ダンサー以上の「アーティスト」として海外で通用する人材を育てるために

「さぁ鹿になったつもりでジュッテしてみよう!」。こんなふうに英語で日本人の子どもたちを指導するのはアメリカ人ダンサー、ジュリアン・ジョンソン。国際的に活躍する若者を育成するユースシアタージャパンのダンスレッスンの1シーンです。日本にいながら国際レベルのダンスレッスンが日々おこなわれています。

日本にいながら、世界レベルのレッスンが受けられる

▲YTJダンス講師のジュリアン・ジョンソン

海外での公演も積極的におこなうユースシアタージャパン(以下、YTJ)のダンスレッスンは、講師陣の国籍もさまざま。

だからコミュニケーションも基本は、英語です。在籍する幼稚園児から大学生の子どもたちは、年齢に関係なくダンスのテクニックや表現力はもちろん、英語の対話能力も身につけられます。

ダンス講師のひとりであるジュリアン・ジョンソン(以下、ジュリアン)は、英語でダンスの専門用語などを覚えることは、将来海外で活躍するときに活きるといいます。

ジュリアン 「海外でダンスレッスンを受けるときはもちろん、海外のプロデューサーがある日突然やってきてオーディションのチャンスが訪れることもある。そんな時、きちんとプロデューサーや指導者の言葉を理解できれば、自分の能力を最大限発揮して、成果を出せます」

日本にいながら、あたかも海外でレッスンを受けているようなYTJのレッスン。

最初は、英語の意味がわからなくても、まず単語として耳に入り、次にその単語とアクションとがつながって、意味を理解する。何度も同じ言葉に触れ、点と点がつながって、“生きた言葉”として定着していくーー。これが狙いなのです。

幼稚園児から大学生まで幅広い年齢層が学ぶので、もちろんレッスンで重視することは年代によって異なります。

ジュリアン 「小学校4年生ぐらいまでは、テクニックより体を使った豊かな表現力に重点をおきます。
子どもたちが自由にイマジネーションを膨らませられるように、想像力をかき立てるような指導を意識します。たとえば、“鹿になったつもりでジュッテしよう”と声をかけるのもそのひとつ」

中学生になるとテクニックを中心に、ダンスのコンセプトを理解して踊れるように。さらに成長して高校生になると……、今度はもう一度“表現力”にフォーカスします。

そこには、日本人独特の個性に理由がありました。

表現するということに、自分自身が、どれだけ踏み込んでいけるか

▲日本特有の文化的な背景も理解しながら、子供たちとどう向き合うか考えます

優れたテクニックを持っているのに、それを表現する力と合致していない——。

それが日本の高校生の特徴だと、ジュリアン。日本特有の文化的な背景に起因するのではないかと感じています。日本では協調性という視点も含め、ある種、周囲と同じであることが美徳とされる傾向があります。

ただ、個人が感じたことを表現する場合、必ずしも同じものになる必要はありません。同一性を重んじる文化のなかでは人と違いすぎることは、ときにはマイナスにもなりえるのです。

ジュリアン 「高校生ぐらいになると、学校という世界での立場が重要になります。人と違う表現は、からかわれる原因になったり、自分の立場を脅かしたりすることにもなりかねません。それが自由な表現を邪魔していると思うんです。
だから、まずはテクニックと表現力を一致させるために、いかにイマジネーションを使うか、いかに自分自身に踏み込んで表現できるか、そこを高校生たちには教えるんです」

表現の殻を破るために子どもたちの前で、ジュリアンはあえて120%のオーバーアクション、パフォーマンスを自分自身が体で表現します。

指導者である前に、自身もパフォーマーであるジュリアンは「指導者が80%のパフォーマンスしか見せられなかったら、子どもたちがそれを越えることはない。指導者のクオリティが高ければ高いほど、子どものたちの伸びしろは広がっていく」と考えているからです。

さらに、ジュリアンは「テクニックを教えることに長けている指導者はたくさんいるけれど、本当の意味で、“プロフェッショナルなダンサー”になるために必要なものを教えられる機会は、実は少ない」といいます。

それは、けっして日本国内だけのことではありません。ジュリアンがそれを学んだのは、バレエ学校で出会ったあるひとりのアーティストからでした。

ダンスのテクニックではない、プロフェッショナルとして必要なこと

▲日本の子供たちに教えるときに非常に役立っているのがアメリカでキャンプカウンセラーとしてダンスを教えた経験

ジュリアンの考え方に、大きな影響を与えているのはバレエ学校時代の恩師。ニューヨークシティバレエ団のソリストとして活躍していたダンサーです。

ただ単純に踊るのではなく、そのダンスの背景にあるストーリーを表現することを教えてもらいました。それは「ダンサー以上の“アーティスト”としての表現力」だと、ジュリアンは認識しています。

ジュリアン 「たとえば、オーディションを受けるために自分に必要なテクニックは何かを、プロフェッショナルのダンサーは知る必要があります。
なぜ、こんな課題が与えられるのか。その課題を、どんな目的で、どんな理由で、自分は表現するのか。オーディションを通るためには、どんな心持ちでいるべきか。
プロのアーティストなら、それらを自分で考え答えを導き出します。高校生の子どもたちにとって、世界で活躍するなら非常に重要な要素です。これは、どこの教室でも教えられているものではありません」

ジュリアンは、アメリカでも子どもたちにダンスを教えていた時期があります。プロのダンサーになったばかりのころ、公演の合間の3カ月間、キャンプカウンセラーとして大勢の子どもたちにダンスを教えました。

そこでは大勢の講師たちとの出会いもあり、さまざまなダンスレッスンの手法を知るきっかけにもなりました。その経験はいま日本で子どもたちに教えるときに非常に役立っています。

しかし、アメリカでダンスレッスンを受ける側、教える側と両方を経験したジュリアンは、YTJのレッスンにはアメリカにはない、ひとつの大きな“違い”があるといいます。

教える、そして、教えられる。双方向で影響し合える高次のダンスレッスン

▲教えるだけではなく、ジュリアン自身も日々のレッスンで子供たちに教えられていることが多い

YTJのレッスンにしかないもの、それは“教えること”と“教えられること”の双方向の関係性です。

ジュリアン 「YTJでは単に教えるだけではなく、私も日々のレッスンで教えられているという要素が非常に多いんです。
たとえば言葉をひとつ取っても、私が英語で教えるだけでなく、子どもたちから“この表現は日本語でこんなふうにいうんだ”と、逆に教えられることもあります。子どもたちとのコミュニケーションをきっかけに、こんなレッスンをしようと発展することもある。
自分が“教える”側に立つことで発見できることは多くあると考えています。YTJのレッスンでは、子どもたちの側にも“教える”ことが自然発生的に生まれるんです。先生と生徒ではなく、パートナーといっていい。この関係性は、YTJ独自だと思うんです」

ジュリアンは、YTJで素晴らしいのは、アートを通して文化交流できる点だと思っています。子どもと私たち指導者、スタッフだけの交流だけでなく、目標はYTJの活動がもっと広がり、国籍を超えて子どもたち同士が直接交流を深められるようにすることです。

2018年5月には、18歳以上の若者がエンターテイメントのプロとして活躍できる組織「YTJプロ」がスタートしました。ジュリアンは、YTJプロが、日本の子どもたちが世界へ羽ばたいていくプラットフォームに成長させたいといいます。

ジュリアン 「単純に公演やレッスンを通じて世界中のアーティストと出会い、体験するだけでなく、YTJプロのメンバーとしていろんなものを吸収して、スキルを磨く。
そしてそれをもち帰ってもらいYTJプロという組織としても成長させたい。そんなアーティストのプラットフォームにしたいと思っています」

そんな想いを胸に、今日もジュリアンのダンスレッスンは続きます。

ダンスというアートを通して心の交流ができる、世界で認められるプロフェッショナルなアーティストを目指して。

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