“探求心”を培った幼少期~学生時代。そして就職

▲シグマックスの開発部門に所属する平田海

私は幼少期から数学が得意な、いわゆる理系少年でした。高校時代は陸上競技に打ち込み、その中で「どうすればもっとスムーズに、速く走れるか?」を自分なりに考えたり、調べたりして、いろいろ試行錯誤をすることに“楽しさ”を感じていました。

そんな性格と興味もあって大学~大学院ではスポーツ・バイオメカニクスという分野を専攻し、大学院時代には日本陸連のバイオメカニクス研究班にメンバーとして参加するという経験もしました。

研究のテーマは世界の一流ランナーの走動作を解析し、平均されたデータの中から「共通する動作の特徴を見つけ出す」というもの。ちなみに世界の一流ランナーに共通していたのは、「太ももを後ろに振り上げる動きが大きく素早いこと、それに連動して腕のスイングが大きい」こと。そして、関節が動かせる範囲を関節可動域といいますが、この「可動域を十分に生かして体全体を効率的に使い、ストライドを大きくしているということ」でした。

大学・大学院でスポーツする身体を科学的に研究する分野をやってきたので、就職の際もやはりスポーツに関わる企業の研究開発職を志望して活動しました。

その中でシグマックスはスポーツに関わっているけど、それだけじゃないユニークな会社と感じましたね。 ZAMSTというスポーツ用のサポーターやサポート製品のメーカーでもあるのですが、実はもともと医療メーカーで、スポーツでのケガや障がいを “治す ”というところからスタートしている会社なんです。こういう点におもしろさを感じました。

医療営業を経験する中、自分自身で見て感じた自社製品の課題

▲研究協力いただいているドクターと平田(学会でのポスター発表を前に)

シグマックスには無事研究開発職として採用されたんですが、最初の2年間は医療事業部の営業部門に配属されました。担当したのは都内の医療機関(整形外科)への営業活動です。

営業になって気づいたことは、整形外科(*1)の診療は慢性的な痛みの治療から、骨折や捻挫といった外傷の治療まで多種多様であること。また患者さんも腰の曲がったお年寄りから転んで腕を骨折した子どもまで幅広くて、スポーツとは必ずしも関係のない方々が大半だということです。

面会するドクターもさまざまな価値観を持った人がいて、ときには厳しい言葉を掛けられることもありました。そんな中、人工関節のような大きな手術を執刀しながら、学会に発表するための研究や論文執筆に自身の時間を費やして医療の発展に取り組んでいる、尊敬できるドクターとの出会いも多く経験したんです。

開発者という視点でも2年間営業としてドクターや看護師さんたちと接する中で、自社製品に関するさまざまな課題にも気づけました。

いつしか、「もっと患者さんの快適性を高める工夫や、日々多忙な医療従事者の方々の手間や作業を減らすために当社が開発し、提供すべき製品とは何か?」を繰り返し考えるようになり、具体的な製品の条件やイメージを持つことができたと思います。またスポーツとは違った”医療”の大切さや意義、魅力といったものを強く感じるようになっていったと思いますね。

(*1)整形外科は運動器の疾患を扱う診療科です。身体の芯になる骨・関節などの骨格系とそれを取り囲む筋肉やそれらを支配する神経系からなる「運動器」の機能的改善を重要視して治療する外科で、背骨と骨盤というからだの土台骨と、四肢(上肢(肩・腕・手)と下肢(股・脚・足))を主な治療対象にしています。(日本整形外科学会HPより、一部補足)

開発担当として最初に取り組んだ製品、「ハイブリッドシーネ」

▲「ハイブリッドシーネ ニー(膝)」の開発により優秀社員表彰に選出される

その後開発に配属となって初めに取り組んだのは、スポーツ用ではなく医療用の製品。自身も営業時代に最も多く紹介し、その中で課題感を強めていた“ギプスシーネ”の新しい形を提案するものでした。

’90年代後半まで、骨折や重度の捻挫を固定する方法は「巻くギプス固定」が主流だったんです。シグマックスはこれをパッド付ギプスシーネ(*2)の導入によって「添えるギプス固定」に切り替えて、患者さんの安全性や快適性を高めて市場の支持を得てきました。私はそのさらに一歩先を目指して「ハイブリッドシーネ」を開発したんです。

通常、骨折や捻挫の治療では、治癒が進むのに合わせて固定の程度を徐々に穏やかにしていくことが望ましいとされています。「ハイブリッドシーネ」にはこれをひとつの製品で完結し、さらにその後のサポーター固定にも利用できるという機能を持たせました。

「ハイブリッドシーネ ニー(膝)」の開発には配属後3年かかったのですが、発売後は現場の課題を解決できる製品として多くの医療機関で採用いただけました。おかげさまで業績にも貢献できて、その年の優秀社員に贈られる「ファインプレー賞」をいただけたんですよね。

その後、ハイブリッドシーネは後輩メンバーの手によって2製品が追加されています。私が考案した「ハイブリッドシーネ ニー」がシリーズの礎にもなったと考えると、感慨深いです。

(*2)パッド付ギプスシーネ:ギプス包帯(樹脂とプラスチック繊維でつくられ、表面は硬く凹凸がある)に皮膚を保護するパッドが組み合わされたもの。皮膚を守る下巻き包帯などの材料が不要で、一度に処置が出来る。

シグマックスだからできる、“本当の困りごとを解決できる製品”の開発を

▲第52回日本側弯症学会学術集会のシンポジストとして登壇(2018年)

開発部門に配属後は、製品の開発だけでなく医療機関の研究者の方々と共に、いくつかのプロジェクトにも取り組んできました。

そのひとつが股関節用装具「SU Hip Brace」という製品です。股関節の安定に重要な「関節唇」という部分が損傷し、不全となっている患者さんや、「変形性股関節症」という病気で手術をした患者さんのための製品なんですね。

対象となる患者さんは決して多くないのですが、中々、日本人の体型に合う製品がなく、治療にあたっているドクターも患者さん本人も困っていた中で、この製品の発売によって新しい選択肢をご提案できるようになりました。

また思春期特発性側弯症(*3)という病気を治療するための体幹装具についても、ドクターからの切実な要請に応えて取り組んでいます。この病気の治療(装具療法と言います)では脊柱の変形をコントロールするために患者さんは長期間装具を着用しなければなりません。

しかし、装具の着け心地や見た目に多くの課題がありました。現在この装具を患者さんにとってより快適にするとともに、ドクターが患者さんの着用状況を把握できる機能を備えた新しい製品を開発し臨床評価を進めています。

これらの2製品の開発では、私自身も医学系の学術会議に論文投稿をさせてもらいました。製品の効果に関する研究成果について、ドクターや研究者の方々にも興味を持っていただき、ご意見やご質問をいただけたのはとても貴重なことだと思います。また2018年には日本側弯症学会から、学術集会のシンポジストとして招待していただくという経験もしました。

私はメーカーとして製品をつくって売る以上、「その製品に本当に効果があるのか?」「安全性は担保できるのか?」といったエビデンスの証明は、お客様から求められる以前に、われわれ開発者が探求しなければならないことだと思っています。

また、より良い製品、サービスを待ち望んでいる患者さん、医療従事者の方々のために1日でも早く製品を世に送り出すことが重要だと思っていますね。そのためには設計の検証や製品評価といった開発の中での一つひとつの行程をもっと効率的に、スピーディーに行えるようにしていかなければならないと思うんです。

現在は製品の開発とドクターとの研究プロジェクトに取り組みながら、設計・評価の精度を向上させるためのコンピューターシミュレーションの構築にも力を注いでいます。

私たちが生み出す製品を使っていただくドクター、患者さんに笑顔を届けられるような”仕事”をこれからももっともっとしていきたいですね。

(*3)背骨で構成される脊柱が左右に弯曲する症状で、原因が明らかでない10歳以降に発症する病気。