働き方の次は“学び方改革”?子どもたちが自発的に学べるプログラミング教材を作る

「自分が組んだプログラムで、ゲームは思ったとおりに動くだろうか?」期待と不安を胸に、パソコンの画面をじっと見つめる子どもたち。今、全国のTech For Elementary(以下、TFE)の加盟教室では、こんな風景が当たり前になっています。その教材には、開発担当者の想いが込められていました。

「もっとたくさんの人を喜ばせたい」少年時代、夢中で取り組んだものづくり

▲教育ITソリューションEXPO2017に出展。(左から)TFEの竹下、尾市、小高、澤部

IT業界で活躍する人がみんな、子どものころからコンピューターやプログラミングに触れているわけではありません。

TFEがスタートした2015年から、カリキュラムと映像教材の開発を手がけているシステムエンジニアの竹下仁(たけした・まさし)もそのひとり。彼は子ども向けプログラミング言語「Scratch」を使い、子どもたちが意欲的にプログラミングを学ぶことのできる方法や場を提案しています。

竹下は子どものころからダイヤブロックや絵をかくことなど、決められたゴールのないところに、ゼロから自分で考えてものを作ることが好きでした。未知との出会いがある自転車での町探検や、山での秘密基地づくりに夢中になり、手や体を動かしてものづくりの基礎を身につけていきます。

しかし専門学校に入学するまで、彼はコンピューターにほとんど触れたことがありませんでした。

竹下「コンピューターの専門学校を選んだ理由は、新設校で自由に好きなことができそうな校風がよかったことと、CGを使って絵を描くことがおもしろそうだと思ったからです。当時はCGのソフトも今ほど発達しておらず、デッサンの授業などもあって、好きなことの延長線上にある技術を学んでいるような感覚でした」

自由な広い世界に、自分が作り出した世界を組み立てていく。好奇心に忠実に、「自由なものづくり」にフォーカスした進路を選んでいったのです。

その専門学校で学んだ知識をもとに、1992年からシステムエンジニアとして働きはじめた竹下。SIerに所属し、客先の企業に常駐してシステムを構築する業務を担当するようになります。

竹下「その企業に必要なシステムを完成させるために、自分たちで考えながらプログラムを組み立てていく。その工程は、子どものころから好きだったものづくりに似ていて、やりがいを感じていました。一方で、せっかく作ったシステムを使う人の顔が見られないことに、物足りなさを感じていたんです」

スマートフォンが誕生し、多種多様な需要を満たすWebサービスやアプリが飛躍的に成長していることを知るたび、彼のなかで「もっとたくさんの人を喜ばせることのできる知識や技術を習得したい」との思いが強くなります。

時間や場所にとらわれない働き方を求めて、世界を旅する

▲アジアやオセアニア諸国を旅していたころの竹下

竹下がコンピューターや、インターネットに新たな可能性を感じていた2008年ごろ 、自分の働き方を見つめなおす出来事がおこります。

竹下「家族が病気になり、職場のある東京から、実家のある神戸に一時的に帰省することになりました。ところが機密保持の理由から、勤務時間に職場にいなければ、仕事には一切手が出せない。職場ではない場所にいても仕事をする時間はあるのに、働けない現実にもどかしさを感じました」

その当時も、インターネットでつながりさえすれば、遠隔地にいてもできる仕事はあると感じていた竹下。それと同時に、仕事ができなくなったとき、収入の道が完全に途絶えてしまうことにも不安を感じました。

竹下「どんなに高い技術を身につけられる仕事についても、そこで覚えられる知識や技術には限界があり、収入源もひとつです。一方でさまざまな仕事に関わっていれば、得られる情報や技術、収入の道は仕事の数だけ増えるのです」

リモートワークに加え、パラレルキャリア(複業)を目標に加えた竹下は、住む場所と働き方の可能性を求めてアジアやオセアニア諸国を旅し、オーストラリアの永住権を取得しました。

ところが、せっかく取得した永住権を、数年で手ばなすことになります。

竹下「オーストラリアの永住権を持っていても、一度国外に出てしまうと、過去5年のうち2年間はオーストラリアに住んでいなければ、永住権を維持することができないんです。場所にとらわれない働き方を求めて永住権を取得したのに、権利を維持するためにオーストラリアに拘束されるのでは、意味がないと思ったんです」

時間や場所に拘束されない働き方を模索していた竹下にとって、オーストラリアに住み続けるという選択肢はありませんでした。そうして諸外国を旅するなかで、「アジアの観光都市のひとつ」として訪れた東京で、情報の集めやすさや、コワーキングスペースなど働く場所の確保のしやすさに魅力を感じ、しばらくとどまることを決めます。

学ぶことも場所や時間にとらわれる必要はない。TFEとの出会い

▲竹下が開発したプログラミングの映像教材

フリーランスのエンジニアとして東京で仕事をはじめ、「せっかくなら自分のスキルを使って、何か新しいことができないか」と考えていたとき、海外でブームになっていた子ども向けプログラミング言語Scratchのニュースが飛びこんできました。夢中になって遊んだダイヤブロックを思い出させるScratchに、「もし自分が子どものころに出会っていたら、絶対夢中になっていた」と感じたのです。

職業柄、プログラミングに関する知識は十分にあり、Scratchはスムーズに理解することができました。

竹下「Scratchを知ってすぐ、これを使って何かしたいと思いました。ブロックとプログラミング両方のおもしろさを知っている自分になら、与えられたゲームではなく、自分で作ることの楽しさを、子どもたちにわかりやすく伝えられるのではないかと考えたのです」

そうした試みのひとつとして開催していた彼のワークショップを訪れたのが、TFEを企画し、技術者を探していたエクシード代表の尾市でした。

尾市が構想を練っていたTFEでは、これまで竹下が模索してきた「時間と場所にとらわれない働き方」が、そのまま学習にあてはめられていました。地方に住む子どもたちにも、都会の子どもたちと等しく、プログラミング教育が受けられる機会を届けようとしていたTFEには賛同できる部分が多く、事業チームとして参加することを決めます。

開発をスタートした当初、竹下を悩ませたのは、プログラミング教育の主旨である「自分で学ぶ力をつける」ことに、どのように映像授業を合わせていくかということでした。与えられるレッスンを受けて、わからないところを先生に質問するスタイルでは、子どもたちが自発的に学ぶ力を引き出すことはできません。

竹下「教育においてサービス提供者ができることは、学ぶ場所を提供することと、プログラミングに限らず、その世界のおもしろさを伝えることです。TFEでは、加盟教室が場所を提供する役割を果たしています。それなら自分にできることは、“この世界は、こんなにおもしろいんだよ”ということを伝えることだと考えました」

試行錯誤を重ねて作成した映像は今、教室に通う全国の子どもたちを夢中にさせています。

日本全国で能力ある人が「学べる場所」を提供すれば、業界が活性化する

▲竹下が主催するプログラミングクラブ

国が小学校にプログラミング教育を導入しようとしている背景には、「既存の学習内容では伸ばせない、子どもたちの持つ能力を伸ばしていく」という目的があります。自分で問題を見つけ、解決する方法を探し、試行錯誤をかさねて目的を達成する。その力は、これからの国際社会を生き抜くために不可欠でありながら、日本には十分な力を持つ人材が不足していることが問題となっているためです。

一方で、科目として導入するための準備は進んでいるようには感じられず、危機感をつのらせる関係者は少なくありません。

竹下「プログラミングの力は、従来の科目のように、テストの点数や数字で見えるものではありません。そこをどのように評価し、子どもたちの成長と保護者の意識向上につなげていくのかが、プログラミング教育を導入する上での大きな課題です。これまでと同じ方法で、これまでになかった人材を育てることは不可能なのです」

そしてまた、プログラミング教育を支える環境にも、課題が残されていると竹下は感じています。

竹下「プログラミング教育を定着させるには、学ぶ場を提供する側も、ビジネスを成立させる必要があります。事業化することで、能力を持った人たちが全力で取り組める環境が整えば、業界自体が活性化し、教育内容が充実するからです」

TFEが加盟金を抑え、プログラミング教育への思いを持った人が参入しやすくしている理由は、関わる人たちの持つエネルギーを、そのまま子どもたちの成長につなげていきたいからです。

カリキュラムや教材は、これからも新しい発想を取り入れ、改良が続けられます。一方で現在の加盟教室からは「教え方がわからない、内容が不足している」といった意見が出ていないことで、授業に必要なコンテンツは、映像で満たされているとも自負しています。

竹下「教える内容はもれなく映像でカバーするので、加盟教室では安心して子どもとの関わりに注力してもらいたいですね」

遠い場所で学ぶ子どもたちは、竹下の思いを乗せて画面の上を動き回るひょうきんな猫のキャラクターと、プログラミング教育に熱い思いを持った、日本全国の先生たちに見守られて成長しています。

関連ストーリー

注目ストーリー