「主体的に働ける場」を創造する男が手にした副産物

兵庫県尼崎市にある「Hanshin Workers Coop」の代表理事、馬場義竜(ばばよしたつ)さん。2017年5月、子ども向けプログラミング教室の「三和キッズプログラミング」をスタートしました。地域が抱える悩みを間近で見てきた馬場さんが臨む、プログラミング教育の可能性と社会的役割を考えます。
  • eight

「働く人の意志を大切に、平等な立場で経営に参加する」ワーカーズコープとの出会い

C2c057c5fb88a2bfbf2dddf87d9ee72edde797a6
▲“Hanshin Workers Coop”の代表理事を務める馬場さん

兵庫県尼崎市で「Hanshin Workers Coop」の代表理事を務める馬場さん。「働く人たちの意志を大切にした職場をつくりたい」という想いを胸に、2013年の起業以来、造園業や介護事業、ニートや引きこもり支援など、社会的に弱い立場にある人たちが、主役となって働ける場所をつくってきました。

2017年10月現在は事業のひとつとして、子どものためのプログラミング教室「三和キッズプログラミング」の本格的な集客に向け、教室の準備を進めています。

1995年、17歳の馬場さんが就職したのは、地元のワーカーズコープが運営する造園業でした。

馬場さん 「ワーカーズコープは、働く人が自分たちで出資し、経営し、働くという主体的な働き方ができる協同組合です。運営方針は話し合いで決まり、参加する人は出資額にかかわらず、ひとり一票の権利を持ちます。

ヨーロッパでは社会的な協同組合として認められていますが、日本では事業ごとにNPOや企業組合として、自分たちの理念に近い形で運営しています」

馬場さんの所属したワーカーズコープは、造園業や介護事業、ニートや引きこもりへの支援など、社会的に弱い立場の人たちに雇用を生み出し、その人たちが高齢となったときは生活をサポートしていくことを目指す、社会的な意義のある大きな事業所でした。

高齢者から若者へとサポートの範囲が広がるにつれ、馬場さんには、たとえ時間がかかっても、常に話し合いを大切にして組織のあり方を決めていきたいという思いが芽生えます。

馬場さん 「ワーカーズコープは、働く人の変化や成長を一番大切に考える組織です。『これまで働けなかった人が働くことの必要性に気づき、主体的に働けるようになることを支援する』という団体の性質を考えたとき、運営する側の人間に平等な権利があり、意志をひとつにして組織を動かすことは、ワーカーズコープとして最も大切だと考えるようになりました」

馬場さんはより“ワーカーズコープ的”な組織を目指し、2013年、35歳のときに7人のメンバーで「Hanshin Workers Coop」を設立しました。

よりワーカーズコープ的な働き方へ、子どもたちへの「先回り支援」の重要性

E61f8b67061c00381309138089d7c93b916b3dff
▲“Hanshin Workers Coop”設立当初からのメンバーと

「ひとり一票の原則・ボトムアップ型の事業所であること・働く人が主体的に仕事に取り組む支援をすること」にこだわってスタートしたHanshin Workers Coop。

起業前から経験のあった造園業や介護事業で資金を蓄え、設立から3年目の2016年には、地域の抱える社会的な問題により深く関わっていくことを決めました。

馬場さん 「弱者支援のなかでも、『食べること』は最も重要な課題です。そこでまず、支援の範囲を子どもたちに広げようと、子ども食堂と障害児の放課後児童デイサービスもはじめました。生きづらさを抱える人たちを支援するなかで、より若い年齢からサポートしていれば、避けられる問題もあると気がついたからです。

また同時に、商店街の空き店舗を利用して、地域の人たちが交流できる『地域共創Lab』をオープンし、フリースペースや習いごとにも使用できるレンタルスペースを用意しました。『三和キッズプログラミング』はそのひとつとしてスタートした事業です」

組織や事業の将来的なIT化を見据えた馬場さんは、プログラミングの技術を学ぶための教材を探します。そこで、子ども向けプログラミング教材を開発するTech For Elementary(以下、TFE)と出会います。

TFEを開発するエクシード代表・尾市が話す「みんなで話しながら決めていきましょう」という言葉に、『三和キッズプログラミング』にとって、必要な要素を満たす教材だと感じました。自分の意志を伝えながらも、他の人の意志を大切にする方法を学ぶことは、ワーカーズコープが目指す「主体的に働く」ために不可欠な要素です。

世の中では2020年に小学校でプログラミング教育が必修化されることが決まり、論理的思考や創造力の形成など、プログラミング教育のメリットが注目されるようになっていました。

馬場さん 「これまでHanshin Workers Coopでは、ものづくりではなく、“労働集約型”の仕事に取り組んできました。十分に学ぶことのないまま、働く意欲を見いだせずにいる人たちの支援をするなかで、『幼いころから正解も否定もない教育を受けることができれば、子どもたちにはもっと素晴らしい未来が拓けるのではないか』と考えるようになったんです」

先回り支援とも言える「三和キッズプログラミング」は、そんな思いを乗せてスタートしました。

プログラミングが、“人とのつながり”を育む

40b9c9757bf200106ef4ac9aea16d8320ba1e2d7
▲“三和キッズプログラミング”での子どもたちの学習風景

これまで大人に向けてサービスを提供してきたHanshin Workers Coopは、「三和キッズプログラミング」を通して、はじめて子どもやその保護者と向き合うことになりました。

馬場さん 「小学校でのプログラミング教育の必修化はニュースになっていたとはいえ、まだこの地域ではプログラミング教育は十分に認知されていません。将来何の役に立つのかをはっきりと示すことのできない状況では、プログラミング教育の大切さを保護者に理解してもらうことが大きな課題になります。

大人たちは自身の経験から、大企業の創業者や多くの契約を取ることのできる営業マンの優秀さを理解することができます。でも自分の子どもがAppleやFacebook、Amazonのようなサービスを作り出す人間になるというイメージを持つことは難しいんです。

それに対してサービスを提供する側は、子どもたちの変化や成長をどう示すことができるか。これはスタートから取り組んできた問題であり、今後プログラミング教育全体が向きあう問題でもあります」

2017年5月にスタートしたとき、馬場さんは大々的な集客を行ないませんでした。人数が少ないうちに、子どもたちの実態に合わせて向き合い方を決めていこうとしていたからです。

馬場さん 「子どもたちを見ていて印象的だったのは、正解がないことに慣れていない、ということでした。『子どもは独創的だ』と大人は言うけれど、自分の考えたことや思いをためらいなく表現することは子どもでも難しいし、創造力には個人差もあります」

大人よりずっと柔軟な考えを持つ子どもでさえ、飛び抜けて上手に課題をこなす子がいればそれを正解だと思ってしまうことや、他の子の独自性を簡単には受け入れないことに気がついた馬場さん。

馬場さん 「レッスンでは、どんな発想もまずほめることを心がけています。そして子どもたちには、自分が認めてもらって嬉しかったなら、他人も認めようと教えています。そうすることで子どもたちは少しずつ、自分が何を面白いと感じ、どんなものを作ったのかを伝えられるようになってきました。

自分のアイデアを人に伝え、それに対する意見を取り入れて作品を改善し、問題を解決することはチームで成長する力を養います。大切なのは最初の発想を否定せず、改善や変更を加えることによって、みんなで良いものを作るという意識です」

個別に取り組むイメージのあるプログラミングが、人とのつながりを学ぶきっかけになることは、馬場さんにとって大きな発見となりました。

世代と格差を超える”共通言語”を学ぼう

736cb6d4df69189da796125973a4b1822a3c9431
▲作品を発表し、意見交換する子どもたち

意外なことに、馬場さんがはじめた子ども向けプログラミング教室には、長年関わってきた年配の方からの関心が寄せられるようになりました。

馬場さん 「これまで高齢者の“脳トレ”的な取り組みとしては、手遊びや歌などが一般的でした。けれど年配の方とプログラミングの話をしていて、人生を長く生きてきた人こそ、新しいことに出会いたいと思っているのではないかと感じたんです。

プログラミングなら、作ることの楽しさと作ったものを人に評価してもらうことの喜びを、何歳になっても満たすことができます。プログラミングを学びはじめた子どもたちとの共通言語も、自然に生まれます。どちらかが無理をして話を合わせる必要もないのです」

自由な発想を大切にするプログラミングにおいて、「年だから使えない」と決めつけるのはナンセンスだと馬場さんはいいます。どうしたら高齢者でも楽しめるか、これは子どもたちにとって、取り組む価値のある課題です。

さらにプログラミングは、貧困から子どもを救う可能性があると馬場さんは考えます。

馬場さん 「子どもたちは、プログラミングを学ぶことによって自ら課題を見つけ、解決する方法を探り、試行錯誤しながら目標を達成する力を養います。そうした力こそが、貧困に苦しむ子どもたちが、貧しさから抜け出すきっかけとなるのではないかと考えています。

そのためには、行政や地域の問題に取り組むワーカーズコープのような組織が、より多くの子どもたちがプログラミングに触れる機会を増やすことが大切です。

パソコンの初心者や幼い子どもでも取り組めて、安価に導入できる、それでいて長期的な目線でカリキュラムが用意されているTFEのような教材は、今後もっと社会的に必要になってくると考えています」

パソコンひとつで人生が変わる。

プログラミングは、これからの社会を生きる子どもたちにとって必要なだけではなく、年齢を重ねても精神的な充実を得ること、貧しさに苦しむ子どもたちが新しい未来を手に入れることなど、社会のあちこちにある問題を解決する可能性があるのです。

関連ストーリー

注目ストーリー