「教えること」に関わり続けてきた今、子どもたちにこれからを生きぬく力を与えたい

子ども向けプログラミング教室「Tech for elementary」を開講する「かるちゃーステーション名張」は、シニア向けパソコン教室からスタートしました。教室代表の田中強一さんは、元小学校教師。「2020年プログラミング教育必修化」この知らせが、彼が子どもたちと再び向き合うきっかけとなったのです。
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年齢を重ねても、自分らしさが発揮できる働き方を求めて早期退職を決意

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▲「かるちゃーステーション名張」代表の田中強一さん

「積み重ねてきた経験を活かし、誰かの役に立つ働き方を見つけたい」

三重県名張市でパソコン教室を運営している田中さんには、定年をこえても自分らしさを活かして誰かのために働き続けたいという思いがありました。

田中さんの“積み重ねてきた経験”。それは、2016年3月まで、32年間続けた小学校教師としての経験です。

小学校の教壇に立っていた田中さんが、なぜパソコン教室を開くようになったのか。それは、彼がコンピューターと出会った高校時代に遡ります。

まだ家庭用のコンピューターがパソコンではなく「マイコン」と呼ばれた時代——。

当時、田中さんは、遠い外国に住む人たちと交流ができる、アマチュア無線に夢中になっていました。インターネットの登場に、マイコンと無線が合体したような衝撃を受けたといいます。

その後、小学校教師となった田中さんは、パソコン教育の前身となる視聴覚教育の研究会に所属。パソコンやインターネットが普及する前から、コンピューターを使った教育が子どもたちに与える影響をつぶさに研究してきました。

そんな田中さんが、はじめて教育の現場にコンピューターを取り入れたのは、社会人2年目のころ。当時まだ高額だったパソコンとプリンターを自ら購入し、職場に持ち込みました。

まだ視聴覚教室も整備されていない時代のこと。ワープロで配布物を作成したところ、「子どもが読むプリントは、手書きでなければ気持ちが伝わらない」と反対されたこともあります。

それでも持ち前の明るいキャラクターと、「作家の直筆でなければ、小説には感動できないのか?」という意表をつくような持論で同僚たちを納得させ、少しずつコンピューターに関する知識の深さを認められていったのです。

開業に際し、これまでの経験を最大限に発揮できるコンピューターに着目したのは自然な流れでした。「体力勝負となる学校現場とは異なり、年齢を重ねても人のために仕事ができる」そう感じた田中さんは、勤務先の小学校を早期退職。パソコン教室の準備を進め、2016年5月、「かるちゃーステーション名張」を開業します。

開業当初は、高齢化の進んでいた周辺地域を意識し、シニアや主婦を対象とした教室でした。田中さんは、地域性を考慮しながら、「地域の人が交流を深められる」理想の教室を整えていったのです。

挫折経験が教えてくれた、「Scratch」で学ぶプログラミングの面白さ

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▲小学校教師時代の田中さん

田中さんが、再び子どもたちと関わりを持とうと考えたきっかけ。それは、「プログラミング教育の必修化」が決まったことでした。

2020年からはじまる必修化に向け、「子ども向けの教室はしないのか」といった声が周囲から上がるようになったのです。

半生を捧げたテーマといっても過言ではない、「小学校教育」と「コンピューター」。

教室にはシニア向けにそろえた機材と設備があり、ソフトの導入以外に手間はかかりません。子ども向けのレッスンを開講してみようかーーそんな思いを胸に情報を集めていたとき、映像授業を活用した子ども向けのプログラミング教室「Tech for elementary(以下、TFE)」との出会いが訪れます。

田中さんがTFEと出会った2016年8月は、パソコン教室の開業からまだ3ヶ月ほど。TFEもフランチャイズ展開を開始したばかりで、自分と同じ強いエネルギーを感じました。

さらに魅力を感じたのは、TFEが導入している、子ども向けプログラミング言語学習環境の「Scratch」。

Scratchは、難しいプログラミング言語を覚えることなく、ゲームを作る過程でプログラミングの考え方や知識を身につけられる仕組みになっています。

ゲームの親しみやすさに加えて、見たままで理解できる、日本語ベースで取り組みやすいなど、初めてプログラミングにふれる子どもたちにとって、抵抗を感じにくい構成です。

またScratchは、ブロックをパズルのようにはめこんでいくようなイメージで、全体像をつかみやすく、何度でもやりなおすことができます。そのため、子どもたちが試行錯誤をくり返しながら、「自発的に考える力」を育てるには、適した教材だと感じました。

もともとコンピューターへの関心が高かった田中さんは、これまでもプログラミングに取り組んだ経験がありました。しかしプログラミングは自力で学ぶにはあまりにも難易度が高く、何度も挫折を味わっています。

その難しさを理解していたからこそ、Scratchに、引きつけられたのです。

Scratchには大きな可能性があるーー。

そう感じた田中さんは、TEFの導入を決意。

教材は徹底的に吟味し、慎重に導入を検討してきたからこそ、導入にあたっては納得できるまでやりとりを重ね、集客の即戦力となるサポートは有効に活用してきました。

いざTFEをスタートしてみると、子どもたちは予想以上に自由な発想で、自発的にScratchを扱うようになりました。家庭や学校でパソコンに触れる機会が少なかった子どもでさえ、教室ではいきいきとマウスを操り、次から次へとアイデアを形にする姿が見られたのです。

年齢・性別・国籍、学びの場に違いは必要ない

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▲プログラミング教室で学ぶ子どもたち

2017年8月現在、「かるちゃーステーション名張」には、8人の子どもたちが通っています。

田中さんは、年齢・性別・国籍を問わないコンピューターの将来性には、無限の可能性があると感じています。

それは、田中さんにとって、まさに理想ともいえる世界。

幼少期から大阪市生野区という在日韓国人の多い環境で育ち、大阪教育大学在学中は「特別支援教育」を専攻するなど、生きづらさを抱える多くの子どもたちを目の当たりにしてきたからです。

プログラミングに興味を持ち、体験に来られるお客様のなかには、特別支援学級で学習している子どももいます。大勢のなかで学ぶ塾にはなじめず、「プログラミングには興味が持てるだろうか?」と、子どもの可能性を探り、不安でいっぱいの保護者の方もいらっしゃいます。

そんなとき、田中さんはリラックスした雰囲気のなか、自らの小学校教諭の経歴と、特別支援についての知識があることを伝えるようにしています。

すると、保護者の方の不安は一転、安心と信頼へ変化します。そして、「ここでは子どもを受け入れていただけた」と大変喜んでくれます。

英語など、すでに学校教育に取り入れられているジャンルとはちがい、プログラミングについての情報はまだ少なく、子どもたちがどのような反応をするのか、どんなことに役立つのかといった研究結果は広く共有されていません。

しかし、子どもならではの柔軟な発想に価値が認められることや、トライ&エラーの経験をかさねることで見通しを立てる力がつくなど、プログラミングで得られる力は普段の学習にも大きな影響を与えます。学校や現在の環境に息苦しさを感じている子どもにとっても、本来の力を存分に発揮できる可能性のある分野なのです。

シニアを対象に始めた教室が、今では子どもたちにとっても憩いの場となりつつあります。

田中さんのこれまでの経験は、教室における学習支援や、さまざまな子どもの受け入れなど、将来の可能性を広げる土台となっているのです。

プログラミング教育の根幹を支える存在になりたい

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▲「かるちゃーステーション名張」のFacebookページ

地域の先駆けともいえるプログラミング教室を経営する立場として、田中さんが感じているのは、自らが動かなければこの地方のプログラミング教育がとり残されてしまうという危機感です。

プログラミング教育はまだ認知度が低く、習い事としても学習科目としても関心が持たれにくい分野です。

そこで田中さんは、子どもたちの親に向けてのアプローチに力を入れています。SNS上では、教室の広報だけでなく、プログラミングとはいかなるものか、今後どのように浸透するのかといった情報を発信し、子どもたちに学習する機会を与える必要性を伝えています。

さらに教室では、「どうすれば子どもたちは喜んで学ぶのか、子どもにどんな力をつけたいか」を常に考えながらプログラミングに熱中する様子を見守ります。Scratchは映像を通して学ぶコンテンツであるものの、子どもたちの表情や姿勢から目は離しません。

田中さんは、これから始まるプログラミング教育の大きな課題として、小学校への導入にはよりコストと時間をかけた準備が必要であると感じています。

小学校への英語の導入が決まった当時、現場では大きな混乱が生じました。田中さんを含めた多くの教員の英語力は子どもに教えるレベルにはなく、話すことのできない教員も少なくありませんでした。

「免許を持ち、教える立場である教師が、子どもたちと肩を並べてALTの授業を受けるわけにはいかない」そう考えた田中さんは、費用を捻出し、仕事の合間を縫って英会話教室に通ったのです。

その経験から、今回のプログラミング教育の導入については、「特別講師ではなく、担任の先生が直接子どもたちに教えることができるように、国や県が研修制度を整え、教室での授業をスタートしてほしい」と願っています。

小学校教諭として長年教育に携わり、なおかつメディア教育を研究してきた者としてその一端を担えるのであれば、地域や機関と連携し、積極的に関わっていきたいとの思いもあります。

2020年、東京オリンピックと同時にプログラミングは日本の教育界に導入されます。

開かれた日本で子どもたちが生きぬいていくには何が必要なのか。自分には何ができるのか。重ねてきた経験をコンパスに、「かるちゃーステーション名張」は“子どもたちが憩い、学ぶことのできる場”としての役割を果たしていきます。

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