挑戦者を応援するために。ソニー銀行は新たな金融プラットフォームの創出に挑む

ソニー銀行が手がける国内銀行初※1となる投資型クラウドファンディングのプラットフォーム「Sony Bank GATE」。銀行では事業化が難しいとされていた同事業をスタートした原点には、ソニー銀行創業者、石井茂が投げかけたひとつの問いがありました。“挑戦者を応援する”という志を事業化するまでの記録です。
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なぜソニー銀行は、投資型クラウドファンディング事業に乗り出したのか?

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▲「Sony Bank GATE」のプロジェクトチーム

ソニー銀行がクラウドファンディング事業に取り組むきっかけとなったのは、ソニー銀行が開業10周年を迎えた2012年のこと。2017年現在、新規事業企画部で副部長兼プロジェクトリーダーを務める中路(なかみち)宏志は、「10年後のソニー銀行の未来」というテーマで、ワーキングチームメンバーで検討した投資型クラウドファンディング事業の原型となるアイデアを発表したのです。

クラウドファンディングとは、プロジェクト実現に必要な資金を調達するために、企業や個人がインターネットを通じて広く支援を呼びかける手法。少額から利用でき、資金提供者を多く集められるというメリットがあります。

また、アイデアレベルや事業計画段階のプロジェクトの場合、従来の資金調達手法である銀行からの融資は、実績材料が少ない場合は難しいとされていました。ただ、クラウドファンディングの場合は資金調達を受けることが可能となります。

しかし、これまで銀行自らがクラウドファンディングのプラットフォームに取り組むことは一般的ではありませんでした。なぜなら、クラウドファンディングはFintechの主要テーマのひとつであり、どちらかと言えば、既存の銀行が提供する融資サービスをディスラプト(破壊)していく可能性を秘めた新たな資金調達の仕組みであったからです。

つまり、既存の銀行にとって、企業への融資は中核事業そのものであり、自らの収益機会の喪失に繋がる恐れのあるクラウドファンディングは、手を出しづらい状況があったのです。

中路 「今でこそ社内でも理解や賛同を得られるまでになっていますが、アイデアを発表した当時、クラウドファンディング事業を本当に銀行で事業化できるとは、正直誰もイメージできていなかったと思います。開業10周年の記念行事のイベントとして、発表して終わりと思われていたかもしれませんが、ソニーの名を冠する銀行として私は実現させるべきだと思ったんです」

それまで先例の見られなかった銀行による投資型クラウドファンディング事業。それでも、「フェアである」ことを企業理念に掲げ、IT技術を活用しながら投資家のニーズに合う新しい商品やサービスを追求してきたソニー銀行にとっては、実現させる意義があったのです。

中路 「ソニー銀行は、単に銀行が利益を出すだけではなく、本当にお客さまのためになっているのかという、お客さま視点を非常に大切にしています。ソニーグループには、創業当初から、一貫して『人のやらないことをやる』というチャレンジ精神の歴史がありますし、クラウドファンディングを通じて新しい事業に挑戦する企業を盛り上げていきたいと思ったんです」

しかし、開業10周年の記念行事の発表を最終アウトプットして、一旦、活動は終了に。この後、2013年4月からクラウドファンディングの事業準備は、社内の正式プロジェクトという形式ではなく、手弁当の活動としてスタートを切ります。

そもそも中路がなぜこの事業のアイデアを思い描いたのか?その背景には、当時、ソニー銀行で社長を務めていた石井茂の問いがあったのです。

現SFH石井社長から投げかけられた、”真のバンカーとは何か?”という問

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▲立ち上げをリードした中路(右)と岡本(左)

2008年にソニー銀行に入社し、デジタルマーケティングやネットバンキングのリニューアルなどに従事していた中路に、ある日、当時ソニー銀行の社長であった石井茂(現ソニーフィナンシャルホールディングス社長)から、ひとつの問いが投げかけられました。

中路 「石井さんから、『真のバンカーと金貸しの違いは何か?』という問いかけがあったんです。そのときは何も答えられなかったんですけど、その後、真のバンカーとは、単に担保を評価して個人にお金を出すことではなく、人の思いやアイデア、そしてその人自身を評価し、投資を通じて挑戦を支援する仕事だと理解しました。それから、本来バンカーとしてあるべき仕事を軸とした事業をやりたいと思うようになったんですよね」

真のバンカーとしてどうあるべきか?ソニー銀行として今後どうあるべきか?そして、ソニー銀行は、どのように進化すべきなのか?ーーそうした問いに対するひとつの答えとなったのが投資型クラウドファンディング事業でした。金融商品に“共感・応援”を込めたいと考えた中路は、クラウドファンディングを事業として実現させるべく、歩みを進めます。

「銀行として前例がないため、そもそも銀行の業務として可能なのか」、「金融商品取引法等の各種の規則をクリアできるのか」、「どのような商品性・スキームが組み立てることが可能であり、有効なのか」

情報収集や事業のフィージビリティ調査を重ねるなか、ひとりの手弁当活動としては限界をむかえます。そこで、社内のマネジメント層に掛け合い、二人目のメンバーは社内から自分で探すことにしたのです。

事業化に必要な人材として、自分の専門性や得意領域と違うタイプのメンバーを探した中路。その願いが叶い、2014年の春にプロジェクトの二人目のメンバーとして、公認会計士であり、投資銀行での業務経験を持ち、会計や財務・業規制などの専門性がある岡本奈緒子(新規事業企画部シニアマネージャー)がプロジェクトに参画することに。

中路はマーケティング部門の仕事、岡本は経理部門の仕事を兼務しながら、二名の小さなチームで障壁をクリアすべく活動を続けていきます。

その後もクラウドファンディングや周辺領域に詳しい有識者へのヒアリングや社内マネジメントや関係部署への説明などを繰り返し、次々に湧いて出る課題や質問への対応を地道に進めていく日々。

そう、新規事業の準備期間は決して華やかではなく、地味で泥臭い道のり。当初の計画や想定どおりには進まないのが普通なのです。銀行社内ではひと筋縄では事業化が進まないなか、新規事業の立ち上げノウハウとクラウドファンディングの事業化のきっかけを掴むために、中路がとあるアクションを起こします。

2014年にソニー㈱の社長直轄のプログラムとしてスタートした、新規事業創出プログラム(Seed Acceleration Program,以下SAP)を運営する新規事業創出部に兼務出向。新規事業の立ち上げに従事することになったのです。

そこで携わったのが、イノベーティブな製品と支援者をつなぐクラウドファンディングとEコマースの機能をする共創プラットフォームである「First Flight」の立ち上げ。ここで、新規事業をゼロから作り上げるという経験を積みましたが、ソニー銀行から兼務出向の立場でソニーの新規プロジェクトの立ち上げを推進する、という異例のケースでした。

このようにクラウドファンディングの知識や事業立ち上げの経験を積み重ねた中路は、ネット銀行として10年以上の運営経験があり、人材に恵まれたソニー銀行であれば、クラウドファンディング事業ができないはずはないという確信を深めていきます。それでも、業界でも類を見ないこのプロジェクトの立ち上げには、クリアすべき幾つもの障壁が存在したのです。

追い風となった、「ベンチャー企業の新規事業を応援したい」という顧客の声

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より質の高い金融サービスの提供のため、投資型クラウドファンディングを通じ、これまでの「銀行」という枠を越え、進化の方向性のひとつとして新たな「金融プラットフォーム」を目指す。

個人の共感・応援を込めたお金が、企業の事業へ出資する土台となる投資型クラウドファンディング事業は、まさにそうした方向性に沿ったもの。

しかし、ソニー銀行のサービスには、ソニーらしい革新性が求められるのと同時に、銀行としての信頼性も求められます。ソニー銀行への信頼に足りる商品とするためには、乗り越えるべき数多くのハードルがあったのです。

中路 「社内には、さまざまなセクションがありますし、それぞれの立場から準備期間中に、本当にいろんなことを言われます。でも、彼らは、お客さまと銀行を安定運用する守りのプロ。プロとしていくつもの厳しい指摘をもらいましたが、少なくとも、『今日も止めろとまでは言われなかった!』と、前向きに考えるようにしていましたね(笑)。 新規事業をするとき、よく『諦めるな』といわれますけど、『めげない』という意識であり、ハートのほうが大事なんです」

そんな紆余曲折を経て、徐々にプロジェクトが形になってきたなか、彼らのチャレンジに、追い風となる事実も明らかになってくるのです。ソニー銀行の顧客に対し投資志向の調査を実施したところ、42.0%もの顧客が「ベンチャー企業や新規事業に投資したい」と回答したのです。他行の顧客の数字は24.6%と、比較しても投資への意欲が高いことがわかります。

中路 「日本だと、上場していないベンチャー企業などに個人が投資できる機会や仕組みって、まだまだ少ないですよね。でも、投資型クラウドファンディング事業が実現すれば、それが可能になります。ソニー銀行には、新しい取り組みに対して『がんばって』って言ってくれるお客さまが多いので、ニーズがあると確信したんです」

こうした事業化のための調査や準備を重ねながら、2016年4月に新規事業企画部が発足し、いよいよ事業化に向けた準備が本格化。新規事業を立ち上げるために、様々な部門から多様なバックグラウンドと専門性を持つメンバーが集結し、正式なプロジェクトとして推進されていくのです。

そしてついに、2017年8月8日、新規事業である投資型クラウドファンディングのプラットフォーム「Sony Bank GATE」のサービスがスタートします。

では今後、Sony Bank GATEは、どのような価値や事業を生み出していくのでしょうか?

投資家と投資先企業の距離を縮める、新たな金融プラットフォームへ

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Sony Bank GATEには、投資家と投資先企業を“共感”で繋ぐための仕組みが、随所に盛り込まれています。経営者をインタビューし、事業に込めた思いを公開したり、出資した事業に投資家が応援コメントを書き込めたり。また、事業の進捗状況が分かるレポートを3か月に1回WEBサイト上で提供するなど、これまでの銀行が取り扱う金融商品とは一線を画しています。

中路 「クラウドファンディングの性質上、投資されるお客さまが判断しやすいよう、BtoC領域を中心に、個人の生活に近いビジネスにチャレンジする企業のプロジェクトを選んでいます。もちろん、財務状況や事業計画を適正に審査して、事業の可能性も確認したうえで判断しているんです」

こうした審査をクリアし、Sony Bank GATEの投資先企業の1社目となったのが、株式会社リンクジャパン。「お手軽にスマートハウスを体感」をコンセプトに設立された同社は、外出先から家電を操作したり、室内の状況を把握できるIoTデバイスを開発・製造を手がけています。

Sony Bank GATEの投資先企業にとっても、Sony Bank GATEによる資金調達は、一般的な銀行の融資やベンチャーキャピタルとは異なるメリットがあります。それは、資金調達を通じて得られる共感や応援。商品やサービスについて、事前に深く知ってもらいファンを生み出すというPR・広告としても活用できるのです。

中路 「これまでの資金調達は、どちらかというと、外から見えないところで、ひっそりと行われてきましたよね。ところがクラウドファンディングだとオープンになりますから、応援したいという人が現れます。それはきっと、投資を受ける挑戦企業の経営者やメンバーにとっても、『やらなきゃ』と思わせてくれる応援や励みになると思うんですよね」

私たちが生み出したSony Bank GATEは、インターネットを通じて得た共感から、自由に資金を集められる仕組みです。私たちの願いは、この仕組みによって挑戦者を応援するという文化を創り、世の中を変えるような企業を世の中に送り出すということ。

これから、Sony Bank GATEからどんなイノベーションが生まれるのか、私たちも楽しみです。


※投資型クラウドファンディングとは、ベンチャー企業等の資金調達ニーズと投資家の資金運用ニーズをインターネット上で結びつける仕組みです。「Sony Bank GATE」は、銀行が企業の審査、ファンドの募集・管理などをワンストップで運営する投資型クラウドファンディングのプラットフォームとしては、国内銀行初の取り組みとなります。
(自社調べ:2017年8月8日現在)

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