介護という必要不可欠で“贅沢”な仕事。そのイメージを変えていく、ある起業家の挑戦

一見、介護の会社と思えない社名の若武者ケア。「若者とお年寄りの交流を取り戻していきたい」という思いと共に、横浜で訪問介護サービスを展開しています。介護の仕事とは、「お世話する」のではなく「人の生活を支える」こと。お年寄りがずっと自宅で暮らすための接客サービスこそが訪問介護なのです。
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超のつく安定企業を飛び出し、介護で起業

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横浜市で訪問介護サービスをメインに介護事業を展開する株式会社若武者ケア。介護業界の会社名は、「ひまわり」「さくら」など優しい雰囲気のものが多く見受けられますが、若者がしっかり頑張っている雰囲気を出したくて、「若武者」という言葉をつけました。

そんな若武者ケアの創業者である佐藤雅樹の経歴は、ちょっと特殊です。大学院(経済学)では経営学修士(MBA)を取得し、修了後は石油会社に勤め、経営企画室や財務セクションを担当。ここで経営に携わったことから、会社経営そのものに興味を持ち、起業に至りました。

起業するにあたり、佐藤が考えていた条件は3つ。1つ目は「社会の役に立つこと」、2つ目は「仕事を通じて人間的に成長できる仕事」、3つ目は「これから伸びる業界」です。これらの条件が当てはまる業界を考えていたときに佐藤が思い出したのは、祖父母のこと。佐藤は、両家にとって初孫だったこともあり、生まれたときからとても可愛がられていました。

佐藤「幼少期は喘息持ちで体が弱かったため、よく田舎の開業医だった父方の祖父に預けられていました。そのせいか、昔からなんとなく医療を身近な存在に感じています。それも介護で起業しようと思った一因かもしれません」

2017年現在、日本は、総人口に占める65歳以上人口の割合が21%を超えた、超高齢化社会になっています。このまま増えていくと、2060年には日本人口の2.5人に1人が65歳以上に。実際、テレビでも、ひと昔前より介護サービスや葬儀関係、オムツなどの介護用品といった、高齢者向けのCMが増えました。 

高齢者にとっての医療ともいえる介護が、今後重要な役割を担っていくことは間違いありません。佐藤は様々な視点でリサーチしてよく考えた結果、祖父母の世代に恩返しがしたいという意味でも、介護業界で起業することに決めました。

そこから佐藤は、石油会社を退職した次の日から職業訓練学校に通いはじめ、3ヶ月後にはヘルパー2級の資格を取得。若武者ケアを立ち上げる準備をスタートさせたのです。

引き受け手のない仕事も受け入れ、黙々と業務をこなし、信頼を獲得

介護事業とひと言でいっても、その種類は様々。大きく分けると居宅サービスと施設サービスがあり、そのなかでもよく知られているのは、施設サービスの老人ホームと居宅サービスのデイサービス、訪問介護でしょう。 

若武者ケアがメイン事業にしている訪問介護を利用しているのは、基本的に普通の高齢者。なかには寝たきりの方もいますが、施設へ行く人に比べると比較的症状が軽いのが特徴です。

あらためて佐藤の話に戻りますが、ヘルパー2級の資格を取得したあと、若武者ケアを立ち上げるためには経験が必要だったため、まずは、介護老人保健施設で派遣社員として働きはじめました。

佐藤「派遣社員として働きながら会社立ち上げの準備をして半年後に開業したんですけど、最初すっごく暇だったんですよ。冷静に考えれば営業してないんだから当たり前なんですけど(笑)。会社つくったら忙しいっていうイメージだったんで、びっくりしました」

開業してからは、平日に若武者ケアの仕事をし、土日は派遣社員として特別養護老人ホームで夜勤という日々がはじまりました。

平日は、ケアマネージャーの事務所や役所へ営業に。なかなか仕事を回してもらえず、「今からでも行きます!」という姿勢で根気よく営業を続けた結果、ようやく回してもらえたのは、どこの介護事業所も手を引いたトラブルの多いタイプ。

佐藤「世の中の常ですよね。どんな事業でも最初は他に引き受け手のなかった仕事ばかりくるんですよ。最初に受けた仕事は、すでに10事業所くらいに断られて、どこも受けてくれないっていう方で。介護を利用される方は『お互い様』や『感謝』という気持ちをもたれている方が多いのに対して、ご自分のご都合ばかりを押し付けてこられる方や、とにかく批判ばかりされる方へのサービスが多く、学びながら向上していく事を目指す日々でした」

そのうち、「若武者さん頑張ってるから」と認めてくださるケアマネージャーさんから少しずつ仕事を回してもらえるようになり、開業してから10ヶ月後、若武者ケアはようやく単月黒字化を達成するのです。

介護は人生の先輩から生き様を学べる、贅沢な仕事

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介護にはふたつのスキルが必要です。ひとつはもちろん介護技術。オムツ交換をしたり、利用者をベッドから車いすに移動させたりと、プロの介護士として必要な技術です。そしてもうひとつがコミュニケーション力。実は本当に大切なのは、このスキルなのです。

 

介護は、一般的に「お年寄りを世話してあげる」だけの仕事だと思われている傾向がありますが、違います。お年寄りが相手の接客サービスであり、お年寄りの知見を学べる仕事なのです。

 
佐藤「接客サービスであるからには、利用者とお互いに気持ちよく過ごすためにコミュニケーション力が欠かせません。実際、介護技術は高いけど無愛想なスタッフと、介護技術は未熟だけど常に笑顔なスタッフでは、お年寄りはだいたい後者を選ぶんですよ」

また、訪問介護は、他人の家に頻繁に行ける数少ない仕事のひとつです。家には、その人の生き様があらわれます。歳の数だけ経験を得ているお年寄りの生き様や知恵から学ぶことは非常に多く、私たちは利用者の皆様から日々多くのことを学んでいるのです。

佐藤「介護ほど、仕事をしながら人間性を高められる仕事はないですよ。しかも色々な人に感謝されるっていう。僕自身、ある無愛想なおじいちゃんの入浴介助を毎日行なっていたことがあったのですが、仕事の話をするようになり少しずつ仲良くなった結果、とても感謝されるようになりました」 

ただ、利用者と話をするために大切なことがひとつあります。それは、彼らの時代背景を理解すること。たとえば、戦前生まれの80代以上の方は、物がない時代を生きてきたので、賞味期限切れでもなかなか捨てられません。親切心で捨てた結果、クレームに繋がることがあります。

反対に、2025年ごろに高齢者になる団塊世代は、物が溢れている時代を生きてきているので、比較的私たちと感覚が近いのが特徴です。介護サービスに求めることも、いまの80代とは異なってくることでしょう。

当社で行なっている研修では、会社の理念のほかに、こうした世代別の歴史観や価値観も指導しています。どの世代がどういう経験を積んできたかを知りながら介護することが、当社の目的「若者とお年寄りの交流を取り戻す」ことにつながっているのです。

お客様と向き合うスタッフも大事なお客様。まず、彼らの幸せを

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正直、介護業界の世間的なイメージはあまりポジティブではありません。給与が低いといわれており、資格を取得したところでどれだけ昇給するのか不明瞭な事業所も多くあります。休めないともいわれています。こういったブラックボックスになっている部分が、離職率の高さにつながっていることでしょう。

だからこそ当社は、待遇面を明確にしています。新卒(大卒)なら基本給20万円からスタートで、この資格を取得するとプラス○円、この役職につくとプラス○円というのを募集要項で提示しています。さらに社宅制度を用意し、実質2~3万円の家賃で暮らせるようにしています。

佐藤「特に訪問介護は休みづらいというイメージがありますが、当社では週休2日制を採用しています。加えて、年に一度5連休を取る制度を始めました。この制度導入後、社員のモチベーションも上がり、今年全員が取得できたら来年は7連休をとらせる予定です。やっぱりきちんと休めた方が仕事にもやる気が出ますからね(笑)」

この「休める」を実現している秘訣は、事業所にあらかじめ多めに人を配置していることです。本来、ひとつの事業所には3名配置していればいいのですが、当社では最低でも正社員を5名配置しています。こうすることで、誰かが体調不良で休んでも業務を回せますし、スタッフが心に余裕を持ちながら働くことができます。

会社にとって、利用者はもちろん大切ですが、それ以上に大切なのは働くスタッフです。スタッフが心身ともに健康で元気に働けないと、サービスは向上しません。サービスが向上しなければ利用者の満足度が落ち、利用者はどんどん減っていくことでしょう。 

佐藤「以前は毎日のように現場に出ていたので、お客様である利用者と向き合っていました。けれど、ほぼ経営に専念しているいま、スタッフこそが僕のお客様なんですよね。彼らが満足しながら楽しく働けるように環境を整えることが、彼らにとってのお客様である利用者の満足度につながると思っています」

約10年前、介護事業所は全国に1万ヶ所程度しかありませんでした。それがいまや、5~6万ヶ所あると言われています。それだけ需要がある介護事業において大切なのは、一人ひとりのスタッフがイキイキと働くことではないでしょうか。スタッフと利用者の双方が笑顔で過ごせるようにするのが、私たち経営者の務めだと思っています。

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