キャリア20年の作業療法士が目指す、患者さんの“人生に寄り添う”リハビリ

作業療法士として20年のキャリアをもつ小林晃子。2017年現在、吉田クリニックの医師・吉田淳が理事長を兼任する城西神経内科クリニックで、患者さんのサポートをしています。身体機能の回復だけでなく「人生に寄り添う」リハビリとは。技術的な熟練だけではなしえない、難しい課題に取り組む彼女の挑戦を追います。
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“作業”を通して、患者さんを元気にするリハビリの仕事にあこがれて

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▲城西神経内科クリニック リハビリテーション科 部長の小林晃子

大阪と名古屋で、在宅医療を展開する吉田クリニック。神経難病の患者さんたちに寄り添う医師・吉田淳の理念を静岡エリアで体現しているのが、静岡県静岡市の城西神経内科クリニックです。同クリニックでは、神経疾患に力を入れた「外来診療」「外来リハビリ」「訪問診療」「訪問リハビリ」の4つの柱で、地域医療に貢献しています。

作業療法士の小林は、2000年に同クリニックに入職。セラピストとして20年のキャリアを積み重ねてきた彼女は、「作業」を通して患者さんの心と体を元気にする仕事にあこがれて、作業療法士になりました。

小林「高校生のときにボランティアで、老人ホームや重症心身障害者の方の施設に行く機会がありました。職員の方が『現場にOT(作業療法士)が欲しい』と話しているのを聞き、『OTってなんだろう』と思ったのが最初の入口です」

当時は作業療法士が少なく、いまにも増して医療現場で待ち望まれていました。小林は作業療法士になるための学校を卒業後、1995年に静岡県内にあるリハビリテーション病院に入職します。

小林「そこでは入院患者さんのリハビリと、退院前の訪問指導を行なっていました。ところがせっかく退院をしても、転んで骨折をしたり調子が悪くなったりして病院に戻ってくる患者さんがいたんです」

家に帰ってからの患者さんの過ごし方は、いったいどうなっているのだろう……。そんな疑問を抱いた小林。入院中のリハビリや退院前の訪問指導だけでは解決し難い、病院のリハビリの課題に彼女は突き当ります。

難病患者さんのリハビリを“外来”と“訪問”の両方から経験して見えたこと

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▲2007年ごろのリハビリスタッフの集合写真

セラピストとして患者さんをより深く支えるためには、患者さんの生活のなかで、一人ひとりと長く関わっていくことが大事なのではないだろうか。そんな思いを胸にした小林は、訪問診療や地域医療に関心をもつようになります。

彼女が城西神経内科クリニックと出会ったのは、ちょうどそのころでした。

小林「城西神経内科クリニックでは、当時から神経疾患の患者さんの訪問診療と訪問リハビリを行なっていて、セラピストは外来と訪問の両方のリハビリを担当していました」

入職して2、3年目。クリニックの訪問診療チームの一員として訪問先に出ていたときに、小林は忘れられないできごとに直面します。

訪問先でいつものように患者さんの施術を行なっていると、そばで見守っていた奥様がクリニックのスタッフや介護スタッフとの思い出を語りはじめたのです。

小林「チームで関わっていた難病の患者さんでした。患者さんの誕生日にスタッフがベッドの周りに集まり、歌を歌ってお祝いをしたり、旅行に行ったスタッフの話しを聞いたり、苦戦しながらナースコールを工夫したり。最期が近いことをなんとなく感じていたのかもしれません」

意識の薄いご主人に語りかける奥様の話に耳を傾けながら、患者さんとの関わりの一つひとつが信頼関係につながってきたことを実感した小林。心に寄り添うとは、こういうことなのかもしれないーー。ひとりの患者さんに、長くじっくりと関わることの大切さを肌で学ばせてもらった瞬間でした。

小林には、長くひとつのクリニックで外来リハビリと訪問リハビリの両方を経験してきたことで、感じることがあります。

小林「外来のリハビリで機能が回復した患者さんが、数年後に再びリハビリが必要になることがあります。そのとき、以前よりも病気が進行したり筋力が低下したりして外来が困難だったとしても、今度は訪問で患者さんを支えることができるんです」

必要とされるときに、患者さんの人生の折々でセラピストとして関わることの意味。彼女は人生に寄り添うリハビリについて考えるようになります。

難病患者さん同士のリハビリにどう向き合うのか――突きつけられた命題

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▲小林(下段左)とリハビリスタッフたち(2017年現在)

2017年現在、小林は城西神経内科クリニックのリハビリテーション科の部長として、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士からなる総勢20人以上の部署を束ねています。

クリニック内で難病患者さんのリハビリを行う話が持ち上がり、小林は、その立ち上げに関わりました。2016年からパーキンソン病の患者さんを対象にした「難病リハビリテーション」をスタートさせたのです。

小林「グループで実施するリハビリで、毎週水曜日に6時間のプログラムを行なっています。2017年現在は12~13人の患者さんが通われていて、毎回楽しみにしてくださっている方が多いようです」

うれしそうな笑顔を見せる彼女ですが、現在のかたちになるまでには苦労もありました。

パーキンソン病は、手足の震えなどの運動障害が生じる原因不明の病気です。患者さんは心と体に負担を抱えながら長く病気と付き合っていかなければならず、周囲からは理解が得られずにつらい思いをすることも多い病気です。

そのつらさを受け止め、患者さんの負担を少しでも減らせるようにするために、どんなことをしたらよいのだろうか。進行の度合いも症状も一人ひとり異なる患者さんのグループに対し、みんなで一緒にできるリハビリって何だろうーー。

難病リハをはじめてからも悩んでいた彼女にアドバイスをくれたのは、ほかでもないパーキンソン病の患者さんでした。

小林「患者さんで訪問看護に従事していた方がいて、看護師と患者の両方の立場から、いろいろな提案をしてくれました。パーキンソン病の患者さんのなかには、手足の筋肉がこわばったり、転びやすくなったりして外出が困難な人もいます。それでも『みんなで1㎞くらい外を歩くのもいいよね』という提案から、クリニックの周辺へ散歩に出かけたこともありました」

そのころよりも病気が進行し、グループのなかにはひとりで外に出ると転んでしまうので、介助が必要になった患者さんもいます。

小林「難病の患者さんに、『よくなるために頑張りましょう』というきれいごとはいえません。難しい命題ですが、患者さん同士が楽しく前向きに参加できるプログラムを考えて、難病リハを運営していくことが人生に寄り添うことになるのかなと思っています」

患者さんの社会復帰や社会参加にも力を入れて、人生を支えるリハビリを

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▲意欲的にリハビリを行なえるように、イベントプログラムを季節ごとに工夫している

小林は自らを「生活密着型」のセラピストだと分析します。家のなかでトイレまで歩いて行けること、水道まで転ばずにたどりつけること。患者さんと一緒に生活のなかの小さな目標を大切にしたいと思っているからです。

やる気にさせてぐいぐい引っ張るばかりではなく、ときには一歩引いて患者さんが自発的に動けるようにするなど、一人ひとりに合わせたオーダーメイドの訓練を心がけています。

そんな小林には、気にかけている患者さんがいます。高次脳機能障害の症状によってバイクに乗れなくなり、配達の仕事を休職せざるをえなくなった男性です。

小林「この方は軽い麻痺があり、ご本人はすぐにでも仕事に復帰したいと望んでいます。でも配達物を仕分けるなどの細かい作業にも支障があるため、2017年12月現在は、外来で現場を想定した訓練を続けています」

リハビリの甲斐あって男性は職場への2週間のお試し復帰までこぎつけ、2018年春ごろの本格復帰をめざして職場の人と調整中です。

また、脳血管障害で装具と杖を使っていた20代の女性は、2年ほど外来リハビリのチームアプローチ(さまざまな専門職が連携して治療にあたる)を続け、装具なしで歩けるようになりました。

小林にとって、患者さんの社会復帰を見届けられるときが、作業療法士として何よりの喜びです。

最近は、リハビリ科の仲間と就労を継続支援するためのお茶会にボランティア参加するなど、周囲との交流や情報交換も図っています。

今後は地域の就労支援施設の人たちとも深くつながって、患者さんの社会復帰や社会参加を支える活動にも重きをおいていきたいと考える小林。

患者さんの人生に寄り添い、人生を支えるリハビリを実践するために、彼女の挑戦は続きます。

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