技術じゃない、介護に必要なのは人間力。それを教えるため、私たちは学校を作った

おそらく多くの企業が頭を悩ませているスタッフの教育問題。外部のセミナーを活用する方法もありますが、私たちは「自社でやりたい」という強い思いから、横浜福祉カレッジを開校しました。きっかけは、創業者の佐藤雅樹自身が未経験者を教育したこと。本当に大切なのは、技術ではなく人間力だと気付いたからでした。
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ようやく軌道に乗ったと思ったら、人員不足でまさかの営業停止の危機

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訪問介護事業所には人員基準があり、最低3人が在籍していないと稼動できないという決まりがあります。開業当初の若武者ケアは、まだあまり人を雇う余裕がなかったため、最低人数の3人でスタートしました。

最初は仕事が少なく、事業所にかかってくる電話といえば「電話を設置しませんか?」などの営業電話ばかり。そこで、代表の佐藤は、時間さえあればケアマネージャーの事務所や役所へ営業に出かけることにしました。

佐藤「最初はスーツで行っていたんですけど、いまいち反応が悪くて。なんでだろうと思って周りの人に意見を聞いてみたら、『あなたが介護するわけじゃないでしょ』ってあしらわれていたことがわかりました。営業くさすぎたのでしょうね(笑)。で、ラフな格好で『今からでも現場に行きます!』という姿勢で営業することになったのです」

そんな営業スタイル変更の甲斐あって、仕事は徐々に増えてきたものの、しばらくは赤字で苦しい日々が続きました。当時、経理上は佐藤も給料をもらっていることになっていますが、実質ゼロ円状態。週末に特別養護老人ホームで派遣勤務することで得る収入を手に、どうにか生活していました。

苦しい日々を乗り越え、ようやく単月黒字化に。「これでひと安心だ」と思った矢先、ピンチが訪れます。1人のスタッフが辞めることになったのです。普通の会社なら、1名の退職でも大きな支障はないと思いますが、私たちの場合は違います。スタッフが3人から2人となり、人員基準をクリアできなくなるのです。結果、私たちの事業所は、まさかの営業停止状態。佐藤は急いでスタッフ探しをはじめました。

佐藤「もう正直、誰でもいい!っていう気持ちでした(笑)。とりあえず急いでハローワークに募集をお願いしたのですが採用できなくて。人材紹介会社に勤める知り合いに声をかけたら、介護未経験のフリーターを紹介してもらえることになりました」

まさに渡りに船。どうにか、事業所を営業再開できるようになりましたが、また試練が訪れるのです。

知らなかったなら覚えればいい——。介護未経験だった男の子が教えてくれた

新しく若武者ケアの仲間になったメンバーは、介護未経験。もともと神奈川県外に住んでいたのですが、佐藤自ら住居を探し、資格取得にかかる費用を払うという条件で、若武者ケアがある横浜市に移住してもらいました。

佐藤「来てもらったはいいものの、彼はまったく社会常識がなかったんです。根は優しいのだけど、挨拶ができない、返事ができない、お礼が言えない、謝らないっていうね。話せばいい子なのはわかるんだけど、それでは社会で通用しないじゃないですか」

特に訪問介護は、個人宅に伺い、利用者と1対1で向き合ってサービスする仕事です。老人ホームなら苦手な部分は先輩がかんたんにフォローできますが、そうはいきません。ごまかしがきかないため、社会常識がないことがクレームに発展するという未来が容易に想像できました。

それでも彼に頑張ってもらわないと営業できません。そこで佐藤は、毎日のように彼とサービスや営業に出かけ、「玄関で脱いだ靴はそろえるんだよ」など基本的なマナーを一つひとつ教えていきました。幸い、当時は仕事がそこまで多くなかったので、つきっきりで指導することができたのです。

もちろん、資格取得についても、つきっきりで指導しました。ところが、合格するために宿題を与えても、やってこない彼。話を聞いてみると、勉強の進め方からわかっていない模様。佐藤は、1日の仕事が終わったあと、事業所でそのまま勉強させることにしました。

佐藤「彼は難しい仕事でも平気な顔でこなすし、営業も素直に行ってくれました。素人だからこそ、なんでも真っさらな心で受け止めるんですね。社会常識だって、ただ知らなかっただけ。介護技術もそうですが、教えていけばどんどん吸収していきました」

最初は介護未経験で、挨拶もせずに黙って他人の家にあがってしまうなど、社会常識を持ち合わせていなかった彼。1年後には立派な介護士になり、会社にきちんと利益をもたらす存在になっていました。

佐藤「彼を育てたことでわかったんです。最初は介護経験者ばかり採用しようとしていたけれど、未経験者をゼロから教育した方が早いときもあるし、何より面白いって。あと、介護で大事なのは技術だけじゃなく、社会常識やコミュニケーション力っていう人間力なんだなというのも身にしみてわかりました(笑)」

未経験から入社した彼は、介護未経験者がもつ大きな可能性と、介護士にとって技術以上に大切なものが何かを佐藤に教えてくれたのです。

介護士にとって最も大切な“人間力”を教える学校が必要だ

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経営が安定していくにつれ、新卒採用を筆頭に若手スタッフをどんどん雇うようになった若武者ケア。しかし、コミュニケーション力に長けているといえる人間は少なく、なかには他人と目を合わせられないスタッフもいました。

佐藤「彼らは知らないだけ。挨拶や返事の重要性を理解しておらず、これらをしないと相手を不快にさせるということがピンときていないだけなんですよね。『こういうことをやられたら嫌だろ?』ってひとつずつ教えていくと、あーそうかーって変わっていくんです」

佐藤は、接客のプロが開催しているマナー研修に若手スタッフを参加させ、自身でも徹底的に教え込みました。しかし、本来こういった社会常識は、就職前に身につけてもらいたいもの。

そこで佐藤が開校したのが、介護士養成スクール「横浜福祉カレッジ」。介護事業所が運営する資格学校という意味では、全国的にみても非常に稀なケースです。当校は、介護未経験者やスキルアップを目指す経験者向けの資格学校で、現場をよく知るフリーランスの介護士が講師を務めています。

スタッフは、講師だけでなく事務スタッフも介護士。座学で資格取得に必要な知識を教えるだけでなく、日々のやり取りのなかで介護のリアルな現場について伝えています。そのなかで、それぞれ適性を見極め、向いている職場を紹介することも。

佐藤「自分たちでゼロから教育して育てたいという思いで開校しました。で、卒業生がうちで働いてくれればいいなって思ったんだけど、そこはあまりうまくいってない(笑)。みんな最初は老人ホームとかに行っちゃうんですよね。1人で全部やる訪問介護からスタートするっていうのはハードルが高いみたい(笑)」

当校は、訪問介護にも対応できる介護士を育てる資格学校。本当は少しでも多くの卒業生に訪問介護の現場に就職してもらいたいのですが、そこに至るには、まだ時間がかかりそうです。

「お宅の卒業生が欲しい!」と言われ続ける学校でありたい

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訪問介護は、利用者ができるだけ最期まで自宅で暮らせるように支えるサービスです。家の形が一つひとつ異なるように、介護の形も一つひとつ異なります。

また、福祉は「社会的弱者を助ける」というのが基本発想ですが、私たちは介護も看護もサービス業だと考えています。ただ、サービスする相手が高齢者や身体が不自由な人たちというだけです。

サービス業であるからには、人と接するうえでの人間力は非常に重要です。人間力は、介護の仕事をしていなくても、生きていくうえで非常に役立ちます。そういう意味では、横浜福祉カレッジが育成しているのは、介護士という肩書きを持つひとりの立派な社会人といえるでしょう。

佐藤「いま嬉しいことに『お宅の学校の卒業生を、ぜひうちに来させてください』って言われることがあるんですよ。その声をどんどん増やしていきたいですね。『欲しい』と言われる人材をどんどん育てていきたいです」

そんな佐藤の次の目標は、介護に特化した看護学校をつくること。既存の看護学校は、病院で働く看護師を育成するためのものなので、在宅高齢者向けの看護師を育てる学校をつくりたいと考えています。

いまは、超高齢化社会。これから先、介護の現場における看護師のニーズは間違いなく高まっていきます。そのとき、本当に介護の現場で活躍できる看護師を育成することがきっと必要とされるでしょう。

人と接する仕事である限り、介護にしろ、看護にしろ大切なのは“人間力”。若武者ケアが学校をつくるならば、技術だけでなく、そういった人として大事なものもきちんと教える学校にするつもりです。

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