好きなことに夢中になれる未来をーー空想好きな男が描く“魔法の教室”

宮城県大崎市。東日本大震災の直前に生まれ故郷に戻り、子どもの教育に関わってきた加藤みつるさん。教育に携わるまで「ちゃんと勉強をしたことがなかった」という彼を導いたのは、好きなことに夢中になる力でした。トライ&エラーをくり返して身につけた力を、自らが運営する学習塾「カラフル学舎」で子どもたちに伝えます。
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「勉強なんてちゃんとしたことがない」男が、被災地で守った子どもの学び場

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▲カラフル学舎を運営する加藤みつるさん

宮城県大崎市にある「カラフル学舎」で、2013年から学習塾・ピアノ教室・情操教育・プログラミング教室を運営する加藤さん。幼いころから空想が好きで、独創的なことや創造的なことに惹かれたといいます。友だちと遊ぶことも好きでしたが、自分と向き合い、思いを深める時間を大切にする子どもでした。

そんな加藤さんが高校時代から社会人になるまで夢中になっていたのは、自らの内面と向き合う演劇や、仲間とのグルーヴのなかで自分を表現するバンド活動。思いをぶつけることのできる場所にのめり込みました。

一方、仕事では、何が合っているのか、何がやりたいのか、自分の方向性がつかめず、転職を10回以上くり返した加藤さん。子どもを連れて故郷の宮城へ戻ることになります。

宮城では、それまで熱心に子育てに関わってきた経験を生かし、2010年、34歳のときに学習塾の講師の職につきました。生きるためにとにかく仕事を見つけなければならず、必死で頼み込んで採用してもらったといいます。

ところが教える仕事ははじめて。学校での勉強は忘れたどころか、加藤さんには基礎知識さえ足りていませんでした。「本当に苦労した」と当時をふり返ります。

加藤さん 「突然仕事が決まって、何をどう教えたらいいのか困りました。そんなとき、たくさんの授業コンテンツを公開しているWebサイトの存在を知り、むさぼるように観るようになりました。インターネットで配信される教材を使えば、どんな学年の、どんな科目でもひとりで学習できることを知ったんです。実際に自分の学習に使って、大きな将来性を感じずにいられませんでした」

努力が実り、半年後には、複数の集団授業を任されるまでに。ところが講師の仕事が軌道に乗りはじめた矢先、東日本大震災が起こります。

加藤さん 「震災で、子どもたちが学べる場所が激減しました。本来なら、学校でたくさんのサポートを受けるべき子どもたちがとり残されてしまったんです」

子どもたちのことはみんな気になっている。けれど災害を受けた地域に住む大人たちに、子どもたちの学びを十分にサポートする余裕はありませんでした。

そんな状況のなか、2011年3月、加藤さんは震災からわずか2週間後に、有志の仲間と無償で子どもたちに勉強を教える「震災ボランティア塾、おらほの寺子屋」を設立。

「おらほの」とは、「自分たちの」という意味を持つ地元の方言。さらに子どもたちの学習環境が落ち着いた2013年には、「カラフル学舎」を設立します。

先人の「教え」を学べーー東北大学大学院でつかんだもの

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▲東北大学大学院在学時の加藤さん

カラフル学舎という名前には、個性豊かで色鮮やかに輝く可能性を秘めた子どもたちを育む場にしたい、という願いが込められています。町は少しずつ震災から立ち直り、子どもたちの学びにも、大人からの期待が寄せられるようになります。

加藤さん 「教育に関わる人間として、より確かな知識を持って子どもたちと向き合いたいと考えるようになりました。成績は伸びたけれど、もっと研究に裏打ちされた、子どもたちにとってよい学びがあるのではないかと思ったんです。そこで2014年の1月ごろ、東北大学の教育心理学の教授に手紙を出し、塾での指導方法に悩んでいると相談しました」

教授から、東北大学教育学部の研究生になることをすすめられた加藤さんは、研究生として2014年から1年間、大学へ通いはじめます。

大学での学びが、自分にとって大きな力となることを確信した加藤さんは一念発起して大学院の受験を決意。困難な受験を突破して、見事、東北大学大学院に合格を果たします。

大学院では、勉強が苦手な子どもたちにどうすれば深い理解を促せるのか、という研究に取り組みました。「先人が頭をひねってたどりついた教育論」には今も通ずる普遍的な要素が詰まっていて、それをしっかりと学ぶことが教育者として大切だと加藤さんは語ります。

2017年3月に大学院を修了し、教育や指導についての考えを深めた加藤さんは、当時ホットワードとなっていたプログラミング教育にも関心を持ちはじめました。

加藤さん 「プログラミング教育についても、先人の知恵を学ぼうと思いました。そう考えて教材を探していたとき、子ども向けプログラミング教材を開発するTech For Elementary (以下、TFE)に出会ったんです。」

TFEにはプログラミング学習の深い知識と、現場からのフィードバックを開発に生かしてくれる柔軟性がある。加藤さんはTFEであれば、「子どもの自由な表現力を伸ばす」という同じ目的を持ってプログラミング教育に取り組めると確信しました。

「嫌いなことがうまくできる大人」にならないために

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▲カラフル学舎での指導の様子

プログラミング教育の世界へ足を踏み入れた加藤さんが感じたのは、「プログラミングもまた、表現の手段のひとつである」ということでした。

加藤さん 「TFEでは、子ども向けプログラミング言語のScratchを使ってゲームを作ります。そのとき作るゲームの流れを、『スクリプト』と呼ぶんです。演劇用語では、『台本』という意味です。子どもたちは自分で創造したストーリーをスクリプト上に構成し、再現することを目標にプログラムを構築します」

想像上のものを創り上げて再現する——それは夢中になって遊んだ子どものころに戻るような感覚。

まったくの畑違いと思っていたプログラミングの世界が、自分の良く知る場所だと気づいた加藤さん。それだけに、プログラミング教育がもてはやされる最近の風潮に、危機感を覚えています。

加藤さん 「学生時代の仲間には、演劇・歌・映画、それぞれに得意な表現の場がありました。プログラミング教育によって身につくと言われている論理的な考え方や独創性、想像力は、自分に合った表現方法であれば、誰しも育んでいけるものなんです。プログラミングにしか伸ばせない能力があると考えるのは間違いです」

あくまでプログラミング学習は「表現の場のひとつ」。そう考える加藤さんは、カラフル学舎でのレッスンをプログラミングだけに限定せず、学習塾・ピアノ・キャリア教育など、さまざまなことを取り入れています。そして危機感を抱いてなお、プログラミング教育には十分な魅力があると感じています。

加藤さん 「ゲームにハマるなら、とことんハマって深めていけばいい。最新のテクノロジーが凝縮されたゲームには、好きになったことをつきつめて考えるチャンスが落ちているんです。

やりたくもない勉強を嫌々やっても、何かをつきつめて考えられる人間にはなりません。好きなことには、能力を限界以上に引き出す力があるんです」

加藤さんは演劇も大学院での研究も、好きだったからこそ持てる以上の力を発揮してきました。その力がこれからの時代を生きていく子どもたちにとって、どれほど大きな支えとなるかは、誰よりもよく知っています。

どんな場所にいても、子ども達が等しく学べる環境づくりを

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▲オンラインWeb会議ソフトを使用した遠隔授業の様子

塾講師として働いていたころから、自身の教材として活用したオンライン学習のよさを感じていた加藤さん。これからは、年齢や住む場所、生活環境に左右されず、どんな人でも望んだ場所で、確かな知識を持つ人から学べることが必要になると考えています。

加藤さん 「多くの学校が機能できなくなった被災地では、子どもの学びの場を確保することが非常に困難でした。また、地方では都心に比べて、講師や子どもたちをどうやって集めるのかという問題がつきまといます」

加藤さんはカラフル学舎を運営するなかで、突然の講師の不在や、通い続けたいと願いながら叶わなかった子どもたちと向き合ってきました。

加藤さん 「これまで来てもらっていた講師の先生が、急きょ県外に転居すると決まったとき、子どもを任せられる新しい先生が確保できなかったんです。でもオンラインでその講師とつないだことで、子どもはこれまでと同じように、慣れ親しんだいつもの授業を受けることができました。この方法なら、年齢問わず誰でも『学びたいことを学びたい人のもとで学ぶこと』ができるようになるはずです」

自ら大学院へ赴いて足りない知識を補い、仲間を増やしながら新たな情報を吸収して子どもたちと向き合ってきた加藤さん。次の目標としてオンライン自習室にも取り組みながら、プログラミング教育では、TFE本部や他の加盟教室との連携を深め、都心と遜色ない教育の場を提供しています。

先人の知恵と新しい情報・知識を持つ大人と、これからを担う子どもたち。新しい価値観を構築しながら、加藤さんはカラフル学舎に未来の教室を描き続けています。

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