子どもの自由な発想を育てよう。“観察”と“分析”が新時代のカリキュラムを生み出す

子ども向けプログラミング教室Tech For Elementary(以下、TFE)の直営校を運営する小高直樹。プログラミングは、子どもたちにとって“ある可能性”を秘めていると語ります。「プログラミング教育をひとりでも多くの子どもたちに届けたい」熱い思いでスタートしたTFEの誕生を振り返りました。
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子どもたちとの触れ合いで培った、観察力と分析力

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▲まなびのいえ代表 小高直樹

小高 「はじめて教える立場として教育に関わったのは、塾講師のアルバイトです。少人数制の授業だったので、子どもたちとコミュニケーションを取りながら授業を進めることで、子どもたちが自ら学ぶ姿に手ごたえを感じていました。教えることや子どもに関わることが楽しくて、学生時代はずっと続けていましたね」

小高は、大学卒業後はシステムエンジニアの道へ進み、教育からは遠のいたものの、教える仕事にかかわりたい気持ちは変わりませんでした。仕事のかたわら、子どもたちをはじめとした、多くの人に環境のことをわかりやすく伝える「インタープリター」の資格を取ります。

資格を活かした仕事を検討していた矢先、知り合いの紹介で、養護学校の子どもたちを対象とした学童保育の場を運営するNPO職員への道がひらけます。

小高 「子どもと関わる仕事がしたいという思いと、インタープリターで学んだ『相手にわかりやすく伝える技術』が活かせると思い、転職を決意しました。

実際に働いてみて、コミュニケーションを取ることがむずかしい子どもたちとのふれあいでは、表情やちょっとした変化を細かく観察するようになりました。その日の体調の良し悪しを見ながら、子どもたちの気持ちを推測してコミュニケーションを図っていく場合もあるんです」

この経験を通して、言葉を介さないコミュニケーションは、小高の強みとなっていきます。

その後、小高はインタープリターの資格を学んだ団体を通して、区で運営していた施設が環境教育をテーマにした施設にリニューアルされることを知ります。そこで施設の運営を担う職員を募集していたことから、区の行政職員として、環境教育に携わりました。次第に小高には、自分の持つ知識や経験をより広い場所に向けて発信し、興味を持った人たちと深くかかわりたいという気持ちが芽生えます。

環境教育だけでなく、さまざまな分野に多くの人の関心を集め、大きな力を生みだしていきたい。

そう考えた小高は、大学で学んだ情報システム工学の知識とシステムエンジニアの経歴を活かし、Webサービスの企画・運営など、新規事業開発部門で人材を募集していた大手予備校に転職。予備校の卒業生を対象に、子どもたちの学習支援や環境教育など、ボランティアの企画や運営をしました。

そして2013年、育んだキャリアを糧に、長野県安曇野市への移住を決断します。

“偶然”を“必然”に。人とのつながりに支えられたTFEのスタート

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▲長野県松本市で開催した初めてのワークショップ

以前から移住を検討していた小高は、住みやすく、自分の夢が実現できそうな土地を求めて、情報収集を続けていました。

そのなかでも安曇野は、Iターンや・Uターンで移住している人が多くいること。また、自然が豊かで子どもたちが成長していく環境としてとても良い場所であることから興味を持ち、 移住前にもかかわりを深めていた土地です。

知り合いやSNSでつながった人たちから情報を集め、自らも移住計画を発信していたことで、安曇野ではスムーズなスタートを切ることができました。

小高は、移住からしばらく経って、以前から知り合いだったエクシード代表の尾市守と共に、子ども向けプログラミング教育を広げていくことを考えはじめます。

教育にかかわる仕事を視野に入れていた小高。今までの自分のキャリアを活かせるうえ、自分の夢にも近づけることから、尾市と一緒に活動していくことを決めました。

開発をはじめた当初は、TFEをどんな形態で展開するのか、何度も検討を重ねていた段階。当時のプログラミング教室の多くは首都圏に集中し、イベント型のレッスンをメインとしていました。地方における教室型のプログラミング教育にニーズがあるのかは、わからない状態だったのです。

そこで2015年、長野県の中核都市である松本市で、ワークショップの開催を企画。他県の中核都市で教室を展開していく際の良いモデルになると考えました。

ここで参加者が集まらなければ、地方におけるプログラミング教室のニーズは少ないということになるーー

結果、参加希望者は予想をはるかに上回り、キャンセル待ちの出る状態となりました。当初、1回だけの予定だったワークショップは、2回目も開催することに。どちらも満員となり手応えを感じたことから、教室型プログラミング教育の展開に向けてスタートを切ります。

記念すべき直営校は、安曇野市穂高の駅前にある、パソコン教室の休校日を利用してはじまりました。その後、2017年、安曇野市豊科に「まなびのいえ」をオープン。小高の「情報収集力」や「人との繋がりを大切にする力」が発揮されました。

小高「穂高のパソコン教室が使えなくなるタイミングで、知り合いから希望に近い空き物件があると情報をもらえたんです。パソコンは、以前からつながりのあった人たちから寄付してもらうことができました。教室をはじめるにあたって、たくさんの人から応援いただけたことは力強かったです」

「安曇野で教育に関わる仕事がしたい」。小高が発信してきたメッセージは、確実に支援の輪を広げていました。

直営校が立ち向かう「プログラミング教育の課題」

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▲新コース「ロボットプログラミング」の開発現場

TFEにおける直営校の意義は、開発するコンテンツを先行して試し、ダイレクトなフィードバックを行なうことと、教室運営のハウツーを蓄積すること。TFEのカリキュラムと教材が子どもたちの力を適切に伸ばせているのか、いろいろな角度から判断しています。

小高「教育現場でのキャリアとワークショップでの経験から、子どもたちの反応は予測がつかないものということは理解していました。

同じカリキュラムに取り組んでいても、黙々とその日の課題をこなす子や、その日の課題を取り入れながら自分のオリジナルを作る子、あるいは課題をまったく無視して作りたいものを作る子など、子どもたちがプログラミングに取組む姿勢はさまざまです。

一人ひとりが自分のペースで取り組めるTFEなら、必ずしも同じ成果を目指す授業は必要ないと考えています。同じScratchという道具を使っても、それをどう使うかは、子どもたちが自分で決めることができるのです 」

教室の子どもたちにとってTFEの教材は満足のいくものである一方、小高はプログラミング教育の入り口や見せ方には、まだまだ工夫が必要だと感じています。

小高「 プログラミングは、ゲームが好きな男の子が向いているというイメージがあります。確かにマウスやキーボードの操作など、ゲームに親しんでいれば扱いがうまい子は多い。また、2017年現在のTFEのカリキュラムはゲームを作ることがメインとなるため、どうしてもゲームが好きな子の方がなじみやすいという特徴はあります。

ただ、プログラミング教育で育まれる能力は、性別に関係なくこれからの子どもたちにとって必要なものです。そこをどう見せていくか。ゲームに関心のない子どもたちの興味もひきつける教材の開発は、今後の課題のひとつです」

「まなびのいえ」を、子どもたちが安心して過ごせる居場所に

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▲まなびのいえでプログラミングを学ぶ子どもたち

プログラミングを学びはじめた子どもたちと、その保護者とのかかわりのなかで、小高はこれからの「まなびのいえ」のあり方を模索しています。

小高 「まなびのいえには、学校の勉強やこれまでの習いごとには夢中になれず、何か興味のもてるものはないかと、保護者の方が一生懸命に探した結果、プログラミングにたどり着いた子もいます。

その子が自分でゲームを作ることに夢中になり、集中してプログラミングに取り組んでいる様子を見ると、ここは子どもたちが安心して過ごしながら自由に学べる場所となれるのではと気がついたんです」

まなびのいえに来る子どもたちは、それぞれが適度な距離感で関わりながら、自分のペースで課題に取り組んでいます。そうした環境があるだけで落ち着いていられる子がいると知ったことは、今後を考えるきっかけになりました。

これまではうまく自分の力が発揮できずにいた子どもたちが、プログラミングを通じて能力を伸ばしている。その様子を目の当たりにしたことで、さらに多くの子どもたちのためにも、たくさんの人との関わりが必要だと感じるようになったのです。

子どもたちは今後、自ら興味を持ち、問題を見つけ、それを解決する力が必要とされる時代を迎えるでしょう。だからこそ、子どもたちが多くのことに興味を持ち、経験していくことが大切だと小高は感じています。

小高「自分ひとりの知識や技術だけでは、伝えられる内容に限界があります。今後まなびいえは、得意なことを持つ大人が知識や経験を持ち寄り、子どもたちが興味を持ったことを学べる場所にしたいと考えています」

プログラミング教育を、ひとりでも多くの子どもたちに届けようーー

この理念は、子どもたちが「好きなことをしながら、社会に居場所を作る力を身につけること」につながる思いでもあるのです。

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