子どもたちの想像力は本で育まれる。社会の一員として働いていることを実感しています

NGOシャンティ国際ボランティア会は、アフガニスタンで2003年から学校建設や図書館事業などの教育支援事業に取り組み、2018年末までに40校の学校と142館の学校図書館を建設、日本から12,691冊の本を届けてきました。その価値を実感しているのが、現地スタッフのスルタナ・ハムラズ・サフィです。

新たな時代へ向かうアフガニスタンを支援するシャンティ

▲アフガニスタン カブール事務所スタッフ 図書館事業課学校図書館担当スルタナ・ハムラズ・サフィ

中央アジアの中央に位置することから、かつて「文明の十字路」と呼ばれ、交易の中継点として栄えたアフガニスタン。しかし、1979年末のソ連侵攻以後、実に30年以上戦争と内戦の時代が続いてきました。2001年9月に発生した米国の同時多発テロ後には、国際テロ組織にタリバン政権が関係しているとして、米国主導による空爆を受け政権は崩壊。2014年末、アフガニスタン側へ治安権限が譲渡され多国籍軍の撤退が進められていますが、依然として不安定な情勢が続いています。

混乱した国勢により、アフガニスタンでは学校施設はもちろんのこと、教育基盤そのものが破壊されてしまいました。タリバン政権下では、女性教員の就労や女性への教育も原則禁止されていたこともあり、15歳以上の成人識字率は36%、とくに女性は20%にとどまります。ユニセフ支援下で教育省が進める就学者増加政策は一定の成果を上げていますが、2019年現在も校舎のある学校は50%にとどまり、多くの子どもたちはいまだ野外やテントで学習しているという状況です。

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(以下、シャンティ)は、2001年の空爆後、食糧配布を中心とした緊急支援を実施。2003年からは教育支援事業を開始しました。現在は、首都カブールと東部最大の都市ジャララバードの2カ所に事務所を構え、図書室を持つ学校の建設や学校図書室の設置、公共図書館内の児童向けスペースやサービスのための支援、子ども図書館の運営を行っています。

そんなシャンティのカブール事務所で学校図書館の設立支援を担当するスルタナ・ハムラズ・サフィは、2013年にシャンティのスタッフに加わりました。

政府の仕事を離れ転職。図書館教育の理解拡大のために尽力

▲シャララバードでシャンティの運営する「子ども図書館」で、日本から届いた寄付された絵本を読むアフガニスタンの子どもたち©安井浩美
スルタナ 「シャンティで働く前は、政府の経済省に勤務していました。 20名ほどのスタッフをまとめる立場で待遇も良いものでしたが、『私はもっと社会の一員として働きたい』という気持ちが強くなり、シャンティへの転職を決めました。
経済省にいたときに比べ、良いポジションでも良いオフィス環境でもありませんが、今私は自分の仕事にとても満足していますし、誇りを持っています。私の仕事が、子どもたちのため、先生のため、図書館員のためになっていると実感できるからです。求めていた “社会の一員として働く ”ことができているから、とても嬉しい。シャンティで働くことができて良かったと心から思っているんです」

しかし、スルタナがシャンティの職員となった当初は苦労の連続でした。学校図書室を設置するためにまず行うことは学校の調査です。適した部屋があるかどうか、継続できそうな学校なのか、直接学校を訪れて教師に話を聞き、学校を見て、支援先の選定を行います。しかし、調査に訪れたスルタナを待っていたのは教師たちからの拒絶でした。

スルタナ 「学校の様子を聞く、校内の写真を撮る、そういった一切のことをさせてもらえませんでした。とくに保守的な地域では、偶像崇拝が禁止されているから絵本はだめ、という考えが根本にあります。でも彼らは、絵本や図書館が新しく得体の知れないものだったので拒否をしていただけだったんです」

しかし、どういったものかを徐々に知ることで態度が変わっていきました。シャンティが現地で15年継続して活動をしてきた成果が、そこには現れています。

スルタナ 「先生たちは、他の地域での学校図書室の成功例を聞いたり、ジャララバードで運営する子ども図書館を実際に見たりすることで、理解を示してくれるようになりました。今では先生たち自身が図書館教育の価値を発信してくれていますし、教育省や学校などから、児童向け図書教育の研修依頼や学校図書室の要望が次々に届くような状況になっています」

日々実感するのは子どもたちの成長。1冊の絵本が人生を変える

▲日本の人の手をわたり、アフガニスタンに届いた絵本。絵本には子どもたちの人生を変える力がある。©安井浩美 

教育支援は、5年、10年と続けてこそ意味のあるもの。スルタナは5年間シャンティで働いてきて、図書室や絵本が、子どもたちの生活習慣や読み書きだけではなく、想像力や自分自身での問題解決能力を高めることに貢献できると確信しています。

たとえば、ヘラートという地域の当時小学校3年生だったアブドラくんは、読み書きをなかなか覚えることができず、なぜこれが読めないのか、文字が書けないのか、と先生たちにいつも怒られてばかりいました。テストを受けても不合格で、その結果を見た父親にも怒られて、半ば自分で勉強することをあきらめてしまっていました。

スルタナ 「アブドラくんが、私たちが整備した公立図書館の児童スペースでカラフルな絵本を見つけて、なんだこれという気持ちで手に取ったんですね。でも、いざ読もうとしたときに、主体的に『自分が字を読めない』ということに気づきました。学校の教科書には絵がなく文字だけなので、読めなくても構わなかった。けれど、彼は絵本にどんなことが書いてあるのか知りたかったんです」

絵本を通じて初めて気づいた「文字を読みたい」という強い気持ち。これがアブドラくんが変わる大きなきっかけとなりました。

スルタナ 「その後彼は、字が読める弟を連れて図書館に行って、弟が絵本を読むのを復唱するということを繰り返しました。そのうちに自分で本を読めるようになり、 5カ月後には学校のテストでも見事合格。
嬉しさのあまりに、彼は私にそのことを共有してくれました。
日本のおかげでこうした場所があることに感謝していると、日本が大好きだと。彼のように、子どもたちが自分で問題を解決して成功するために、絵本や図書館はきっと役立つと思っています」

厳しい環境にある子どもたちのことを忘れないで、いつか訪れてほしい

▲スルタナが担当する小学校で生徒たちと。

シャンティアフガニスタン事務所では、いつ襲撃されるかわからない状況の中で活動を進めています。現在まで、事務所スタッフは直接的な被害は受けていない状況ではありますが、スタッフの親戚友人が武力組織の襲撃に巻き込まれたり、他のNGO事務所が襲われたりといった事件は時折起きているのが現状です。一時的に事務所や図書館を閉めざるをえないこともあります。

安全とは言えない中でも、シャンティが活動を続けてきたすべての理由は、そこに子どもたちがいるからです。スルタナも厳しい状況の中、また女性が働くことでの困難さもありながら、粘り強く交渉を続け、将来のアフガニスタンのために尽力しています。

スルタナ 「日本の子どもたちはとてもラッキーです。教育を受けるにあたり、すべての状態が整っていますから。一方で、私たちの国であるアフガニスタンでは 30年以上紛争が続いており、今やっと一歩を踏み出したところなんです」

タリバン政権が終わって16年が経つ今でも、教員、とくに女性の教員は少なく、校舎も足りていません。しかし、将来のアフガニスタンを担う子どもたちに向けた支援だからこそ、どんなに厳しい状況であっても、今まさに取り組まなければいけないのです。

スルタナ 「私は、ただ生まれてきた状況が違うだけで、人間そのものには違いがないと信じています。私もアフガニスタンの子どもたちもそれぞれに能力を持って生まれたけれど、それを自分で育てていく機会がとても少ないだけ。シャンティの活動は、その機会を提供するものだと確信しています。日本の皆さんには、これからも私たちの国が置かれている状況に関心を持ち続け、支援を続けていただけたらと思います」

1冊の絵本、ひとつの図書館で人生が変わるという経験は、日本人の私たちにはなかなかないことかもしれません。しかし、アフガニスタンでは実際に、1冊の絵本が子どもの人生を変えています。シャンティの活動によって、ひとりでも多くの子どもたちが、自分の道を切り開く力を得られるように。そしてその子どもたちによって、アフガニスタンという国が平和へと導かれるように。スルタナ、そしてシャンティの活動は続いていきます。

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