息子の夢がママの夢をつくったーー勉強好きなママがはじめたプログラミング教室

山梨県笛吹市で「こどもプログラミング教室テック・スマイル」を運営する金澤育子(かなざわいくこ)さん。はじめての就職先でパソコンの楽しさに目覚めて以来、何度も専門学校に通い、新しいことを学び続けてきました。そんな金澤さんが、プログラミング教育を通して広げたい「子どもたちの可能性」について考えました。
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知識が仕事につながる快感が、学習の無限ループを生んだ

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▲「こどもプログラミング教室テック・スマイル」を運営する金澤さん

金澤さんは、2017年に山梨県笛吹市で「こどもプログラミング教室 テック・スマイル」を設立。自宅の一室を使い、プログラミングに興味を持つ子どもたちを迎え入れています。

幼いころから電化製品に興味を持っていた金澤さん。はじめて中をのぞいたのは、捨てられることが決まっていたラジカセでした。

金澤さん 「ドライバーで開けて中を見てみたんです。そしたら小さな町みたいなものが出てきて。なんてかわいいんだろうって、うっとりしました」

弟と一緒に、男の子がするような遊びばかりしていた彼女の「かわいい」に対する好奇心を刺激したのは、ラジカセのなかに組み込まれていた「コンピューター」の基盤でした。今でも基盤を眺めるのは好きだといいます。

電化製品が好きだった金澤さんですが、もうひとつ好きだったのが「音楽」。高校卒業後は、音楽に関わる仕事がしたいと考え、1996年、21歳のときにイベントを企画・運営する会社に就職します。

金澤さん 「小さな会社だったので、運営するイベントのすべての作業に関わりました。看板作りや機材のセッティング、会場で流す音楽まで。何でも自分で作ってみるとか、人に頼む前に自分でやるとか、その会社では仕事に向き合う姿勢を教わりました」

金澤さんはイベント会社で看板やパンフレット、チラシなどを作成する仕事を通して、パソコンを使ったモノづくりの楽しさに目覚めます。なかでも興味を持ったのは、パソコンでデータを作成し、印刷物を作る「DTP」でした。仕事をしながら専門学校へ通い、そこで得た技術をもとに印刷会社へ転職。Webの広がりを感じると、今度はWeb制作に興味を持ち、ふたたび専門学校へ。

働きながら遅くまで専門学校へ通う金澤さんを見て、お母さんは「学生時代は全然勉強しなかったのに、就職してからなぜそんなに勉強しているのか」と、あきれていたと言います。

それでも、学んだことが仕事とつながった瞬間の感動は、色あせることがありませんでした。「新しいことを学べば、もっといろいろなことができる」。金澤さんは学ぶことが自分の可能性を広げることを、仕事をしながら何度も感じたのです。

それはまるで、学びと仕事というパーツを組み合わせ、目標に向かって人生をプログラミングしているかのようでした。

「かあさん、俺プロのゲーマーになりたい」息子の夢がプログラミングの扉を開いた

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▲金澤さんの息子さんと娘さん

2007年、当時33歳だった金澤さんは、結婚を機に故郷の山梨県笛吹市に戻ります。その後出産をし、育児をしながら地元のジュエリーショップでWebサイトの運営に携わります。

そして、金澤さんの転機となるプログラミングとの出会いは、息子さんが口にした将来の夢がきっかけでした。

金澤さん 「息子がプロのゲーマーになりたいって言いはじめて。ゲーマーって職業なの?と思って調べました。そこではじめて、世界各地で開催される大会に出て賞金を稼ぐ、『プロゲーマー』の存在を知ったんです。

ゲームがやりたくて言っているだけだと思ったんですが、世界各地を転戦するには言葉を覚える必要があるし、ゲームを攻略するためには、舞台の歴史的背景や成り立ちを詳しく知っている必要がある。プログラミングの知識が戦力となることも、そのときはじめて知りました」

2020年に小学校でプログラミングが必修化されることも、都市部では子どもたちがプログラミングを学ぶ教室が増えていることも、それまでは知らなかったという金澤さん。ためしに息子さんを子ども向けプログラミング言語のScratchに取り組ませてみたところ、すぐさま夢中になりました。

その様子からぜひレッスンに通わせたいと情報を集めましたが、隣接する甲府市にはいくつか教室があるものの、笛吹市にプログラミング教室はゼロ。それでもどうにかして、息子さんの夢を後押ししてあげたいと考えていた金澤さんに、子ども向けプログラミング教材を開発するTech For Elementary(以下、TFE)との出会いが訪れます。

金澤さん 「説明会に参加したら、5人くらいのお茶会みたいな感じでびっくりしました。でもそこで代表の尾市さんの人柄や、TFEにかける思いをとても身近に感じることができて。私が子どもに抱いていた思いを、同じように持っている人が全国にはたくさんいると知ってうれしかったですね」

コンピューターの基盤に「かわいい」の基準を置き、パソコンを使ったモノづくりをこよなく愛する金澤さん。息子さんのように、プログラミングに興味がある子どもたちの力になれるなら、と教室の設立を決心しました。

正しいプログラミングって何だろう?ーー地域が抱える情報格差

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▲テック・スマイルをオープンしたばかりのころ。教室となる自宅前で

その後、TFEの教材を使用して2017年にプログラミング教室を開校した金澤さん。わずか2ヶ月で開校までたどり着きました。しかし、ここで苦労したのが集客です。

隣の甲府市にあるプログラミング教室には比較的生徒が集まっているものの、笛吹市ではプログラミングを習わせたいと考える人だけでなく、プログラミングが何かを知っている人も少ない状況でした。

金澤さん 「そもそもプログラミング教室の情報を探す人が少ないなら、最初はインターネットで情報を発信しても生徒は集まらないと考えました。それで地元のフリーペーパーに広告を出し、『地域の人たちにプログラミング教室の存在を知ってもらうこと』、学童保育所に子ども向けのチラシを貼らせてもらって、『子どもたちのやってみたい気持ちを刺激すること』に取り組みました」

その結果、設立から間もなく、小学一年生の男の子と五年生の女の子が生徒として通うようになりました。

小学一年生の男の子は、まだ学校でも長時間座って学習に取り組むことに慣れていません。学童保育所でチラシを見て、みずから「行きたい!」と意欲を示したことにも、お母さんは半信半疑の様子でした。

ところが、いざはじめてみると、彼はプログラミング教室をとても楽しみにしてくれています。

金澤さん 「まだ自分がどんなことに向いているかもわからない年齢の子どもでも、一生懸命になれることを見つけられた。そのサポートができたことで、この教室を作って本当によかったと思いました」

一方、小学五年生の女の子は、すでに職人の雰囲気すら漂わせます。

金澤さん 「彼女はひたすら黙って取り組んでいます。でもまわりの音が気にならないほど集中している様子を見ていると、本当に好きなことが伝わってくるんです」

教室の門出に、心からプログラミングが好きな子が来てくれた。このことは、金澤さんが笛吹市にも絶対にプログラミング教室が必要だと信念を貫く、大きな力になっています。

また、年齢も性格も違う子どもを見ている金澤さんは、広く知られるプログラミングのイメージが、実際はずいぶん違うものだと感じています。

金澤さん 「男の子に向いていると言われることの多いプログラミングですが、決してそうは思いません。性格が細かい子は、ゲームも細かく作り、大らかな子は、大らかなゲームを作ります。どれも間違っていない。子どもたちは自分で作った自分だけのゲームに愛着をもって向き合い、『自分にしかわからない』と強い責任感と意志で問題に取り組んでいます」

枠にとらわれず、子どもたちをもっと伸ばしてあげたい。教室での経験を通じて、金澤さんのビジョンは広がります。

プログラミング教室は、現代の寺子屋になりうる

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▲生徒との授業風景。子どものやる気がエネルギーに

発想豊かに、自分の思いを表現する子どもたちを見てきた金澤さん。今後、自分の書いたプログラミングで、モノが動くことを体験できるロボットプログラミングや、自分の思いや作った作品を発表するブログやホームページなどの場所を作るWeb制作のレッスンにも取り組みたいと考えています。

一方でこれだけパソコンの普及率が上がり、学校でのプログラミング必修化が決まっても、子どもたちがパソコンにふれられる機会がまだとても少ないことを、金澤さんは問題だと感じています。

金澤さん 「せっかくプログラミングをはじめても、おうちでも学校でも自由にパソコンが使えない状況では、子どもたちはせっかく育くまれた興味をどこへ向ければいいのかわからなくなります。パソコンを扱う能力を伸ばすためには、子どもたちがもっとパソコンをさわれる場所と時間が必要です」

金澤さんは、TFEならその問題を解決していけるのではないかと思っています。

金澤さん 「TFEが提供する映像授業なら、マンツーマンで学んでいるようなものです。私のようにプログラミングにさほど詳しくない人でも教室が開けます。何か問題があっても、運営側がとても丁寧にサポートしてくれます。初期費用も高くない。

部屋ひとつあれば、子どもたちがパソコンにふれる場所を作ってあげることができるんです。全国に、子どもたちが自分の表現の場を持って、それを自由に伸ばしていける寺子屋みたいな教室が、もっと増えるといいなと思っています」

集客が思うように増えないとき、金澤さんはSNSでつながった全国の加盟教室や、自分と同じママ起業家の取り組みを見て前に進む力をもらっています。

同じ思いをもってプログラミング教育に取り組む全国の加盟教室によって、「子どもたちが自分を表現することを学ぶ場所」は、在りし日の寺子屋のように今、少しずつ輪を広げています。金澤さんの教室もまた、「好き」を学ぶ子どもたちとともに成長しています。

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