スキルも意欲もあるのに……重度身体障がい者の就労の障壁となった「通勤」

スタッフサービス・ビジネスサポートでは、障がい者を雇用し、グループのバックヤード業務を受託しています。

しかし、事業所への通勤が前提の就労形態であったため、強い就労意欲と高いスキルを持ち合わせている応募者がいても、本人の身体能力や通勤距離などの問題などにより採用を見送らざるを得ない状況がありました。働きたくても働けない、重度身体障がい者の雇用機会が課題だったのです。

また、人材派遣会社の場合、障がい者の法定雇用率の算出母数に派遣スタッフも含まれることから、達成ハードルが高いことも課題のひとつでした。

2013年から2015年にかけて事業拡大にともない、派遣スタッフは約6,000人増加。2016年には140人相当の障がい者を新たに雇用する必要が生まれ、障がい者がより働きやすいしくみをつくることは必達ミッションとなったのです。

リーダーとしてミッション達成を託されたのが、当時総務人事部だった岡崎 正洋でした。

岡崎 「当社では神奈川県、宮城県、大阪府、福岡県を拠点に採用をしてきました。しかし、通勤が前提となる働き方であることで、スキルに申し分なくても採用できないことが多く、心苦しい想いをしてきました」

重度身体障がい者が通勤を前提とした就労環境で働くための、いくつもの課題

岡崎は重度身体障がい者が就労しやすい環境をつくるべく、動き始めます。しかし、重度身体障がい者が通勤を前提で就労するために、解決すべき問題がいくつも立ちはだかりました。

岡崎 「まずは以前から感じていた、通勤。重度身体障がい者は、身支度に時間がかかるため、通勤のたびにそれを繰り返すのは身体的負担が非常に大きいことです。
また、通勤ラッシュの中で公共交通機関を利用するのは、健常者が考える以上に疲れます。危険をともなう中で移動しなくてはならず、大きな障壁となっていました」

仮に通勤が可能だとしても、オフィス環境に大きな課題がありました。

岡崎 「重度身体障がい者は、身体的に負担の少ない姿勢で働くことが必要です。しかし、障がい特性は一人ひとりさまざまあります。オフィスのドアのスペース、通路の幅、机の高さ、段差の解消、トイレなど、画一的な環境のため、一人ひとりに合う設備を整えることは難しいとわかりました」

さらに、障がい者が生活リズムを保つために時間の必要性が浮き彫りになります。

岡崎 「重度身体障がい者の中には、日中に生活介助や通院などが必要な人もいます。しかし、その時間や頻度はさまざまです。会社が定めた時間に合わせて就労することは難易度が高いと判明しました」

これらの課題をクリアし、通勤困難な重度身体障がい者の新たな就労機会として、2015年9月に立ち上がったのが「在宅就労」です。この制度により、重度身体障がい者一人ひとりが最も安心して動ける“自宅”を職場にできるようになり、通勤の必要がなくなりました。

仲間と生き生き働くための在宅就労

安心して働ける在宅就労のしくみをつくるため、工夫したポイントは2点あります。

1点目は、一人ひとりの生活リズムを維持すること。会社の定時ありきの発想ではなく、重度身体障がい者の生活時間を重視したシフト制を導入しました。

基本ルールを「9:00~19:00の間で週5日、週30時間勤務」とし、自分で設定した休憩時間を利用しながら生活介助や通院を継続できるようにしたのです。

また、オンラインで健康相談ができる保健室を設置。健常者に比べて変化しやすい重度身体障がい者の体調に配慮し、気軽に健康相談ができる環境を構築しました。

2点目は、定着してもらうため在宅就労でも仲間との一体感を感じながら働ける環境をつくったことです。在宅就労を試験運用したところ、「毎日誰とも会話せず、ひとりで仕事をすることは心理的不安やストレスにつながる」「自分の状況をきちんと理解してもらえるのか心配」との声が挙がりました。

そこで、取り入れたのがチーム制。チームで働く仲間との関係性を醸成するために、入社式でチームビルディングを実施、入社後1カ月は仲間とのコミュニケーションを重視したカリキュラムや、働く上での価値観を共有する機会を研修として設けました。

また業務は5〜15人のチームで担当。1日3回のWEB会議を行い、情報共有のほか、必ず雑談をすることを推奨し、チームのコミュニケーションを活性化させています。導入時、「1日3回は多いのではないのか?」との声も挙がりましたが、今では在宅就労のキーポイントとなりました。

岡崎 「家で仕事をしていて不安や疑問が生まれると、立ち止まってしまいがちです。でも 2時間に 1回は仲間と会えると思えたら、安心感につながります。仲間と話せばリフレッシュにもなりますし、私たちからしても安全配慮の視点から状況を確認できるので、とても大切な時間なんです」

この在宅就労モデルをもって九州地方から採用活動をスタート。立ち上げ当初は「重度身体障がい者が在宅で働く」という事例の少ない働き方に対し、ハローワークや支援機関の担当者が就労のイメージを持つことができませんでした。また、応募者探しに苦労したことも。

しかし、そこから理解や協力を得るためにパンフレットの作成、ハローワークや支援者への説明など地道な活動を続けた結果、それらが功を奏し、2016年1月に8名の採用が実現しました。そうして重度身体障がい者の在宅就労が始まったのです。

在宅就労を通じて、働く喜びや社会参加を実感してもらいたい

九州でたった8名から始まった在宅就労ですが、今では全国29府県で展開。約260人の重度身体障がい者の社員が活躍しています。

ここまで就労人数を増やせたのは、在宅で働く社員一人ひとりが重い障害がありながらも、就労への高い意識を持ってくれたことと、仲間との関係性を大切にしながら仕事に取り組んでくれた成果です。入社1年後の定着率も96.5%と高く(※)、みんなが努力を積み重ねた結果だと、非常に感謝しています。

岡崎 「僕たちは効率のために在宅就労を始めたわけではありません。 WEB環境上に生き生き働ける職場をつくりたい。自宅でも “職場 ”で仲間と関わりながら仕事ができる環境を整えたい。その想いでやってきました。
やっぱり働く仲間がいてこそ、職場だと思うんです。重度身体障がい者の中には通勤が難しい人もいますが、今の時代は WEBを駆使すればどこにいても、通勤ができなくとも、職場で働く雰囲気を再現できます」

働いている重度身体障がい者の社員からは、「人とのつながりが実感できる」「仲間の役に立つことができて嬉しい」「チームで助け合いながらひとつの目標に向かうことが楽しい」「自宅なので安心して働ける」「働き始めてから家庭内にも笑いが溢れるようになった」といった喜びの声が届いています。

また、岡崎はプロジェクトを通じて、障がい者の可能性はどこまでも広がっていることに気づきました。

岡崎 「障がい者の在宅就労は一般的ではありません。しかし、私たちの取り組みを社会に発信することで、在宅就労や重度身体障がい者に対する固定概念やバイアスを取っ払っていけば、障がい者の可能性はさらに広がっていくはずです。
『ここまでお願いして大丈夫だろうか』と心配になり予防線を引きがちですが、そうではなく、どう環境を変えたらできるのかに力を注ぐべきだと痛感しています。
2019年現在、在宅社員の皆さんはグループ内から受託する市場調査や情報検索、入力の仕事をメインに取り組んでいます。
しかし今後はさらなるチャレンジとして、外部の仕事も受注するなど、活躍の場を広げ、 WEB環境上に生き生き働ける職場を磨き上げていきたいと思います」

通勤困難な障がい者の雇用は、少しずつ広がってきていますが、まだまだ社会で働くチャンスは少ないのが実情です。しかし、在宅就労が定着すれば、仲間と働く喜びをもっと多くの障がい者に届けられます。

これからも「障がい者が仕事を通して仲間とつながり、生き生きと働ける社会をつくりたい」、そんな想いからスタッフサービス・ビジネスサポートは、さらなる在宅就労の拡大を目指します。

※独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者職業総合センター 一般企業への就職後の障害別職場定着状況(2017年4月)」によると身体障がい者の定着率は60.8%となっています。