「行ってガッカリ」を解消できる。トイレ、飲食店の空席情報の発信が変えるミライ

人は多いけれど、混雑や行列がない。そんな世界が実現するかもしれません。そのキーとなるのは、「空席情報の発信」。2016年6月、株式会社バカンは、行列や混雑の悩みをIoTと人工知能で解決しようと立ち上がりました。「空席の有無」を起点に行動を起こす世界を作りたいーー。その思いを支える技術と原点に迫ります。
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長い行列からの解放——。トイレの空き情報がわかる夢のサービス

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▲株式会社バカン 代表取締役の河野

仕事の合間にトイレに向かったのに、空いていなかったという経験、ありませんか?

「トイレが混んでいることがわかれば、もう少しデスクで作業を続けたのに」
「空いていると思って行ったから、体がそのモードで辛い」
IoTと人工知能の力を借りれば、もう二度とそんな辛く苦しい思いをしなくて済むかもしれません。

2016年6月、株式会社バカンは、トイレの空き情報をリアルタイムで発信するサービス「Throne(スローン)」の提供をはじめました。
トイレに立たなくとも、空き情報がたった1秒でわかるこのサービス。

その仕組みは、トイレの個室の壁に取り付けられたセンサーで人の有無を判別し、その情報がパソコンやスマートフォンに反映されるというもの。わざわざトイレに行かなくても一目で空き情報がわかるとあって、そのユニークさが話題を呼び、2017年6月現在、導入する企業が増えています。

そんな開発元のバカンですが、トイレだけでなく、飲食店や商業施設、旅館・ホテル、さらには医療現場など「あらゆる空席情報」を発信していこうと、新たなサービスの開発を進めています。

その一歩として「トイレ」に着目した理由。それは、代表取締役の河野剛進が仕事中に感じた、トイレの待ち時間に対する疑問でした。

河野 「トイレを待っている時間って、すごく不毛だなと思ったんです。仕事中にトイレに行ってみたら、5分以上待たなければいけなかったり、仕方なく他のフロアに行ってみても、さらに混んでいたり……。そういう作業を繰り返すことで、思考が途切れて仕事が終わらず、残業が増えてしまうという非効率があると思うんです」

「待ち時間」を減らすことで、本当に大切なことに時間を使ってほしいーー。

その思いの原点は、河野に訪れた、“ある転機”にありました。

愛する家族が気づかせてくれた、満足度を上げるキー

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▲2011年当時の河野

河野が「あらゆる空席情報」に着目したのは、2014年に生まれた“子ども”の存在がきっかけでした。

河野 「たとえば、家族で商業施設に行ったとき、飲食店が混んでいてなかなか入れずに子どもが泣いちゃったこととか、トイレに行ったものの空いていなかったということがあって……。

そこで空席情報がすぐにわかれば、混んでいるお店に行って、子どもを待たせて泣かせてしまうということが減りますよね。それができると自分たちのやりたいことに集中できたり、家族との時間をもっと大切にできたりするんじゃないかなと」

もともと、起業家として「普遍的なものに迫るサービスを提供したい」と考えていた河野。起業を志したのは、大学生のころでした。都市部に住んでみてはじめて、地元・宮崎との経済発展の差を感じたのです。

河野 「地元がいわゆる『シャッター街』だったんです。地元にいたときは意識しなかったんですけど、都会に出てきて自分の地元が経済的に衰退し、何も手をうたなければ今後ますますその流れが加速すると考えました。それから、地域の経済——ひいては日本の経済を盛り上げることに興味がわいたんです」

そんなとき、河野は「世の中を変えていきたい」という熱意にあふれた起業家たちに出会います。情熱を胸に、生き生きと働く姿に惹かれ、起業を本気で目指すようになったのです。

さらに河野は、起業家になりたい一心で就職先を選んでいきます。

はじめに日本の経済を俯瞰したいという思いから、シンクタンクに入社。研究員として金融とITに関わる領域の調査や分析に携わります。その後、ゲームやインターネット広告を展開する事業会社で、新規事業の立ち上げや事業戦略などに携わってきました。

そんななか、子どもの誕生を機に、「普遍的なもの」の答えが、“時間”であることに気づいた河野。

「待ち時間」をなくして、時間をいかに効率化して使うかが、満足度を上げていくためのキーとなるーー。そう確信した河野は、「空席情報の提供」を軸に起業することを決意します。

その矢先、事業会社時代の後輩が立ち上げた、ベンチャー企業の入社の話が舞い込んできたのです。

起業初期を支えたASACとの出会い

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▲今でも続くASAC受講生の同期ネットワーク

2016年3月、河野は、医療や製薬・農業など、ライフサイエンス領域の画像解析技術をリードするベンチャー企業に入社。経営企画室長として、会社の管理体制の整備や海外の企業とのジョイント・ベンチャー(合弁企業)の立ち上げなどを推進します。

バカン設立に向けた準備と並行しながら、ベンチャー企業で働く日々。その業務のなかで、河野は、運命的な出会いを果たすのです。

それが、東京都が2015年に設立した「青山スタートアップアクセラレーションセンター(以下、ASAC)」との出会い。

ASACは、行政だけでは解決の難しい社会的な課題の解決を目的としたスタートアップ企業を、独自のアクセラレータープログラムで育成するもの。実は、当時在籍していたベンチャー企業は、その1期生としてプログラムを受けていたのです。

広報活動の一貫として、プログラムの取材や写真撮影をするために同行した河野は、ASACのプログラムを受ける起業家たちのパワフルさに圧倒されました。

河野 「その日は、大企業やメディア向けに自分たちのサービスや成長度合いをプレゼンテーションしていたんですけど、みんなとても楽しそうだったんです。実はもっと硬いイメージがあったので、それが本当に意外で。

さらに運営側からも、スタートアップが好きで、応援していきたいという気持ちが伝わってきました。ここだったら安心して自分たちの事業に集中できる場を一緒になって創っていけるんじゃないかなと。そう感じて、自分もプログラムへの参加を決意しました」

こうしてバカンは、2期生としてASACのプログラムに参加。2016年6月から10月までの5ヶ月間、10人の同期とともに切磋琢磨をしました。

ASACで知り合った同期たちとは、それぞれの得意分野を生かしてビジネスにも反映させる、高め合う関係性が生まれているといいます。

河野 「やはり誰かが何かのプロフェッショナルなんですよね。たとえば、マーケティングのプロとか、メディアで働いていたとか、SEOのかけ方に精通しているとか。実はキャッチコピーも、お互いに直しあったんですよ」

幾度となく訪れたピンチも、同期に相談すると、いろいろなアイデアが出たり、逆にチャンスだと励まされたりーー。同期がいたからこそ、スタートアップの起業家が直面する苦悩を乗り越えることができています。

さらに、河野に大きな影響を与えたのが、プログラムを通じて築くことができた、大企業とのネットワーク。サービスの開発を進めるなかで、大企業の立場からアドバイスをもらえたことは、本当に貴重な経験だったと河野は振り返ります。

しかし、それ以上に心に残ったのは、起業家としての“あり方”でした。

河野 「特に印象に残っているのは、何をするにも目線を上げていくことが大切だと。サービスはもちろんですが、自分たちが作りたい世界観を常に発信していける起業家と大企業は付き合っていきたいということを話してくれました。

こちらからノックしても、なかなか聞けない、そういう“思い”の部分をフラットに聞けたのは、ASACとの出会いがあったからこそだと思います」

空席情報をあらゆる人へ——その思いを支える独自技術

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▲横浜での実証実験ーレストランやカフェの空き状況が一目でわかるデジタルサイネージを設置

2017年6月現在、河野が次に提供を目指すのは、飲食店の空席情報を発信するシステム。それは、自身が「空席情報」をビジネスにしていきたいと感じた原点でもあります。

その技術は、トイレの空き情報を発信するThroneをさらに進化させました。

河野 「飲食店の場合は、センサーとカメラを使っていきます。その情報をデジタルサイネージ(電子看板)に反映させていく。駐車場の満空情報の飲食店版ですね」

このデジタルサイネージへの反映は、ASACで開催されたランチ会で、講師として来ていたベンチャーキャピタリストからのアドバイスを参考にしたもの。このランチ会は、ベンチャーキャピタリストの目線から、プレゼンの仕方やビジネスモデルをブラッシュアップすることを目的に開催されたものです。デジタルサイネージを使うことで、スマートフォンを持たない子どもやお年寄りにも、情報を届けることができます。

しかも、このデジタルサイネージに表示されるのは、空席情報だけではありません。満席の場合は、持ち帰りメニューの宣伝やクーポンが表示されるなど、状況に応じて表示が切り替わっていきます。

この技術は、VDO(Vacant-driven Display Optimization)というバカン独自のもので、関連する技術を含めて5本特許を取得しています。リアルタイムで空席情報がわかることで、商業施設や飲食店に訪れる人が増えたり、顧客満足度が高まったりと、顧客が企業にもたらす「顧客生涯価値」が上がることが期待できます。

さらに、こんなメリットも。

河野 「やはり、集客にかける手間が減るのと、オペレーションの改善につながるんです。空席があるかどうかが一目でわかるので、いわゆる”客引き“に頼らなくても、集客がしやすくなります。そうすると、人件費の削減につながりますよね。さらには、混雑状況が可視化できることで、効率的な作業の進め方を考えるきかっけにもなるんです」

今後は、花火大会のようなイベント会場など、センサーやカメラの設置が難しい場所の空席情報も発信していきたいと話す河野。お互いが目で見て空席情報を教えあう、そのようなアプリの開発も視野に入れているといいます。

バカンの社名の由来は、英語で「空席の〜」を意味する「Vacant」。バカンが目指すのは、空席の有無を起点に行動を起こすことが当たり前となる「Vacant First」な世界です。

そのためにも、ありとあらゆる空席情報を集め、現実世界のユーザー体験をよりよくしていくことを目指し、これからも歩んでいきます。

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