“表現”への情熱がすべてを育んだーー先生が教材を自作できるようになったワケ

岡山県岡山市で、個別学習塾とプログラミング教室の「AUアカデミー」を運営する奥原央子(おくはら ようこ)さん。幼いころから表現することが好きで、わき上がる情熱を形にするために、たくさんのスキルを身につけてきました。運営者の誰よりもゲームづくりにのめり込んだ奥原さんの、これまでの軌跡をたどります。
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演劇・ピアノ・絵——学生時代から育んだ表現への愛

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▲AUアカデミーを運営する奥原さん。看板のデザインは奥原さんによるもの

岡山県岡山市で、個別学習塾とプログラミング教室を運営する奥原さん。東京に住んでいた1985年、子育てのかたわらにできる仕事を探して自宅で塾をスタートしました。

その後、1994年に現在の場所で「AUアカデミー」をオープン。仕事と趣味を通して培ったスキルで子どもたちに寄り添い、ともに全力疾走しています。

そんな奥原さんの根底にあるのは、“表現すること”への情熱です。

奥原さん 「中学生から、寮のある学校に入学しました。小学5年生のときにはじめて学芸会の配役に手をあげたようなおとなしい性格だったのが、親元を離れたことでとても明るい性格になったんです。文化祭では自分で脚本を書いて演劇をしたことや、フォークソングの演奏をしたこともあります」

絵・音楽・演劇——。表現することが大好きだった奥原さんは、クラスの時間割表など、目に触れるものを次々とクリエイティブにアレンジしていきました。

高校卒業後の進路は、表現について学びたいと東京の美術大学を志望します。しかし家のことを任せられる、いわゆる良妻賢母を願っていた両親の教育方針で、美大進学はかないませんでした。

それでも夢を諦めなかった奥原さんは、画材店でのアルバイトから、デザイン会社への就職を果たします。

奥原さん 「社長と制作の社員がふたりしかいない、とても小さな会社でした。ただ人数は少ないものの、製薬会社や自動車メーカーなど、大きな会社の企画やポスター、パンフレットなどの制作も請け負っていたんです。企画力があり技術をもった社長のもとで、パンフレットや広告作成のためのさまざまな技術を身につけました」

ポスターの仕上がりイメージを制作するカンプライターのそばで、パステル画を覚えたのもこのころでした。

どれだけ仕事がハードでも、表現への情熱は奥原さんを支え続けたのです。

好きなアーティストのホームページが作りたいーー趣味で磨いたパソコンスキル

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▲東京で英語塾を開いていたころの奥原さん。発表会で英語劇を指導する様子

東京での結婚・出産を経て1989年に岡山へ移住した奥原さんは、デザインの技術を評価され、パンフレットなど、広告媒体のデザインをメインに幼児向け英語教室の運営に携わります。

その後、子どもの成長に合わせ、通学に便利な土地への引っ越しを検討。自宅での塾経営の希望を不動産会社に伝えたところ、集客に適した現在の場所を紹介されました。

人の多い東京ではもちろん、岡山でも懸命に教室を運営してきた奥原さん。子育てや経営が落ち着いてほっとひと息ついたとき、アイドルやアーティスト、プロレスラーへの興味がわいてきたと振り返ります。

奥原さん 「最初はSMAPの中居正広さんにハマってしまって。中居さんが出演していた番組の似顔絵企画に手描きのパステル画で参加して、優勝したこともあります。SMAPのほかには音楽アーティストからプロレスラーまで、ライブをみるために全国を駆け巡っていました」

生の声、生のパフォーマンスを求めて数多くのイベントに参加するうち、奥原さんにはファン仲間が増えていきました。好きなアーティストのホームページがつくりたいーー。そう思いはじめたのも、ファン仲間にホームページを作っている人がいたことがきっかけでした。

奥原さん 「ホームページは今のように気軽に作れなかったので、HTMLを独学で勉強しました。なんとか形になったら、文字や背景の装飾、写真やタイトル画像の加工にも興味が出てきて、Photoshopやイラストレーターも購入しました。

新しい技術を覚えても、もっといいものが作りたいと欲が出て。Javaスクリプトを使って画像を動かすなど、たくさんのスキルを身につけました。

ただプログラミング言語のC言語だけは難しくてどうしても習得できなくて。悔しかったけど、いつか身につけたいとずっとチャンスはうかがっていました」

このC言語への執念こそが、のちにプログラミング教育との出会いを生むことになるのです。

TFEなら、プログラミングの先の未来がつながっていく

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▲生徒の「先生これ見て!」に寄りそう、教室での奥原さん

2017年3月。ようやく高校受験も落ち着く時期となり、たまっていたメールの対応をしていた奥原さんの目に、「子ども向けプログラミング教材『Tech for elementary』(以下、TFE)」の名前が飛びこんできました。

内容は塾経営者に向けた「子ども向けプログラミング教室」の案内。小学校でのスタートを前に、プログラミング教育が注目されているとテレビで観たことを思い出しました。

奥原さん 「4月のスタートに間に合わせるにはギリギリの時期だったんですが、どうしても他の教材と比べたくて。大手やロボットプログラミング教材の資料も片っぱしから取り寄せて、毎晩遅くまで検討しました。

最初は子ども向けプログラミング言語のScratchではなく、本格的な文字のプログラミングの方に興味があって、塾の生徒にも意見を聞いてみました。生徒の関心も、カッコいい雰囲気のある文字のプログラミングの方が高かったんです。自分自身、『いつかはC言語を』と思っていたこともあり、ゲームだけでは将来的に物足りなくなると感じてTFEへの加盟は辞退しました」

ところがエクシード代表の尾市守から、C言語なども見すえたカリキュラムの将来的な展望を聞き、「まずは親しみやすいゲームからはじめられるレッスンもいいかもしれない」と思い直します。すでに契約が決まっていた、文字を使ったプログラミング教材の提供元とは、粘り強い交渉の末、同時開講の許可を勝ち取りました。

ところがスタートしてみると、スムーズに集客が進んだのはTFEのほうだったのです。

奥原さん 「生徒や保護者としては、ゲームを作るというわかりやすさと、レッスン料を抑えられたことが魅力になったと思います。

運営者としては、加盟費が高くなかったことや、既存のカリキュラムを提供して完了ではなく、本部から次々に新しい情報や知識が提供されることで信頼感が高まりました。今やっていることが、確実に将来につながっていくという自信を持って生徒に向き合えるんです」

学習用の教材も自作するまでに。“夢中になること”が成長の鍵

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▲生徒が作ったゲームに、活発な意見が飛び交う

「生徒に教えるなら自分も理解しておきたい」

そう考えた奥原さんは、予習をかねてゲームづくりに取り組み、あっという間にScratchに夢中になりました。このときも、表現することやモノづくりへの情熱が刺激されたといいます。

奥原さん 「塾の夏期講習が終わってから、ひとりで子ども用のテキストを見て課題のゲームを作っているうちに、学習塾で使用する教材も、Scratchで作れるのではないかと思ったんです」

アーティストのホームページを作っていたころから、「こんなものが作りたい」という気持ちは必ず実現してきた奥原さん。計算ゲームや都道府県の県庁所在地をあてるゲームを作成し、学習塾の休憩時間に遊べるようにしました。

勉強で疲れているはずの子どもたちが、最高スコアの更新を目指して夢中になっているのを見ながら、奥原さんは次のゲームの構想を練っています。

一方、2017年4月にスタートしたプログラミング教室の生徒たちは、思い思いのペースでゲーム作りに取り組んでいます。

教室へ入るなり、パソコンめがけて大急ぎで駆けよる子どもたち。家で新しいゲームを作ってきた生徒は、「先生見て!」と目を輝かせます。

友だちが作ったゲームを囲んで、レベルの高さに感心する子、悔しそうに「自分もこんなすごいゲームが作りたい」と訴える子。さらなる意欲をかき立てられた子どもたちは、自分のパソコンに戻って言葉も発せず課題に取り組みます。

「生徒のあふれる思いをしっかり受け止められるのも、映像授業のおかげで余裕が生まれるから」と奥原さんは語ります。「ひとりで作ったの?がんばったねぇ!」の言葉に、子どもはこれ以上ないほど顔を輝かせ、「もっとすごいの作れるよ!」と胸を張ります。

岡山県はパソコン設備などのハード面、そして保護者の意識などのソフト面において、プログラミング教育をスタートするための環境は全国でも最下位レベルと評価されています。続々と教室が増える都市部に対し、「AUアカデミー」での体験学習には、県内外から希望者が訪れます。地方に住む子どもたちが有益な教育から取り残されないためにも、プログラミング教育の普及は官民ともに急務です。

しかしそれでも奥原さんは、TFEを信じ、焦ることなく子どもたちを迎えると決めています。「子どもたちには負けられないんですよ」と語る笑顔には、岡山でやっていくと決めたときから育んだ、強い決意と大きな愛があふれています。

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