UXに対する「あきらめ」をなくしたい

ソフトバンクのデジタルトランスフォーメーション(DX)本部は、超高齢化社会に突入した日本において、業界を代表するさまざまな企業や、国・自治体と「共創」し、社会課題の解決に取り組んでいます。

その中で私が率いるクリエイティブチームでは、企業のデジタル化を推進するうえでの障壁を、クリエイティブな力で解決していますよ。

ユーザーは、企業の社員の皆さまや、その先のお客さま。便利で使いやすいITシステムやITツールの、UI・UXの設計からクリエイティブ全般まで、一貫して設計・制作を担います。

「なぜ、ソフトバンクが法人向けのクリエイティブ?」なのか。

サービスやモノづくりの現場において、デザイン・クリエイティブ思考の重要性が語られるようになり、BtoCの世界からDXが進んできています。

一方で、BtoB、BtoBtoCの業界では、まだそこに追いついていないのが現状です。

DXが進まない要因の一つに、UXに対するユーザー側の「あきらめ」が生まれてしまっていることも影響していると考えています。

たとえば、消費者がネットショッピングをしようとした時、検索機能が不十分だったり、決済までの手順が複雑だったりすると、面倒に感じてサイトから離脱し、購入してもらえないでしょう。

BtoCの世界では、売り上げに直結するUI・UXに積極的に投資します。それが業務用のITシステムだと「使いにくいけどこれしかない」「複雑な業務環境だから仕方がない」と、いくら使い勝手が悪くても、使い続けていく。そして人は学習して慣れ、あきらめが生まれてしまうんですね。

私自身、今まではBtoC領域のクリエイティブに従事し、一般ユーザーが使いやすいサービス開発にコミットしてきました。

この経験を生かし、これからはデジタルトランスフォーメーション領域の中でも、クリエイティブディレクターとしてビジネスサイドと連携し企業が抱える課題を抽出したいです。そして、その解決のためにはどのようなアプローチを取るべきかを考え、具体的なクリエイティブ案に落とし込んでいこうと思います。

ソフトバンクらしいクリエイティブの思考をさらに探求して、社内外に根付かせていきたいですね。

ソフトバンクに入社して得られたもの

▲ソフトバンク公式サイトをリニューアル

私はソフトバンクに入社する前、クリエイティブユニットを結成して、Webサイトやアプリの開発から、映像制作まで、さまざまなクリエイティブ制作業務を経験してきました。

ですが、ファーストキャリアは営業や経営戦略を設計する、ビジネスサイドにいた人間なんです。

クリエイティブ領域に踏み込んだ理由は、「自分の納得いくものづくりをしたい」という思いが強くなったから。事業戦略の全体設計をして、いざクリエイティブサイドに制作を依頼しても、自分がイメージする成果物が出てくることはほとんどありませんでした。

どうにか自分のイメージを具現化できないかと考えた末、「自分でつくってしまえばいいんだ」という結論に至りました。

制作のベースであるWeb開発を学んだ後に、デザイン学校で基礎を学びながら制作会社で実務経験を積みました。そこでデザイン職であるデザイナーからチーフデザイナー、アートディレクターまで経験。

クリエイティブユニットの結成後は、ビジネスモデルやマーケティングなども含めて、よりビジネスの全体設計にも関わるクリエイティブディレクターに近い役割として、プロジェクトに携わるようになりました。

並行して、ソフトバンクでの勤務を開始。当時はまだ副業が認められていなかっため派遣社員としてのスタートでしたが、iPadが日本に初上陸した際のサービス設計や、Androidの新端末の導入プロジェクトなど、主にBtoC向けのプロジェクトにおいて裁量ある仕事を任せてもらいました。

その後、ソフトバンクのダイナミックな成長戦略にもっと深く関わりたいと考えて、正社員になり、たくさんのチャレンジをさせてもらいましたね。中でも2018年のソフトバンク公式サイトのリニューアルは、印象深いプロジェクトです。

当社の公式サイトは月間PVが数億単位にのぼるので、リニューアルは慎重に進めました。

特に、ファーストビューの変更は重要なポイントでした。もともとファーストビューに自社サービスの広告バナーを設置していたのですが、それを全て取り払う方針で進めました。

携帯会社の公式サイトに一般ユーザーは普段気軽にアクセスしませんよね。年に数回、買い替え検討や何か困りごとがある時に見るのが一般的ではないでしょうか。それであれば、広告バナーを見せるよりも、ユーザー体験を優先して、すぐに困りごとを解決できる導線設計にした方が良いのは当たり前です。だから、「ファーストビューは目標達成を第一にするべき」と考えました。

もちろん、理屈では説明ができても、その判断を下すとなると簡単なことではありません。バナーを出さないことによりどれだけの損失が出るのか、新UIは本当にユーザーに受け入れられるのかは何度もユーザーテストを繰り返して検証しました。

結果的に、リニューアルしてから公式サイトの成果が向上。特に、オンラインショップの導線設計においては、社内外から高い評価を得られました。

お客さまに向き合うことの意味

私たちがクリエイティブ設計に臨む時、「自分が完全に納得できるものしか世に出さない」ことを大前提としています。これは、デザイン性の高さだけではなく、ビジネスとして成立するかを含め、総合的に納得できるものか、という意味です。

アートとは違い、私たちは、ビジネス課題を解決するクリエイティブをつくっています。だから、「デザイン性はすごく高いけど、収益性が低い」のでは持続可能なビジネスは成立しませんよね。

ではビジネスとして成立させるために何を考えるかというと、誰をターゲットにするのかという視点です。

これまでBtoC領域にコミットし、誰もがターゲットとなるサービスに従事していたからこそ感じるのは「誰もが納得するサービスは存在しない」ということ。当たり前ですが、誰もが100%満足できるサービスなんてありえません。

それでもソフトバンクとしては、携帯電話は誰もが使えることが重要であると考え、使いやすいUI・UX設計を心がけています。どんなに若年層に向けたサービスであっても、おじいちゃん、おばあちゃんが使えることも考えた設計にしなくてはなりません。マジョリティがしっかりと満足することを前提に、マイノリティ側の意見も切り捨てないということですね。

たとえば、フォントサイズをひとつとってみても、「分かりやすさ」という観点で見れば当然小さいよりも大きい文字の方が分かりやすいと思います。ソフトバンクのサービスを見ていただけると分かるのですが、他社と比べて一回りくらいフォントサイズが大きくなっていますよ。

ビジュアルデザインの観点から見れば、もっと小さい方が収まりも良いし、美しいバランスがとれる。ただ視認性が低いデザインになることで、分かりづらさや使いづらさにつながり、サービスを使ってもらえなくなってしまっては、我々が本来目指すべき課題解決につながりません。

ではどこまでだったら許容の範囲なのか?その判断は簡単なことではありませんが、取り組むべきことはいたってシンプルだと思っています。

ビジネス視点とクリエイティブ視点のそれぞれの立場から、自分としてはこう思うというものを引き出して考慮した上で、最終的にユーザーの意見を優先して調整を行っていきます。

結局ユーザーは人。1つの企業をとってもそこにはさまざまな年代、多様なバックグラウンドを持った方が働いています。「誰もが使いやすいサービス設計」という前提はコンシューマ向けでも法人向けでも本質は同じで、エンドユーザーが誰かの違いです。

そう考えたときに、ユーザーの声は非常に重要な指標になります。それは良いフィードバックだけでなく、お客さまが不満に思っていることの方が大事な情報とも言えるかもしれません。何かしら不満を感じているお客さまがいて、たとえサービス内容に不備がなかった場合でも、きちんと情報が伝わる表現をしていなかったために起こった不満なのかもしれません。

自分とは異なる属性の感覚を理解するために、ペルソナだけでなく、ユーザーインタビューで直接聞いてみるのは有用ですが、注意すべきポイントがあります。

お客さま自身も「本当に解決すべき課題」に気づいていないことがある点です。私たちはそれを「真目的」と呼んでいますが、むしろ気づいていないことの方が多いと言えるかもしれません。

ユーザーが語る情報を全て鵜呑みにしない。徹底的にヒアリングを積み重ねて、お客さま、ユーザーの心理状況を把握した上で「真目的」を見極めないと、表面的な解決しかできないのです。

クリエイティブで社会課題の解決にアプローチする

▲クリエイティブチームのメンバー

DX本部のクリエイティブチームは2019年の4月に設立されました。組織はまだ小さく、かぎりなくスタートアップに近いです。しかし、重要な役割を担うチームであることからクリエイティブ人材もさらに増員しています。

また、ソフトバンクという基盤があるおかげで大規模なプロジェクトにも関わることができ、他社ではなかなか経験できないことにチャレンジできていると日々実感していますね。

今後、ソフトバンクとしては群戦略という方針のもと、通信事業以外の領域もどんどん伸長させる計画を立てています。その中でも法人向けのDX支援は「社会課題の解決」という、極めて難易度が高いテーマへの挑戦です。

そのため、プロジェクトごとに「エクスペリエンスアーキテクト」「UXデザイナー」「アプリケーションエンジニア」をスペシャリストとして配置し、それぞれの役割をもって取り組んでいます。個々人の専門性の発揮が不可欠ですね。

ただ言われたものを作るだけでなく、ユーザーにとって何が最も良いものになるかを一緒に考えていくので、モノづくりの上流から関わることができます。

具体的には、共創パートナーとの取り組みが始まるタイミングから、検討中の企画に対してモノづくり目線でのアイディエーションや、実際どのようなプロダクトやサービスにしていくかの企画、マーケットニーズ調査、分析。それらをもとに、ユーザーストーリーやカスタマージャーニーに起こしながらUX設計を行っていきます。

また、ブランドデザインやサービスデザインのコンセプト設計を行い、コンセプトにあったデザイン提案を行いながらブラッシュアップを重ね、グランドデザインへと仕上げていきます。いずれもユーザーにとって最適なものをベースに機能要件へ落とし込み、プロトタイプで検証を重ねながら実際のサービス開発へと進めていきます。

クリエイティブという領域はゴールがありません。常に最新の情報や知識に対して敏感に、成長し続ける意識が必要だと思っているので、社内メンバーの育成にも力を入れ、育成プログラムを実施していく予定です。

育成のベースとなるのは、スキルセットだけでなく「お客さまのことをどれだけ真摯に考えられるか」というマインドセットです。スキルは後からいくらでも身につけられますから。

私たちのチームは、あくまでお客さまの課題を解決するための手段の一つとしてクリエイティブに取り組んでいるんです。

社会課題という大きなテーマにコミットするにあたって、今後はさらにパートナーと積極的に連携し、共に課題解決に取り組む「共創」思考が重要になります。お客さま、パートナーと共創して作り上げたソリューションを広く展開し、さらに磨き上げ、育てていくことで、「社会課題解決のプラットフォームになる」という大きな構想も考えていますね。

今後、テクノロジーやデータの活用によってあらゆる領域の利便性が向上していきます。その流れの中で情報革命の担い手として時代の先陣を切り、人々の幸せに貢献していくことが私たちのモチベーションの源泉になっています。

そのためにも今はクリエイティブにしっかりと向き合い、丁寧にデザインしていくことをつきつめていきたいですね。