農家と消費者、互いの顔が見えるプラットフォームが創り出す“喜び”の好循環

毎日のように食べている野菜や果物。誰がつくったものか分かる人は、決して多くはないでしょう。しかし、農家と消費者がお互いの顔を知ることで、より豊かな“食体験”が生まれるのではないかーー。ひとりの女性のそうした思いから、農家と消費者が直接つながるプラットフォーム「食べチョク」がはじまりました。
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市場には出ないユニークな野菜が、消費者を惹きつける

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▲秋元が運営する「食べチョク」のHP。消費者と生産者が直接つながることを大切にしている

農家が隅々までこだわった、朝どりの無農薬野菜やフルーツを口にするーー。ビビッドガーデンが手がける「食べチョク」を使えば、こんな特別な食体験を叶えることができます。

食べチョクは、Webサイト上で農家が無農薬の農作物を直接出品し、消費者に販売することのできるプラットフォーム。スーパーなどでは規格外となる農作物や、特定の地方で古くからつくられてきた伝統野菜なども出品されているため、ふだん目にすることのない農作物を楽しむことができるのも特徴です。

こうしたユニークな農作物は、「規格外」として市場では流通していませんでした。ところが、ビビッドガーデン代表取締役の秋元里奈は、全国各地の農家を訪ね歩くなか、こうした農作物の“見過ごされていた価値”に気がつきます。

秋元 「見たこともない野菜が『規格に合わない』という理由で、スーパーで売られずにいました。そういった野菜は付加価値もつかずに地元だけで消費されることも多いんですが、都市部で生活する消費者から見ると面白いんじゃないかな、と思ったんです」

秋元の感じたとおり、食べチョクに出品される野菜には、ユーザーから「知らない野菜が入っていて驚いた」「変わった形だけど味が濃厚でおいしい」といった好意的な声が寄せられています。

こうした農作物の価値にこれまで目が向けられていなかったのは、農家と消費者のあいだに“距離”があったからだと秋元は考えています。食べチョクが生まれる前にも、すでに農作物を扱うECサイトはあったものの、農家が消費者のニーズを肌で感じられるような環境ではありませんでした。

秋元 「農家さんは、自分がつくったものを誰が食べているのかを知りませんし、消費者も食べている野菜をどんな人がつくっているのか知ることができません。そういう状況を、私は食べチョクで変えたいと思っています」

秋元のこうした想いから生まれた食べチョクが掲げるコンセプトは、「農家と消費者の縁結び」。直接つながることで消費者は生産者の顔を見ることができ、農家は消費者の喜びを感じることができるーーそのようなサービスを秋元が目指したルーツには、農業を営んでいた祖父母の存在がありました。

農業の課題をビジネスに変えるヒントは、祖父のメモにあった

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▲秋元の母と祖母との写真。代々農業を営んでいた秋元一家

かつて、秋元の実家の食卓や近所のスーパーには、秋元家の畑で育った野菜が並んでいました。ところが、代々営んできた農業は、やがて廃業の日を迎えることになります。

秋元 「私が中学生のころ、祖父母が高齢となり、農作業を引き継げる人もいなくなってしまったので、自然と廃業することになったんです。当時は、自分が将来農業に関わるとは、まったく想像していませんでした」

その後、大学を卒業した秋元が就職したのは、ゲームやエンターテイメントなどを事業とする株式会社DeNAでした。彼女は、不動産や小売などレガシーな業界の課題を、IT技術により解決するという仕事に携わります。そうしたなか、ふと彼女の頭によぎったのが、実家の農地のことでした。

秋元 「実家の農地は、農業をやめてからも残っていたので、何かに使えないかな、と思ったんです。当初は、週末菜園や農地のシェアリングサービスなどを考えていたんですが、法律的に制限が厳しいということを知り、ほかのサービスを考えることにしました」

農地を使うビジネスのヒントを探すため、秋元があたったのが、祖父が農業をしていたころに書いていたメモでした。各野菜の育て方についての知識が紙いっぱいに書かれたメモを丹念に読み込んだ彼女は、ある想いを抱くことになります。

秋元 「野菜を育てるための様々な試行錯誤がびっちり書いてあり、こんなにこだわってつくっていたんだ……と、とても感動しました。しかしそのこだわった野菜も、スーパーではほかの野菜と混ぜられて売られます。その事実を知り、残念な気持ちになりました」

さらに、ビビッドガーデンの起業にともない各地の農家で農作業の手伝いをしていた秋元は、ほかにも農作物に込められた様々な工夫を知ります。安全のために特別な肥料を使っていたり、タネにまでこだわり抜いていたりーー。ところが、祖父同様にそうした努力が必ずしも市場価値として報われていないことを知り、流通構造に矛盾を感じることに。

「農家のこだわりが、正当に評価をされる仕組みをつくりたい」

秋元の問題意識は、やがて食べチョクを世の中に広げていこうとする決意となります。

予算不足のベンチャーマーケティングに必要な、“絞り込む勇気”

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▲ASAC4期生の集合写真

2017年5月、ビビッドガーデンは、後の食べチョクにつながるβ版のサービスをリリースしました。そこで、ある課題に直面します。

秋元 「大企業とベンチャーのマーケティングの違いに驚きました。サービスやプロダクトをつくるうえでは前職の経験を活かせたんですが、マーケティングは、そもそも予算の規模が違いますからね。限られた予算でどんな施策を打つべきか悩みました」

ベンチャーのビジネスを育てるマーケティング戦略とはどんなものなのかーー。こうした課題を抱えていたタイミングで、秋元は東京都が手がけるアクセラレーション施設「ASAC」の存在を知ることになります。

秋元 「ASACが提供するアクセラレータープログラムについて調べてみると、メンタリングなどのサポートの手厚さや、食の分野など私が知っている起業家の方がメンターに挙げられていることを知り、受講を決めました」

2017年6月から10月までASACのプログラムを受講することになった秋元は、プログラム開始後の8月に食べチョクを正式にリリースします。さらに、秋元はメンターや同期生とディスカッションをしながら、サービスをブラッシュアップしていきました。

そうしたなか、秋元はマーケティングに関して抱いていた課題への“解”を見つけます。

秋元 「メンターの方から、『もっと密度の濃いマーケティングをすべき』とアドバイスをいただいたんです。たとえば、ターゲットとする層や地域を思い切って絞り込む。私のプランは、できるだけ多くの人に食べチョクを知ってもらうために、料理教室などのイベントを広範囲で行なうというものだったんですが、180度方針を変えることになりました」

アドバイスを受けた秋元は、狭く深いマーケティングをするため、特定の地域に絞ったイベントを積み重ねます。このような地に足のついた取り組みの結果、食べチョクを利用するリピーターは増えていきました。

生産者と消費者のあいだに立ち、両者のニーズを引き寄せる

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▲2018年現在の秋元。農家のこだわりを消費者に発信し続けている

2017年10月、ASACの卒業を迎えたビビッドガーデンは、ビジネスプランのピッチをするイベント「デモデイ」に登壇します。

「農家のこだわりと消費者の喜びをつなぎたい」

秋元のビジネスプランや想いは会場の共感を呼び、会場の投票で選ばれるオーディエンス賞を受賞しました。

ASACの卒業後、引き続き食べチョクのマーケティングに取り組む秋元は、ユーザーの反応を介し、手応えを感じています。食べチョクには生産者側と消費者側のユーザーがいますが、最初に強く反響があったのは、生産者側となる農家でした。

秋元 「食べチョクがスタートするまで、農家さんのこだわりを見せてブランディングするような直販サービスは例がなかったんです。ここを気に入っていただけたようで、徐々に農家さんの登録が集まるようになってきました。初めは、私から農家を訪ねて農業のお手伝いをしながら登録していただいていたんですけどね(笑)」

秋元が次に見据えているのが、消費者側のユーザーへのアプローチ。サービス開始以来、30代の子育て世代を中心にリピーターを増やす食べチョクは、サイトのデザインにもこだわり、購買体験の価値を向上させる工夫を重ねています。

彼女が次に目指すのは、“リアルな場”でのマーケティングです。

秋元 「わたしたちはWEBのサービスではありますが、食べてみて初めて伝わる魅力もありますよね。今後は、リアルの場を積極的に活用し、食べチョクで扱う無農薬野菜やフルーツを味わってもらう場をどんどんつくっていきたいです」

ビビッドガーデンのミッションは、「生産と消費の距離を縮め、人々の生活を豊かにする」こと。農家のこだわりが消費者の喜びにつながり、その喜びが農業のやりがいとなるーーそんな好循環を、生み出していきます。

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