働く環境の総合商社、中小企業成長のために「ワークプレイスデザイン」に挑む

関西に“事務機のウエダ”あり。OA機器に限らず、“働く環境の総合商社”として中小企業の成長に貢献するウエダ本社は、人を中心に据える「ワークプレイスデザイン」を推奨します。デザイン成功の鍵は、働く環境を社員が主体的に変えること。事例として、ウエダ本社をリデザインした1年3ヶ月に及ぶプロジェクトを紹介します。

「なんて息苦しいんだろう」人に着目して働く環境と向き合った15年

▲代表取締役社長・岡村充泰

創業80年のウエダ本社は2000年に転機を迎えました。

古くは文具卸を商い、OA機器の商社として “事務機のウエダ”と謳われるまでに成長しましたが、社会はオフィス通販の時代にシフト。商社不要論がささやかれ、ウエダ本社は苦境に立たされました。

厳しい状況を打開するため、代表取締役社長に岡村充泰が就任します。岡村は異業種出身。自身で貿易事業を起こし、海外と取引する経験を積んでいました。そんな岡村がOA機器業界に入り、日本企業と取引するなかで、ある感情を抱くようになります。

岡村 「なんて息苦しいんだろう。日本企業の働く環境は、人のモチベーション、コミュニケーション、コラボレーションを考えていない」

長年、ウエダ本社は中小企業と取引してきました。OA機器の卸を介して、さまざまな中小企業のオフィス、働き方、働く人をサポートしてきました。決して、ハードを卸すことだけ仕事にしてきた訳ではありません。

だからこそ、中小企業を本当にいきいきとできないか。岡村の社長就任以来、ウエダ本社は、より「人」に着目して企業の課題と向き合ってきました。日本企業のうち、実に99.7%が中小企業です。中小企業がいきいきとすれば、日本は変わるという使命感もあります。

しかし、長年の実績からOA機器商社としてしか見てもらえず、ルート営業してもウエダ本社の考えを聞いてもらうのは簡単ではありませんでした。このままでは、いつまでも物売りを続けることになります。

耳を傾けてもらうため、まずは自社から変わろうとしました。たとえば、2008年にフリーアドレス制を導入しています。来社してもらえば、ウエダ本社の考えを聞いてもらえると思っての取り組みでしたが、期待した成果は得られずにいました。

こうして約5年が過ぎたとき、ウエダ本社はあるコンセプトを掲げます。それが“働く環境の総合商社”です。

2013年より、ウエダ本社は“働く環境の総合商社”として、人が“いきいきと働ける場”をテーマに、企業の働く環境にかかわるスペース、ツール、ワークスタイルを統合的に改善するワークプレイスデザインの研究に乗り出しました。

オフィス分野で日本有数の研究者・仲隆介先生の研究室と共同研究。その一環として、改めて自社の働く環境改善に取り組むことを決めます。2015年のことです。まさか、このプロジェクトが1年3ヶ月に及ぶとは、当時、ウエダ本社の誰ひとりとして想像していませんでした。 

社長は一切干渉しないーー働く環境改善には、全社員が「自分ごと」として取り組む

▲コアメンバーによるワークショップの様子

ウエダ本社のワークプレイスデザインには、理論と実践が凝縮されています。2015年8月にスタートしたプロジェクトは、2016年11月まで続きました。1年3ヶ月間を振り返ると、下記に挙げた5つのプロセスを経たことに気づきます。

・しらべる:岡村の思いを共有し、自社のワークプレイスを調査する。
・かんがえる:自社の現状を知り、将来像を考える。
・えがく:将来像に基づき、コンセプトメイクをする。
・かたちにする:ワークプレイスのプランニングとシミュレーションを行なう。
・たしかめる:今後の働き方を見つけ、完成したワークプレイスを再調査する。

また、ワークショップを実施する際は1ヶ月以上の間隔を空けるように意識しました。出した答えが、本当にいいアイデアか見つめ直す期間です。

プロジェクト実施以前から、ウエダ本社の働く環境が抱える課題に岡村は気づいていました。

たとえば、フリーアドレス席は、いつしか各社員が自分の荷物を置くキャビネットに近い席を使い続けて固定化していました。あるいは、ビルの5階と6階の2フロアを使うウエダ本社は、同じ部署なのに各階に分かれていて、連携が取りづらくなっていました。

しかし、岡村はデザインするワークプレイスの形を一切指示しませんでした。

ワークプレイスデザインでは、自社のワークプレイスを社員が主体的になって考えることが重要だからです。社員が「自分ごと」として働く環境改善に取り組んで、はじめて、人のモチベーション、コミュニケーション、コラボレーションを生むワークプレイスがデザインできます。

プロジェクトは、仲先生に加え、ウエダ本社から、早くから働く環境改善に主体的だった原田大輔と、仲研究室出身の中本はるか、他ウエダ本社の社員8名と仲研究室の学生5名を合わせた16名が牽引しました。プロジェクトが動き出す直前の心境をコアメンバーのひとりはこう振り返ります。

中本 「ウエダ本社の働く環境にまつわるワークショップを実施したのははじめて。どういう反応があるか、すごい気になっていました」

コアメンバーがプロジェクトに向けたこの興味・関心が、のちのち、ウエダ本社のワークプレイスを本質的に変えるポイントを見つけることにつながります。 

ひとり、またひとりと意識変革——そして全社員が主体的になり、ワークプレイス完成

▲全体ワークショップの様子

ワークプレイスデザインを本質的に変えるポイントとは? 最初の「しらべる」プロセスで実施した、アンケート結果に現れていました。「しらべる」では、まずウエダ本社の全社員にオフィスの現状について聞くことからはじめました。集計すると、ある傾向があることにコアメンバーは気づきます。

原田 「みんな社員同士の連携が取れたほうがいいと意識していることがわかりました。一方で、自分の仕事は自分で解決するという意識も強く見られました。これは各自の仕事は個人の責任、社員の連携は誰かの責任と考えている現れです。

ワークプレイスデザインでは、社員一人ひとりが持つ、この意識を変えることが重要でした」

一体、働く環境改善を他人任せにする意識はどう変えたのか? ウエダ本社では、ワークプレイスを施工するまでに「かんがえる」〜「かたちにする」という3つのプロセスを踏みました。このプロセスで実施したワークショップによって社員一人ひとりの意識が変わっていきました。

中本 「ワークショップを通じて、ワークプレイスデザインの苦労だけでなく、楽しさに気づいてくれる社員が増えていきました」

ワークショップでは、社員自らウエダ本社の働く環境が抱えていた課題を挙げていきました。たとえば、「個人で書類をため込み、仕事も個人商店のようになっていて、案件の共有が全くできていなかった」というように、仕事に対する社員の意識を変えることが大事だという着眼点も出てきました。

また、仲研究室の学生から発案があり、ウエダ本社のワークプレイスにあった家具をつくることにもなりました。ベテラン社員が主導して、日頃から付き合いのある家具職人に頼み、製造した案件ボードやカフェスペース用の家具は、このプロジェクトを社員主導で進めなければ得られなかった成果のひとつです。

「かたちにする」プロセスを迎える頃には、全社員が参加するワークショップを実施するまでになりました。

原田 「1年3ヶ月という長いプロジェクトでしたが、各プロセスで取り組んだワークショップをひとつずつ実施するなかで、毎回、ウエダ本社にいい変化が生まれていきました。どれかひとつのワークショップに取り組むだけでも、いいワークプレイスにするための効果があることを実感できました」

こうして全社員が主体的にプロジェクトと向き合った結果、ウエダ本社のワークプレイスは、次のような“いきいきと働ける場”に生まれ変わりました。 

社内外から人が集う空間——中小企業に知識の継承とコラボレーションが生まれる未来へ

▲2017年現在のオフィス
ウエダ本社の新しいオフィスには、ふたつのコンセプトがあります.

▼ワークスタイルコンセプト:
UEDA MISSION「人をいかす。未来をつくる。」

▼メッセージ:
お客様、地域、社会に役立つため、理想的な働き方を研究し、社内外で力を合わせて、より素晴らしい働き方を創造する。

▼ワークプレイスコンセプト:
bazaar/バザール 人がいきいきと行きかう場

▼メッセージ:
活気あるバザール(市場)のように、多様な人、商品、サービスが行きかい、新たなつながりが生まれ、新たな価値が創出される、みんながいきいきと働く空間を目指す。

2フロアに分かれていたワークプレイスは、6階に集約して、全社員が顔を見渡せるようにしました。偶発的なコミュニケーションや新たなアイデアが生まれる仕掛けを施しています。新たにつくった案件ボードも、そのひとつです。

原田 「そばを通るたびにパッと目に入ります。以前はパソコン上で案件管理していましたが、アナログ化することで、自然と各自の仕事が全社員に共有されるようになりました」

5階にはカフェテリア、ボードルーム、ワークルームを集め、お客様との打ち合わせや、社内勉強会の場になりました。

中本 「ワークルームでは、自分の仕事を集中して考えることができます。そこで得られた知識やアイデアは、ボードルームやカフェテリアで別の社員に継承していけるようになりました」
原田 「お客様を招き、オフィスツアーを開催することもできました。来訪していただくことで、ウエダ本社のワークプレイスを見ながら、会社の考えを理解してもらうことにもつながっています」

ワークプレイス完成後、「たしかめる」プロセスで実施したアンケートを見ても、「自分から変わっていきたい」「意識改革したい」という声が集まり、社員の意識にも好影響が残りました。

今回、ウエダ本社の働く環境を変えた結果、プロジェクトで得られた知見は仲研究室と共同でメソッド化しています。これからウエダ本社は、他の中小企業の働く環境をリデザインすることで、より一層お客様の成長に貢献していきます。まずは関西圏を中心に、人に着目したワークプレイスデザインに取り組む企業を支えていくことが目標です。

ウエダ本社は、人のモチベーション、コミュニケーション、コラボレーションを考えることこそ、本当の働き方変革だと信じています。ワークプレイスデザインを通じて、日本の中小企業を支えることに力を入れていきます。

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