は広がってきてはいますが、まだまだ企業に啓蒙する余地は大いにあります。特に中小企業やベンチャー企業のなかには、出願するべき価値や必要性を知らずにいるところが多いのが現状です。

正林事務所では、伸び代の大きいこの商標分野を積極的に開拓しようと考えています。およそ30年に及ぶ商標審査官・審判官のキャリアを持つ、林のようなプロフェッショナルが仲間に加わったことで、その可能性はいちだんと開かれました。

林 「実は、商標の専門家のいる弁理士事務所は少ないんですよ。審判官時代にも商標だけで食べていくのは厳しいと聞いてはいました。だからといって私みたいに文系出身で、商標ひとすじでやってきた人間が特許を担当することはできません。正林事務所だからこそ、自分のテリトリーで仕事ができるんです」

とはいえ、国家公務員から民間企業への転身は林にとって大きなチャレンジ。

林 「民間に来て痛感したのは、自分の知識で収入を得ているのだということです。国家公務員は社会に奉仕する精神を持っていますので、お客様の利益や事務所の利益を考えて行動するという意識にはもっと慣れていく必要がありますね」
また、出願された商標の登録をジャッジするだけだった審査・審判官と、いかに審査を通すかを考え抜く弁理士との立場の違いにも慣れる必要がありました。

林 「これまでは『これは登録できません』と結論づければ終わりだったのが、弁理士になってからは『ダメなら次はどうすればいいの?』と考えるようになって。実は、それが一番難しかったりするんですよね」

正林事務所に入所して1年(※2017年時点)。ようやく今、弁理士としてのスタートラインに立った林。これからどのような弁理士を目指していくのでしょうか。

林 「特許庁にいた頃からずっと、『林さんに任せておけば安心だよね』といわれる存在でありたいと思ってきました。弁理士になってもそこは変わらずに目指していきます。特に今はお客様に寄り添う仕事なので、これまで以上にやりがいを感じています。安心して頼ってもらえる商標の専門家でありたいですね」
商標の道ひとすじに歩み辿り着いたこの場所から、お客様への力強い想いを胸に秘め、林はまた新たな一歩を踏み出します。  

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