生徒が輝くシーンを増やす。フリースクールが挑む、自己肯定感を育むあらたな試み

東京都足立区にある「東京未来大学みらいフリースクール」で教務を務める千田桃世(ちだももよ)さん。2017年10月から生徒と保護者の要望を受け、授業にプログラミングを取り入れました。学校とも習いごととも違う環境のなか、不安を抱えながらはじまったレッスンの可能性を探ります。
  • eight

韓国の道徳教育から学んだ、低年齢から育む自己肯定力

0310cdcaf443a853f9fb1410863bd9f02c8fb94e
▲東京未来大学みらいフリースクールで教務を務める千田さん

学校法人三幸学園東京未来大学みらいフリースクール(以下 みらいフリースクール)」は2015年10月から全日制のフリースクールとしてスタートし、2018年2月現在は40名の生徒が在籍しています。

立ち上げの時期から関わってきた千田さんは、大学時代に小学校でボランティアを経験して以来、子どもとの関わりに興味を持っていました。

千田さん 「大学生になって子どもと関わるようになったころ、ちょうど日本でも道徳的な観点から、子どもの心に注目する動きがありました。それで興味を持って、大学院では韓国と日本の道徳教育の違いを研究していました。韓国では道徳教育をひとつの科目として学んでいて、成績もつくんです。国が子どもの価値観を形成するところは、良し悪しとは別に大きなインパクトがありました」

韓国の道徳の教科書には1ページ目に国旗が掲げられ、低学年から愛国精神を学びます。主観的な視点は国際的に公平さが十分でないと感じたものの、子どもたちが自分の国を誇りに思い、自己を肯定する姿は印象に残りました。

大学院卒業後は2010年に24歳で通信制高校「KTC中央高等学院」に教員として就職。不登校に悩む多くの高校生と関わりました。

千田さん 「学校に通うことが難しくなった高校生を見ていて、もっと早い段階から支援したいと思うようになったんです。そこで 『学校法人三幸学園東京未来大学こどもみらい園』に転職しました。これが、29歳のころです」

当時、放課後のみオープンしていたこどもみらい園は、不登校の子どもたちの経験を増やすことを目的に、2015年10月にみらいフリースクールを立ち上げました。

千田さん「みらいフリースクールでは、子どもたちがたくさんの経験を積むことを大切にしています。学校に行かないと授業を受けないだけでなく、行事など人と関わることや社会と接することが極端に少なくなってしまうんです。スクールでは、子どもたちがやってみたいと言ったことを積極的に取り入れることで、自己肯定力を育んでいます」

そのスクールで、生徒から“やってみたい”と声が上がったのがプログラミングでした。

前例なんてなかった。フリースクールへのプログラミング教育導入の不安

F2e5b35d06428f6ca03c143d2ae0d09573a2498b
▲第1回目のプログラミングの授業は、TFE開発担当の竹下が行なった

子どもたちがプログラミングに興味を持った理由は、みらいフリースクールの校風にありました。

みらいフリースクールには、基本的に生徒の持ち物に制限はありません。休み時間に楽しむためのDSやタブレットも持ち込みが認められているため、生徒のなかには自分のパソコンを持参し、地面や空中にブロックを置いて、自分の好きな建造物を作っていくゲーム「マインクラフト」をプレイしている子もいました。

そんな生徒と保護者から、プログラミングを授業で扱ってほしいとの声があがり、千田さんたちは導入を検討することになります。

千田さん 「ちょうど同じころ、系列のこどもみらい園がITの先生を探していた関係でつながりがあった、子ども向けプログラミング教材のTech for elementary(以下、TFE)を紹介されたんです。スクールにはゲームが好きな子や将来プログラマーになりたいと話している子もいて、興味を持つのではないかと考えました」

TFEはすでに全国に100を超える教室があり、導入に不安はなかったと言います。ただ、担当する自分にはプログラミングどころかパソコンの知識がほとんどないことが不安だったと話す千田さん。プログラミング教室を運営する全国の加盟者は、パソコンに強い人ばかりなのだろうと想像していました。

千田さん 「授業をうまくスタートできるかさえ自信がなく、TFEの運営に相談しました。そしたら開発担当の竹下さんに、1回目の授業をレクチャーしてもらえることになったんです。スクールのパソコンでうまく起動できるのかというところから生徒たちが取り組むところまで、教室でサポートしてもらいました」

前例のないフリースクールへの導入ということもあり、千田さんは運営にさまざまなことを相談してきました。ただ手厚いサポートを受けるほど、うまくスクールに通う生徒たちにフィットさせられるかが不安になったともいいます。

千田さん 「フリースクールは、継続的に学校へ通うことが難しくなった生徒が多く在籍しています。だから一番の心配は、プログラミングの授業がある日にスクールへ来て、ちゃんと勉強するかということでした。あんなに助けてもらったのに、誰も勉強していないなんて言えないと思ったんです」

ところが千田さんは、実際のレッスンで予想もしていなかった光景を目にすることになります。

子どもの“得意を増やす”プログラミング教育

5bc61fe28955d9bf7a72499146b1ded72003e013
▲子どもたちは、休み時間もパソコンを使ってプログラミングやゲームに触れている

みらいスクールには、バドミントン大会やハロウィンのお菓子づくり、クリスマスの小物づくりなど、ジャンルを限定することなくいろいろなことに取り組むことができる「トライアルレッスン」の時間があります。毎週1時間、生徒の希望を取り入れて内容を決められるこの時間に、プログラミングのレッスンを導入することにしました。

プログラミングの授業を前に、ゲームやパソコンの好きな男の子たちはソワソワ、自分が描いた絵を動かすことを楽しみにしていた女の子もウキウキと朝から準備をしていたと千田さんは振り返ります。

千田さん 「生徒のなかには、すでに習いごととしてプログラミングを勉強している子もいました。実際その子たちにとって、初歩的な内容は物足りない部分もあったようです。けれど、すでに知識がある子がはじめてプログラミングにふれるクラスメイトに教えてあげるなど、これまでなかったつながりも生まれたんです。

国語や算数、体育や図工など、子どもたちにはそれぞれ得意なものがあります。プログラミングの授業では、パソコンの苦手な子を助けるなど、これまで表に出すことのできなかった能力を発揮できる子が増えました」

手伝ってもらった子も、はじめて知るクラスメイトの得意ジャンルに驚きを隠せなかったといいます。「すごーい!」の賛辞に輝く子どもの表情を、千田さんは見逃しませんでした。

千田さん 「経験が少なく、得意なことを見つけにくい環境にあるだけでなく、フリースクールの生徒にはコミュニケーションが苦手な生徒も多いんです。けれどプログラミングという新しい取り組みの場では、生徒たちが自然にコミュニケーションを取っている姿を多く目にしました」

「パソコンで描いた絵を先生にほめてもらった」など、家でも学校の話題が広がったという保護者の声もありました。子どもたちが楽しかったと言って学校から帰宅する姿は、保護者にとって大きな喜びでもあります。

経験や得意なことが増えれば、学校は楽しい場所に変わっていく

4090872283fe7ca78f1a34659f690faade0d6cc3
▲経験を未来の力とするために―—プログラミング教育ができること

トライアルの時間に導入したプログラミングの授業は、2018年3月までを予定しています。

千田さん 「プログラミングの授業では毎回新しいことに取り組めるので、子どもたちの体験が増やせている実感があります。作ったゲームやパソコンを使って描いた絵など、“こんなことができた”という成果を、家に持ち帰ってもらいたいんです。

学校での話は保護者の喜びにあるだけでなく、“結果を残せた”という子どもたちの自信にもつながります」

予定しているカリキュラムが終了するころまでには、プログラミングの授業で制作した作品を、誰かに見てもらいたいと思えるようになることを目標にしたいと千田さんは話します。

千田さん 「フリースクールに在籍する子どもたちは学年がバラバラで、多くは集団に合わせることが苦手です。けれど映像授業で学べるTFEなら、たとえ授業を欠席しても自分なりのペースで学習を進められます。みんなと足並みをそろえなくても、それぞれが作品を完成させたという経験ができるんです。そういう面でも、TFEはフリースクールにとても合う教材だと感じています」

プログラミングを取り入れたことで、できることや成功体験が増え、生徒が輝ける場面がぐっと増えたと感じている千田さん。2018年の3月以降も継続して授業に取り入れていくことで、プログラミング教育の大きなメリットとされている“チームで作業する力”も身につけてほしいと願っています。

社会に出るための経験値をあげることを目標とするフリースクールでは、プログラミング教育がもたらす効果に、より大きな期待が寄せられているのです。

関連ストーリー

注目ストーリー