開発に関わる全員の意識をひとつにするために──作業内容を可視化

▲ウイングアーク1st株式会社 技術本部 ソフトウェアプロセス&品質改善部 高橋裕之(左)と内藤靖子(右)

高橋と内藤が所属するソフトウェアプロセス&品質改善部は、データ活用のテクノロジー企業であるウイングアーク1st株式会社が、開発している製品の品質を向上させるための部署だ。主な業務内容はふたつ。ソフトウェアの品質改善と、テスト工程を含む開発全般のプロセス改善である。

高橋 「ソフトウェアのテスト技術改革と、ソフトウェアプロセス改善により開発現場を継続的により良くしていくことで、弊社プロダクトの品質を向上するというのがわれわれのミッションです」

2020年現在高橋と内藤は、プロダクト開発における全工程を可視化する「VSM」(Value Stream Mapping)ワークショップの実施などにより、ものづくり活動全般のプロセス改善に関する取り組みを積極的に行っている。

内藤 「VSMは、プロダクトの企画、開発からリリースまでに係るステークホルダー全員を対象に行います。エンジニアだけでなく、マーケティング担当や営業、製品サポートや出荷の担当者が一堂に会して、それぞれがどういう業務を担当しているのかを、まずは付箋紙に書いてもらいます。それを開発工程のタイムラインを意識して模造紙の上に貼りながら整理していきます」

この作業はプロダクトの開発において自分たちがどんな役割を担っているのか、他部門はどのような役割を担うのか、そして各タスクが出荷された製品とどう結びついているのかを理解するのが最大の目的だ。

VSMによって工程ごとのリードタイムが明らかになり、自分たちのムダ・ムリに気付くことができる。そこまでわかれば、自分たちの改善アクションが立てられるということだ。また、ソフトウェア開発の活動のひとつに「ふりかえり」と呼ばれるものがある。毎日、1週間ごと、リリースごと……のように、さまざまなタイミングで行う。

内藤 「ふりかえりを行うことでメンバーが普段思っていることを発言する機会ができるんです。実際、ふりかえりを実施すると、皆さん率直に意見を出してくれます。

言葉にするだけでは空中戦になってしまうこともありますが、そういったときは書き出し、“可視化する”ことを徹底してきました。繰り返し行ってきたことで、みんなが同じ意識になって、やらなきゃという気持ちに変わってきているように感じます」

プロダクトのステージに合った開発プロセスに導けるエンジニアに

▲VSMワークショップで開発工程を書き出す様子

高橋がプロセス改善の取り組みを始めたのは5年前。当初は、一部のプロダクトから開始した。ウイングアーク1stは製販一体の会社であり、技術部門は、3つのソフトウェア開発会社が融合してできた企業である。プロダクトごとに培われた文化で、ものづくりが進められていた。

高橋 「入社した当時は、ひとりひとりが尖ったエンジニアで能力主義。もちろん、それ自体はすばらしいし、それぞれ自分の仕事をプロフェッショナルにこなしていました。

ただ、これからのエンジニアは、チーム力をもっと向上させないといけないと思いました。ソフトウェアの開発は、要件定義から出荷まで多くのプロセスがあり、ひとりでできることには限界があります。

プロセスを可視化し、ムダやムリを見いだし、チーム一丸となってプロセスを改善すれば、プロダクトの魅力や品質が向上します。個人の自律とチーム力を併せ持つマインドを、プロダクト開発に関わるすべての人に持ってもらうということが重要だと考え、これらの取り組みを行っています」

とはいえ、チームによって成熟度はまちまちで、プロダクトごとにステージも異なる。たとえば、生まれたばかりのプロダクトならば市場での認知度拡大に集中する必要があり、すでに認知度のあるプロダクトの場合には、新機能の開発や追加などに注力する必要がある。ソフトウェアプロセス改善はそういったことを見据えて考えなければならないのだ。

前述のようなVSMやふりかえりといった取り組みを積極的に行うことで、エンジニアの意識も変化し、チーム力も好転している。チームの輪ができ、現在ではチーム全体でプロダクト開発に取り組むといった雰囲気に変わってきていると言う。

高橋 「たとえばプロダクトが急速に売れ始めたら、お客様からの要望や期待の質や量が変化します。その変化に気付かない、または無視して従来のやり方を貫いてしまうと、製品の魅力を落としてしまうかもしれません。

職種上目の前の技術に集中しがちですが、そういうことを意識し、チームで話し合いながらやり方を変えていこうとチームの自律を高める働きかけに努めています」

プロセスの改善は品質向上だけでなく、働き方の改善にもつながる

▲ワークショップでのファシリテーターを務める内藤の様子

“チームで協力する”ことは、人手不足に悩まされていたソフトウェアのテストを行うQA(Quality Assurance)チームのプロセス改善にもつながっていると言う。

高橋 「今から1年ほど前、品質保証(QA)部門のマネジメントを任せられました。当時の QAチームは、プロダクトごとにグループが形成されていたこともあり、横の連携が希薄でした。一部のグループでは、慢性的な人手不足から残業が続き、外注への依存度の高さなど、多くの問題を抱えていました。

そこで真っ先に、QAチーム間の技術シェアとスキルトランスファー、密な情報交換など、相互協力体制を構築することに取り組みました。続けて、開発チームと協力してテストの自動化を拡大することでテストの質を上げることと並行して、外注への依存度を下げて、自社のリソースのみで品質保証の業務にとどまらず、品質の改善までもできるような体制を目指しました」

高橋や内藤が行っていることは、エンジニアをはじめプロダクトに関わるメンバー全員の自律心や問題解決の意識を向け、高めることで、結果的にはプロダクトの品質向上やコスト削減につながるということなのだ。

2020年は「ナレッジの共有化」のためのシステム構築がメイン

▲VSMワークショップで開発工程を整理する様子

プロセス改善の取り組みを始めて5年。当初は一部のプロダクトから始め、1年前からやっと全社的な取り組みへと拡大してきた。当面は、この取り組みを全社的に浸透させることが次のゴールとなる。

内藤 「ひとりで仕事をするのではなく、“チーム”でプロジェクトを進めることで、誰かひとりが抜けても滞りなく仕事が進むという状態をつくることが理想ですね」

そのために重要なことが「ナレッジの共有化」だ。チームごとに持っているナレッジを、他のチームと共有することで、より円滑に開発が進むようになるのが、IT企業としては理想的なのである。そのため高橋と内藤は新たなチャレンジを行っていると言う。

高橋 「今年は、社内に散らばっているナレッジを集約して、社内で再利用しやすいように公開するという取り組みを活動の軸に置いています」

プロダクト開発に関するナレッジ・ポータルサイトを作成し、社員が何か課題を抱えたときに、解決のための手段やワーク、使用するテンプレートなどを閲覧できるようにすることで、エンジニア一人ひとりの成長につなげることを目的としている。

さらに、ナレッジの共有化はエンジニアやリーダーがひとりで悩む時間を減らし、よりスムーズに仕事が行えることで、時間的な余裕が生まれると言う。ひとりで考え込む時間を減らし、その時間をそれぞれの技術向上のために充てられるようになれば、さらにレベルアップにつながるはずだ。

しかし、成長段階にあるチームではさまざまな問題が必ず発生する。そう考えると、プロセス改善という取り組みには終わりがない。ふたりは、最終的に目指すプロセス改善の姿をこのように語る。

内藤 「今後多くの社員が入社し、メンバーが入れ替わることもあるかもしれません。そのような場合でも今いるメンバーがこの意識を根付かせ、共有していき、各チームが自律的、継続的にソフトウェアプロセス改善をしていけるようになることです。そうなれば私たちの仕事はなくなりますね(笑)」
高橋 「究極的にはそうですよね。ウイングアーク1st内でいろいろな問題を自分事と捉え、チームメンバーが壁を越えて自律的に解決できるようになればハッピーです」

「ソフトウェアプロセス改善」を通し、自律したエンジニアの育成を目指すウイングアーク1st。今悩みを抱えるメンバーだけでなく、これからの世代を担う後進のためにも、継続的にプロセス改善を続けていきます。