次元を越えて“好き”を現実に引き寄せるVR。それが、世界を一新させた

一度心を奪われてしまったら、もうそれより前の世界には戻れない。

好きな気持ちがあふれ出てくるほど、もっと知りたい、もっと近づきたいという想いが、全身を支配していくものです。

もちろん、それは一過性の感情かもしれません。

だけどそうじゃなかったら——?

好きという想いが、人生の道を選ぶ後押しになることだってあるのです。

根岸にとっての“それ”は、ボーカロイド・初音ミクとVRでした。

根岸 「高校生のときに出会って以来、もう10年以上ずっと聴き続けています。でも、自分の中では飽きないし、古びない。ある種、運命的な出会いでした。

当然ですが、初音ミクは生身の人間ではなくて、ディスプレイ越しに見る存在。でもどうにかしてもっと近づきたくて、同じ世界に立ちたかった。だからVRは革新的な技術でした。『あ、これが俺の行きたかった世界だ!』って」

もともと、アニメが持つ世界観や文化が好きだったと言う根岸。

「好きなキャラクターと同じ次元で存在できる世界をつくりたい」との想いは、VRとの出会いによって現実のものとなりました。

次元の境界を越えて近づいた瞬間から今まで、根岸の心に宿った情熱は絶えることなく燃え続けています。

つくる、遊ぶ、楽しむ。

もっと先を見たくなって、またつくり込み、世界を押し広げていく。

回り出した歯車は加速しながら、根岸をVRの住民へとどんどん引き込んでいきました。

根岸 「大学進学に向けて進路を考えたときにも、他の道に進む未来が見えなかったので迷わず情報系の学部を選びました。正直、好きな気持ちが強いだけで、知識も技術もないわけですよね。それでも、将来性とか関係なく好きなことを突き詰めようと思ったんです。

大学の在学中には、VRのヘッドフォンディスプレイを使って初音ミクさんと添い寝できるアプリを開発しました。自分の願望でしかないですが(笑)。これは『ニコニコ動画』で15万回近く再生されるコンテンツになりました」

「好きこそものの上手なれ」の言葉通り、根岸は着々とエンジニアとしての道を進んでいきました。そして、在学中にインターンとしてDeNAで働いたときに、CEO前田とCTO佐々木との最初の出会いが訪れることになるのでした。

DeNAからスタートアップへ。エンジニアとして試練の日々

DeNAでインターンを経験していた根岸。当時、まだ同社の一部署だったSHOWROOMに対し「イケてるサービスだと思っていました(笑)」と振り返ります。

根岸 「今でこそVTuberは一般的になってきましたが、当時のSHOWROOMでは“ニゴドル(2.5次元アイドル)”というキャラクターコンテンツがありました。

X-boxのコントローラーでキャラクターを動かしながら声優さんが話すという、いわばVチューバーの走りですね。『こんなサービスだけどやってみる?』と言われて、即食いつきました。『まさに俺はこういう仕事をしたかったんだよ!』って」

インターンを経て、根岸は新卒社員として2016年にDeNAに入社。『モバゲー』の3Dアバターを使い、VRゲームを遊べるようにする基盤の開発に携わっていました。

ところが、1年3カ月経った所で退職します。

かねてからの知り合いに誘われ、XRエンジニアとしてスタートアップの制作会社に転職しました。

根岸 「プロジェクションマッピングやVRコンテンツ、VTuberの運営など、さまざまなクリエイティブの制作に携わりました。いわゆるひとりエンジニアだったので、すべてが自分の裁量にかかっているという環境。自由度が高い一方、孤独な戦いも経験しました。

要するに、自分がやらなければすべて終わり、という状況です。たとえ正解がわからなくて不安でも、つらくても、とにかく自分でやりきるしかない。仕事をこなすための成長はできましたが、一方で自分の求める世界に近づけていないと感じていました」

迷いの闇に入り込んでいたとき、偶然にも声をかけてきたのがSHOWROOMのCTO・佐々木だったのです。

ちょうどVTuberが普及し始め、機は熟したとの判断からXR領域への進出を検討していた時期のこと。

そこに根岸の知見と経験、SHOWROOMとの縁が重なり、ジョインという道が開けたのです。

根岸 「DeNAやスタートアップで働きながらも、『好きなキャラクターが同じ次元にいる世界をつくりたい』という想いが薄れることはありませんでした。自分が理想とする世界を、いかに早く実現させられるか。そのための道を選ぶことは、会社や仕事を考える上で常に大切にしている指針でもあります」

ぶれることのない情熱を胸に、2018年5月に根岸はSHOWROOMに入社しました。

“オタク”ってどんな存在?SHOWROOMがめざすVRビジネス

2020年現在、根岸はXRエンジニアとしてバーチャルライブ配信サービス「SHOWSTAGE」の開発を担当。アプリ画面の設計や見せ方などを構築するプロセスに携わっています。

根岸 「前田との『公開1on1』では、いわゆるオタクとSHOWROOMの親和性について話しました。今や“オタク”ってすごく市民権を得ていて、しかも多様なんですよね。アニメオタクとアイドルオタクとゲームオタクとか、ひとくくりに“オタク”と言ってもタイプも思考も全然ちがうわけです。

その中で、SHOWROOMはキラキラしたアイドルのイメージがビジネスブランドとして確立していて、それに対して自分を含むアニメオタクは少しトーンが違うというか……」

しかし、前田の答えは明快でした。「SHOWROOMがあらゆる属性の人に門戸を開ける姿勢を見せようとしていても、実際にその人に合ったコンテンツが用意できていなければ意味がないよね」というひと言が、根岸の心にはすっと響いたのです。

根岸 「確かにそうだ、と。SHOWROOMに興味を持ってくれた人が訪れて、とどまってくれるコンテンツをつくるという芯があれば、それは姿勢を見せるなんてことよりもはるかに説得力のあることなんだなって腑に落ちました」

たとえばSNSやニュースサイトをちょっとのぞいてみれば、ジャンルを問わずどんな情報に対してもタッチポイントがあります。

多様すぎる情報にさらされていると、嗜好や興味の方向性を見失ってしまいがち。

つまみ食いしすぎて、どれも中途半端になってしまうリスクをはらんでいます。

根岸「でも、なんらかのオタクであることって、ある意味で圧倒的な個性にもなりうると思うんです。熱狂できるものがあるかどうかということ。確かに何が好きかという違いはありますが、それがなんであったとしても、情報にあふれて、興味が移り変わりやすい今の時代に『心底これが好きだ!』と言える軸があるのは強いですよね。

SHOWROOMのターゲットはオタクだという意味では決してないですが、SHOWROOMがそういう熱狂を生み出すプラットフォームになれれば——XRがその可能性を広げられればと思うと、やっぱり自分が実現したい世界と今の仕事はつながっているんだなと実感できました」

前田に限らず、SHOWROOMでは影響力のある人間がたくさんいると、根岸は日々感じています。

根岸 「たとえば前田は、愛で人をくるんでいく包容力がすごい。SHOWROOMに入社してから、あらゆる人の良い部分を見つめ、どんどん取り込んでいこうと意識するようになりました。それも、自分を成長させる近道だと思って」

真摯な言葉で語りつつ、根岸は今もうひとつ大きな挑戦に身を投じていました。

好きな気持ちに根拠はいらない。感情が唯一の強さを生むのだから

根岸 「Luppet(ラペット)というアプリを開発して展開しています。WebカメラとLeapMotionで完結させられる3D VTuber向けのトラッキングシステム。表情や手の変化を感知して、VRの操作ができるしくみです。

これも、自分が目指す世界の実現につながる一環だと考えて取り組んでいます。もちろん、ビジネスとして運営する以上、きちんと展開できるように考えていかねばなりません。そこは、ただ楽しいだけ、好きなだけでなく、リアルに考え対応することも多いですね」

会社を立ち上げて最も痛感したのは、途方もなく大きく、重い責任感でした。夢や理想を掲げて取り組もうとしても、資金繰りなどの現実的な要素はもちろん、VTuber業界そのものが立ち行かなくなってしまっては意味がない。「夢を育て続けるためにも、シビアに事業を考える目を持てるようになった」と根岸は感じています。

根岸 「Luppetの海外展開に挑戦しています。たとえば中国は、ちょうど2年前の日本のようにVTuber文化が盛り上がり始めてきたフェーズ。市場の動きも見据えながら、うまくLuppetを売り込んでいければと考えています」

市場の動きやユーザーを見つめる目線の重要性は、もちろんSHOWROOMでの業務においても共通しています。

根岸 「『公開1on1』からのつながりもありますが、今後の目標としては、『SHOWSTAGE』をちゃんと“オタク”が楽しめるプラットフォームにしていきたい。そこに絞る必要はありませんが、自分のような人が楽しめることに焦点を合わせて、魅力的なコンテンツづくりを含めたビジネス展開を目指していきたいです」

どんな嗜好も、熱狂がともなえばそれは圧倒的な個性になる——。

個性的な人材が多いSHOWROOMだからこそ、自分自身の強みとして好きなものを明確に持てるひとと働きたい、と根岸は言います。

根岸「これが好き。これだけは誰にも負けないというものがひとつだけあれば、それで絶対に勝ち筋を描けるはずです。内容は何だっていいし、根拠もいらない。感情が強ければ、SHOWROOMで働く上での他ならぬ強みになると思います」

アニメ、初音ミク、VRと、自らの好きなものをまっすぐに見つめ、突き進んできた根岸。

情熱で道を開いてきた軌跡が、その言葉に重みと熱量を与えてくれているようでした。